ひみつのキスをして?

□忘れられたと思ってたのに
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雨が降っている。
しかも結構な音がするくらい、
大きな雨粒。

雨が降る日は決まって、
彼のことを思い出してしまうから、嫌。


別れることになった日も、
ひどい雨の夜だった。



別れようって言ったのはわたしで。

別れたら、楽になれるんだと
そう思っていたけど、

結局は、苦しくなることが多かった。

逆にこんなにも、彼のことが好きだったということがわかって。


どうしたらよかったのか、
別れるという選択肢が、
本当に正しかったのか、


今でもいろんなことを考えてしまう。



"考えたって、どうしようもない"

それが答えだって、自分
に言い聞かせるようにして、
また、ため息をついた。


やみそうもない窓の外はぼんやり見つめていると、

突然、インターホンが鳴った。





「名無しさん」



ドア越しに、聞こえる聞き慣れた声。


驚いて鍵を開けると、
そこには、びしょ濡れになったジュンの姿があった。





「ジュン、どうしたの」


「雨降ってて、濡れちゃった」


「そうじゃなくて、なんで」



"わたしの前に現れたの?"



そう言おうとする間もなく、
強く抱きしめられた。



「ごめん、ずっと名無しさんに会いたくて、」


声が掠れている。
きっと泣いてるんだろうってわかった。


「こんなの、俺ずるいってわかってるけど、名無しさんしかいないんだ」



さらに、抱きしめる腕の力が強くなった。

懐かしい、感触がよみがえる。
思い出すことが多すぎて、
涙がこぼれそうになった。



「名無しさん、まだ好きなんだ」




一度、抱きしめる腕を離して、
わたしをしっかりと見たジュンは、


唇をそっと重ね合わせるようにキスをした。






「ずっと、待ってたんだよ…?」







忘れられたと思ったのに
(雨音とキスの感触で、)
(すべてが、よみがえった)









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