ロング

□狙われた天使
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※来神


「シズちゃんおはよ、今日も綺麗だね」
「……」
めんどくせえ、そう顔に出していたのにコイツは相変わらず笑顔を向けていた。
俺と折原が出会って一週間。たったの一週間だ。なのに俺は折原臨也が気に入らなかった、と言うより鬱陶しかった。
会ったその日から毎休憩、登校、下校をずっと付き纏ってくる。この間は授業にまで参加しようとするので強く反抗した。授業中まで居られると正直ウザい、殴りたくなる。
しかも変なあだ名までついてるし。
「ねえシズちゃん、そろそろ寄り道して帰らない?」
「絶対やだ」
「そんなこと言わないでさー」
「い・や・だ」
コイツとは絶対に関わりたくない。誘われても一度も行ったことはない。
「ガード固いなあ。今日も家までにしとくよ」
出来れば来てほしくない。前に気付かれない内に帰ろうとしたら後ろから体当たりを喰らった。やった本人の方が痛いと言っていたがこっちは迷惑極まりない。もう少しで道路に倒れ車に轢かれるところだった。その時も笑っていた。
「手前はいつも笑ってんな」
「シズちゃんがいるのにムスッとした顔出来ないでしょ」
「そうかよ」
「聞いといて反応薄、まあいいけどさ。シズちゃんから話しかけて来ることなんて滅多にないし」
たいしたことを言ったわけでもないのにこの喜びよう、ずっと一緒にいてとくに話しをするわけでもなく、何で隣にいるんだ?コイツがいう"好き"って何なんだ?
「もう着いちゃった、シズちゃんといるとすぐに時間が経つなあ」
家から学校まで歩いて20分程度、毎日家の前で待ってる折原はストーカーのようだった。
「じゃあねシズちゃん、また後で」
「え」
いつも教室までついて来る折原が靴箱で分かれるのが珍しくつい声が出てしまった。
「今日日直なんだ。送れなくてごめん」
「いいからさっさと行け」
「はいはい、じゃあね」
急ぐこともなく自分の教室へと向かった。やっと一人になれたとため息をはいた。
「ため息すると幸せが逃げちゃうよ。それにしても静雄は毎朝早いなあ」
突然現れた友人に肩が大きく跳ねた。
「そんなに驚かないでよ、僕は普通に話しかけただけなのに」
「いつも遅いお前がいると思わないだろ」
「確かにそうだ、いつもならこの時間セルティに見送りをしてもらい学校へ行くのを躊躇っている時だ。でも今日は残念ながらセルティは仕事で朝私が目を覚ます前に出掛けてしまった。それを知らされてなかった僕はセルティを起こそうと部屋へ向かったが中は静まりかえっていた。まさか誘拐!セルティの魅力に犯罪が!って思い携帯を片手にセルティに電話をしようとしたら机の上に手紙が置いてあるのに気付いたんだ。"仕事が入った。気持ちよさそうに寝ていたから起こさずに行くが学校にはちゃんと行け。夜までには帰る"って、誘拐じゃないことに安心したけど朝からセルティに会えない寂しさに学校に行くのを躊躇ったけどセルティがわざわざ俺のことを気遣ってくれたのに休むことなんて出来ない!でも家にいてもしょうがないから学校に来たんだ。静雄聞いてるかい?」
「ああ」
長い話になると思い最初から聞いてはいない。でも下手に止めると更に長くなってしまうので、黙っていた。
「臨也はいつもいつ頃来るの?僕が来た時にはもうベッタリだけど」
「朝家の前で立ってる」
「え、そうなの?じゃあ一緒に登校を?」
「仕方なくな」
「へー珍しい、というより初めてかな?臨也が誰かと一緒に登校するの。あいつ彼女を作っても会いに行こうとしないし帰る時も一人で帰ろうとする。まあ彼女がいつも追い掛けて一緒に帰るんだけどね」
初めて知った。初日から積極的に一緒に帰ろうとか朝いつ頃来るのとか色々聞かされたから他の奴らにもそうするのかと思っていた。そう思うとなんだか照れ臭い。
「だからあんな噂が立つんだなあ」
「あ?何だよ噂って」
「静雄はそういうの興味ないもんね。実は臨也が静雄に本気で迫ってるって噂があるんだ。今まで付き合ってた彼女が言ってることなんだけどまあ殆どの女子ってことだね、私にはあんなに優しくなかったって広まってるらしいよ」
「……頭おかしいだろ」
だいたい男同士で付き合うのが全くないにしろ俺は絶対ない。俺は誰かを好きになったら駄目なんだ。
「確かに臨也はオススメしないなあ。性格最悪だし」
新羅も臨也が本気でないのがわかっているため平気で言っている。
「その臨也は今日いないんだね」
「日直だと」
「日直ねえ…いつも人に押し付けてるのに。何を考えてるのか」
やたらと詳しい新羅に疑問を持ったが、尋ねることもせず適当な返事をし教室に向かった。



「シズちゃんと新羅って仲良すぎだよね」
「そうかな?普通だと思うけど」
「だってお互いのことよくわかってるし」
昼飯の時間になりいつもの屋上でのんびりとしていた。ずっと喋っている折原が変な質問をし顔を歪めた。
「手前と新羅も同じだろうが」
「そうかなあ?まあ中学が一緒だったからある程度は知ってるけど」
「臨也は噂が多いからな、本人から聞かなくても情報は入ってくるよ。で、臨也は何が言いたいんだい?」
「ムカつく」
「なんだ、ただの嫉妬か」
「そう嫉妬。悪い?」
「いや。ただ静雄が可哀相だなって」
「なんでだよ」
二人しか会話をしてないが内容はちゃっかり聞いていた。何故か俺の話題で盛り上がっているのも、聞くだけだ。
「シズちゃんは俺だけのものにしたいの。新羅と仲がいいのは気に入らない」
「面倒だなあ君は。よいしょ、俺は優しいからね、今から二人きりにしてあげるよ」
「は?」
そこでやっと声が出た。こいつと二人きりだと?
「俺も教室にもど」
「お言葉に甘えてそうさせてもらうよ」
ガッシリと掴まれた手により逃げることが出来なかった。
「静雄!もし襲われそうになったらちゃんと身体を護るんだよ!」
「っ、誰が!」
襲われるなんて絶対ありえない。力は強いし体格差もかなりある。そして男の俺を襲うはずがない。
「新羅も馬鹿だねえ。学校でヤるほど切羽詰まってないっての。シズちゃんを意識させるには十分だけど?」
手を握られ鳥肌がたった。どこまでが本気かわからないから対処に困る。全部嘘だろうけど。
「離せ」
「いや」
「殴るぞ」
「できるものならどうぞ」
暴力が嫌いと知ってか平気で言ってのけた。殴られたがっているやつを殴るのは癪に障る。
「チッ」
「そんな顔しないで、せっかく二人になったのにもっと喜びなよ」
「手前と二人になってもいいことねえよ」
「そうかな?皆は抱き着いたりして大喜びなのに」
「俺は手前の思い通りにはならない」
「そうみたいだ。じゃあ、」
言いかけて続きを言わない折原は、気付けばすぐそこにいた。
「シズちゃんも驚くことしてみるよ」
言うと同時に唇に触れた温かい感触、数秒だけのキスを折原は何度も繰り返した。
「反応なしかー。まあいいや。本当はもっとしたいけどシズちゃんに嫌われたくないから、これ以上はまたの機会にするよ」
折原が口づけをしている間、俺は何が起きたか分からず目を開いたまま固まってしまった。折原が言った言葉も理解出来なかった。
「シズちゃん大丈夫?男にされたのは初めてかもしれないけどそんな固まるほど…もしかしてキスしたのが初めてだった?」
「…っ、」
言葉にされてようやく実感した。折原にキスされたと。
「てめっ、何す」
「顔真っ赤。図星だ」
「〜〜〜っ!」
俺は堪らなくなり折原の肩を押しやりその場から逃げた。こんな羞恥初めてだ。
バタバタと階段を下り転び落ちないように気をつけるしか出来なかった。
「あーあ、行っちゃった」
一人屋上に残された臨也は静雄にしては弱い力で押された肩に手を当て呟いた。
「思い通りにいかないな…でも、もう一押しかな」
口端を上げる、その顔は女を弄び最後に嬉々として裏切る、何か企んでいるときの表情だった。





狙われた天使(悪魔の誘い)
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