ロング

□狙われた天使
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※来神



来神に入学してすぐのことだった。獲物を捕らえるような深く紅い瞳で、わざとらしい笑みを浮かべる折原臨也に出会ったのは。
最初はただすれ違っただけだった。新羅と他愛のない会話をして廊下を歩いていた時だ。前を歩く黒い姿に視線がいってたまたま目があった。
ただそれだけだった。舌打ちもしてないし睨んでもない、笑顔を向けたわけでもない。

それなのにだ、横を通り過ぎようとした時、突然腕を掴まれ振り向かされた。

「君、何て名前?」
「…はあ?」

いきなりこれだ。喧嘩でも売ってるのかと思い切り睨んでやった。
「そんな睨まないでよ、綺麗な顔が台なしだ」
シワの寄っていた眉間に指を押し当てニコリと微笑んだ。
「俺は折原臨也。君は?」
「…平和島、静雄」
「静雄くんか、会っていきなりで何だけど、どうしても言いたいんだ」
「なんだよ」
会っていきなり言うことなんて決まってる。この身長で派手な色の髪をしていれば声を掛けてくるのは不良やチャラチャラした男が生意気やら調子に乗るなと罵声を浴びさせられるくらい。
こいつは真面目そうに見えるが一緒に連れている女が美人で、遊んでいるのなら今までの奴らと同類だ。また苛立つことを言うに違いない。
そう思っていたのが。

「静雄くん、俺と付き合おうか」

「……」

これだ。なんだその誘い方、もしも友達になろうとかそんな意味合いだとしたら、こいつは馬鹿に違いない。
付き合おうなんて、男同士で言うことじゃない。

「断る」
「なんで?」
「友達になりたいなら他所を当たれ、俺に関わるな」
「友達ね。俺はもっと深い関係になりたいんだけどなあ」
意味もなく腰を抱き寄せられ鳥肌が立った。振り払おうと手に力を入れるが、制止の声に止まった。
「力んだまま払うと相手が吹っ飛んじゃうよ。臨也も諦めなよ、静雄は頑固だからね」
「なんだ新羅も居たの、二人は知り合い?」
「親友だよ、ね」
「ああ」
学校での唯一の存在、新羅がいなければ俺は学校で笑うことは出来なかっただろう。
新羅に知り合いがいたのが驚きだ、俺が言うのも何だが変わった性格をしているため、近寄るものは限られる。
「じゃあ俺は特別になりたい。静雄くんの特別な存在に」
「うぜえ」
しつこいやつは嫌いだ。苛々する。
なんと言われようと友達にはならねえ。
「臨也、多分静雄には通じてないと思うよ」
「ここまで言ってるのに?鈍感ってこと?」
「誰が鈍感だ」
「その通りさ。静雄を手に入れたいなら率直に言わないと」
「何が言いたいんだよ」
二人して人を馬鹿にしやがって。俺だって傷付くんだぞ。
「なら率直に言うよ。静雄くん、俺は君に惚れた。つまり好きってこと。だから付き合ってほしい」


……
やっぱり頭がおかしいのか、惚れた?好き?
どうせ見た目だけだろ。
新羅が言うには俺の容姿はいいとのことだ。自分ではそんなこと思ったことないけど、この髪のおかげで大分目立つようになった。俺が化け物と知ったらこいつだって離れていくに違いない。
「断る」
「どうして?俺が男だから?この世の中同性で付き合っている人は沢山いるよ?」
「いるとしても、手前とは関わらねえ」
軽い力で振り払い廊下を歩いた。授業も受ける気がしなく、屋上でサボることにした。
「振られちゃったね臨也」
「ほんと、きっぱり言われたのは初めてだ」
「男に言ったのも、だろ?」
「まあね」
「ちょっと臨也どういうことよぉ。男にあんなこと言うなんてぇ」
隣にいた女子生徒は臨也の腕に絡み付き谷間を強調する胸を押し当て、高めの声で問う。
「君もういいよ」
「え」
「別れよ。俺相手見つけちゃったから」
「相手って、さっきの金髪?冗談やめて」
「俺は冗談は言わないよ。第一君の名前すら覚えてないしね」
「…いや、別れるなんて絶対嫌よ!わたしは臨也を心からっ」
「さようなら」
「待って、臨也ぁ!」
泣きながら臨也に縋り付くが女相手にお構いなしに言い静雄の後を追った。新羅は後ろについて行く。
「相変わらず酷いなあ」
「最初から彼女には言ってあったんだ、了承の上。まあ彼女は自分に自信があったんだろうね」
臨也は人間を愛している。
その中でも綺麗なものは手に入れたいと思ってしまう。学校で美人と言われている女子、全員手を出すほどに。
それは簡単に臨也の虜になってしまう。自分が何もしなくても自然と寄ってくるので簡単なことだ。さっきの彼女もそうだ。ただ外見がいいなと思い、目があった瞬間微笑んだだけ。それだけで大抵の人間は寄ってくる。男女関係なく。
だが静雄はそうはいかない。男であるし静雄が人に近付こうとしないため、臨也の告白も無駄になったのだ。
「どうして静雄なの?」
「もちろん綺麗だからさ。あんなに綺麗な人間は見たことない」
絶対手に入れるんだ。

新羅はここまで浮かれている臨也を見たことがなかった。
まさに良い標的を見つけたような。
新羅は標的にされた静雄が可哀相に思えた。




狙われた天使


(さーてどうやって振り向かせようか)
(程々にね)
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