ショート

□深い闇
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いつからこんなことになった
この力が生まれてから喧嘩が目立つようになった
それでも暴力は嫌いだ。振るいたくない
でも周りがそうさせてくれない
俺は静かに暮らしたいのに
何でこんな力があるんだ

喧嘩をする度そう思った。
周りには沢山の不良が倒れている。
人気のない路地裏に座り込み膝に顔を埋めた。

もう嫌だ。


一年に何回か、俺は自暴自棄になることがあった。暴力を振るいたくない、静かに暮らしたい…誰かに愛されたい。
一日そのことばかりが頭に浮かび、仕事どころではない。トムさんには体調がすぐれない為休むと言ってある。
様子がおかしいことに気付いていたのか、トムさんはすんなり了承してくれた。
向けてくれた笑顔に胸が痛み、思わず死んでしまいたいと思った。
自分のせいで迷惑がかかる、いっそのこと誰か殺してほしい。


カツッと、誰かの足音が聞こえた。

まだ気絶していない奴がいたのか、面倒だな。
今の状態を見られたくない。池袋最強と言われている平和島静雄がうずくまっているなど、誰かに知られたらそれを狙って襲い掛かる奴らが現れるかもしれない。そいつらの相手をしないといけないのが面倒だ。
そして大嫌いなアイツも様子を見にくるかもしれない。
近づく足音に拳をギュッと握った。

「シーズちゃん、なにやってるの」

ビクッと肩が揺れた。まさかコイツが現れるとは思いもしなかった。そこらに転げている不良たちなら未だしも、コイツ相手に殴りかかっても避けられだけ、みっともない顔を見られるだけだ。
黙って立ち去るのを待った。
だが臨也は離れるどころか近づいて顔を覗こうとする。
「泣いてるの?」
「泣いてねえ」
「声震えてるよ」
反射で答えてしまいバレてしまった。
俺のばか。
「どっか行け、殺すぞ」
「殺されるのはごめんだけど、今のシズちゃんには俺を殺せないよ」
不意に頭に触れられた。優しい手つきで撫でられ顔を上げてしまった。
目が合い一瞬驚いた顔をした臨也だったが、すぐあの笑みを浮かべた。
「調子狂うなー、ちょっと虐め過ぎた?ここ一週間毎日喧嘩だったから疲れちゃった?」
流れていた涙を指で拭ってくれるが止まる気配はない。それにこんなに近くに臨也がいるのにイライラしない。
コイツなら、大嫌いな臨也なら、俺のことを殺せる。
「臨也……殺せ」
「、何?」
「俺を殺せ、今なら避けたりしねえから」
「ちょっと何言ってんの、自分の言ってる意味わかって」

「わかってる!だから言ってんだ!俺はもう生きていたくない!こんな力、皆に迷惑かけるだけの無駄な力、コントロールだって出来やしないっ、喧嘩だって、俺は嫌いなんだ!なのに毎日毎日、知らない奴らばっかり来て、もし殺したら、もし関係ない誰かに当たって怪我でもさせたらっ、もう嫌だ……こんな力、無くならないなら俺は生きていたくない」

溜め込んだ気持ちが一気に溢れ、まくし立てながら臨也にしがみついていた。
「…俺は今のシズちゃんを殺すつもりはない。だってこんな弱い君を殺しても達成感がないからね。どんなに頼まれてもそれだけは聞けない。それに」
一旦言葉を区切り、しがみついていた俺を優しく包みこんだ。
「君が死んだら首なしや弟くんが悲しむんじゃないの?」
セルティ、幽…本当に俺が死んだら悲しんでくれるのか?
親しくしているセルティや幽、トムさんも大事な人だが、それは俺が思ってるだけで幽達はそう思ってないかもしれない。
「誰も、俺のことなんか…」
「君みたいな化け物にわざわざ近づく物好きはそうはいないよ。新羅だってドタチンだって、離れようと思ったらいつでも出来るんだ。学生の時だけなら未だしも今でも話しかけてくれるんだから」
「それは俺の力が怖いからっ」
「本気で思ってんの!?君は確かに喧嘩は強いけど身近の人には手は出さないだろ!いい加減自己嫌悪するの止めろよ!」
臨也の叫びが鼓膜を刺激した。こんな風に声を荒げる臨也は見たことがなかった。いつも冷静で冷たい言葉で罵って、その度に傷ついてきた。
その臨也が俺にこんな言葉をくれてる。
「…俺、励まされてる?」
「認めたくないけどね。こんなシズちゃんは見てられない。張り合いがないのはつまんないから」
「手前って、かっこよかったんだな」
「……は?」
今までに見たことない臨也を見て不意にそう思った。
「顔は前から良いとは思ってたけど」
「あぁ…え、うそ、思ってたの?」
「性格が最悪過ぎて顔が良くても意味を成してなかったけど」
「…けなしてるの?それとも褒めてくれてるの?」
「でもさっきのお前は嫌いじゃない。ちゃんと人間らしいところもあったんだな」
「うん、ちょっと傷ついてきたよ、俺の言葉はとことん無視なんだね」
「少しだけ、見直した」
「……そう」
思ったことをそのまま言っただけだ、でも臨也は困ったようだった。
落ち着きを取り戻し、だんだん眠気が襲ってきた。
気持ちが不安定になると眠りにつけなくなっていたのだ。浅い眠りで嫌な夢を見る、それが嫌で寝不足状態が続いていた。
何日か経つと気持ちが落ち着き一気に睡眠を取っていたのだが、それが今来たらしい。
臨也が何かムカつくことを言っていたが、眠気には勝てず深い眠りに入った。


「…ん、」
目が覚めた時には自分の部屋にいた。臨也が運んだのかと思ったがそれはありえない、倒れてたところをセルティが見つけてくれたのだろうと考えた。
時間を確認しようと携帯を開く。夜中の2時だった。
暴れたのが朝の10時だったから12時間以上寝たことになる。
体の怠さはそのせいか。
そのかわり気分はスッキリしていた。

気持ちをぶつけたからか、いつも残るモヤモヤ感はなかった。



深い闇


(次臨也に会うの気まずいな)




病んだシズちゃんが書きたかったんですが、臨也がめっちゃいい人になってしまった。
まああたしの中の臨也はシズちゃんには甘い設定なので仕方ないっすね。

部屋まで運んだのが誰なのかはご想像にお任せします(b^ー°)

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