彩加のひとしずく(更新中)

□弐
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 どことなく覇気のない様子はリオンも感じていたのか、今度は彼がグレイの下瞼に指を伸ばした。優しい手つきで瞼の裏の色を確認し、リオンはそのまま自然な仕草でグレイの鞄を取り上げる。

 抵抗もせずにぼんやりとしていたものの、グレイはようやくリオンの意を察したのか軽く眉を潜めた。

「おい、演劇部にステージ借りてんだぞ」

「台詞だけならベッドの上でも合わせられるだろうが。それよりも土日に主役に倒れられる方が深刻だ」

 一応自覚症状はあったらしい。疲れたように両目を閉じたグレイは、細く溜めた息を吐き出した。

 体の横に垂れた手をとられ、グレイはリオンに引かれて歩き出す。二人の後ろ姿を黙って送り出してやることにしたナツに、リオンが足を止めて振り返らないままぽつりと零す。

「頭も回らない非常識者だと思っていたが、これで昨夜の分はなかった事にしてやろう」

「ほんっと偉そうだなおまえ!」

 思わず肩を怒らせ叫ぶが、ナツはグレイが視線だけでこちらを振り返ったことに動きを奪われた。

 いつも無関心にナツを見返していただけだった黒瞳が、わずかに揺れているように見えたのだ。それはまるで、見定めるような、躊躇うような――。

 二人の姿が校舎に消えた後で、ナツは胸あたりの制服を強く握りしめた。

「おまえ……」

 言葉が出ない。繊細な心の機微には疎いナツが、その瞳だけでグレイのなにかを読み取れるわけもなかった。

 それでも、感じ取ることはできる。

 ナツは校門近くにある職員用駐車場で、担任の車がもう停まっていることを確認する。グレイのことをこの校内で良く知っているのは、あのリオンという男以外では彼以外思いつかない。

 本人以外に話を聞くのは性格的にあまり好まなかったが、グレイとリオンの中には完結した空気がある。恐らくグレイはリオン以外に理解者など必要としていないのだろう。

 だがグレイが、初めて自分からナツを見た。

(あんな目で見られて、諦められるわけねえだろ!)



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