ショート

□一方通行
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※来神




ガシャーンッ
「あの二人またやってるのか」
「そ。本当飽きないよね」
廊下を走り回る臨也と静雄に門田は呆れ新羅はにこやかに見守っていた。
「先に行くか?」
「そうだね、あとで臨也が連れてくるでしょ」
貴重なお昼休憩、見ているだけで終わるのは勿体ない。門田と新羅は鞄を持って教室を出た。
「僕達が行くようになってから人が来なくなったよねー」
「まあ被害に遭いたくないからな。正しい判断だ」
そんなことを話しながら目的地へ向かった。
「今日はいい天気だから屋上も気持ちいいだろうね」



門田と新羅は屋上のベンチに座り話しをしていた。主に新羅がセルティのことで熱く語っているのだが。門田は黙って聞いていた。
「あれ、まだ食べてなかったんだ」扉の方から声が聞こえた。
「待っててあげたんだよ。早く食べようよ、お腹ペコペコ」
「シズちゃんがしつこくってさーここまで来るのに苦労したよ」
「手前が捕まればすぐ済んだんだろうが」
「殺されるのがわかってて捕まるわけないじゃん、本当馬鹿なんだから」
「ああ゛?!」
「ストーップ!お昼は喧嘩はしない約束でしょ!!」
「チッ」
お昼のこの時間だけは休戦の形を取り、何故か一緒にお昼を食べる約束になってしまった。静雄は不本意そうだが臨也は静雄をからかうのには変わらないので一緒にいても支障はないらしい。
「早く座りなよ、今日はセルティの手作りお弁当だから早く食べたいのを我慢してるんだからね!!」
「はいはい」
適当に頷きながら購買で買ったパンを取り出した。よく見れば臨也の苦手な甘いパン、クリームたっぷりのものや砂糖のかかったメロンパンなどが出てきた。
「君、いつから甘党になったの」
「俺のじゃないから。はい」
「ん」
「え、静雄の?」
「そ」
臨也は購買では定番の焼きそばパン、
飲み物は珈琲で勿論ブラックだ。一方
静雄は苺ミルクと甘いものだらけだ。
「静雄がパンなんて珍しいね。いつも幽君の手作り弁当なのに」
「幽は合宿中。朝は寝坊したから作る時間なかったし」
大抵弟の幽が弁当を作るが時たま静雄が作ることもある。
「そうなんだ。……で一緒に購買で買ったと」
「別に一緒に買ったわけじゃ…購買に行くって言ったらコイツも行くって言うから」
「ついでに奢ってあげたんだ」
「俺はいいって言った」
「そんな遠慮しなくていいのにー、実際買ってるけど」
「何か……昼一緒に食べるようになってから仲良くなってねえか?」
「あーそれは僕も思った。本人達は自覚ないみたいだけど」
そんなことを言われているのも知らず臨也と静雄はお互いのパンを分け合っていた。
「うわ甘っ、よくこんなの食べられるね、おやつじゃないのわかってる?」
「いらないなら食うな、滅多にないんだからいいだろ」
甘すぎるパンは臨也の口に合わず、すぐ珈琲を口に含んだ。
「手前はよくそんな苦いもんが飲めるよな」
「苦いのがいんじゃん。子供舌のシズちゃんには無理だろけど」
「うるせえ」
文句を言い合う所は二人らしいが暴力を振るわないのは静雄が進歩した証拠だ。
「あーあ、シズちゃんのせいでなくなっちゃったよ。もう一本買ってこよ。シズちゃん何かいる?」
「………カフェオレ」
「シズちゃんにはそれが精一杯か」
「うるせえっ、行くならさっさと行ってこい!」
「はいはい」
臨也が屋上から去るのを睨みつけながら見送る静雄、そんな二人を見て門田と新羅が呆気に取られたのは言うまでもない。
「門田くん…何かあれだよね」
「…ああ」
「カップルにしか見えないんだけど、あの二人付き合って」
「岸谷、それ以上は言うな」
それは限りなくゼロに近いが、そうだとは門田も断言出来ない。
「静雄さ、臨也と普通に話してるけどイライラしないの?」
「あ゛?するに決まってんだろ、お前が喧嘩すんなって言ったんじゃねえか」
「それはそうだけどさー」
新羅と門田は目を合わせ軽いため息を吐いた。
「それだけ普通に話せるなら毎日、24時間喧嘩もしなくなるんじゃないの?」
「アイツが色々仕掛けてくるから」
「なら臨也が何もしないで普通に接したら静雄も暴力を振るわなくなるんだね?」
「まあ…殴る理由がなくなるからな。でもアイツが嫌味を言わない日が来るとは」
「俺は嫌味じゃなくて本当のことを言ってるだけなんだけど?」
いつの間にか戻ってきていた臨也が口を挟んだ。静雄に紙パックのカフェオレを渡し、自身は先程と同じものを持っていた。
「本当のことって言ってるが、お前静雄のこと嫌いじゃねえだろ?」
門田の一言に皆が固まった。
「門田くん…それは思っても言わない方が…」
「ドタチン何言ってんの?俺はシズちゃんが大嫌いだよ。何処見てそんなこと言えるわけ?単細胞で何考えてるかわからないしすぐキレて物は壊す、そんなのを嫌いじゃなかったらなんだっていうのさ」
余程門田の言った言葉に納得がいかなかったのだろう。門田もしまったと心の中で思いチラッと静雄の方を見た。いくら喧嘩するなと言っても短気の静雄があれだけ言われ黙っているはずがない。新羅に向かって悪いと呟いた。
新羅は大丈夫とでも言うようにニコリと笑い、食べかけだったお弁当を無理やり口の中に放り込み逃げようと考えていた。
新羅と門田の思った通り静雄が立ち上がった。
「何シズちゃん、また暴力を振るおうとしてるわけ?」
挑発する臨也に静雄はピクリと反応した。
だが皆の予想とは反し静雄は臨也とは逆方向を向いた。
「え、静雄何処行くの?」
「便所」
静雄は扉を壊すことなく静かに出ていった。
「…何あれ」
「臨也があんなこと言うから傷付いたんじゃない?」
「今更それはないでしょ」
「でも最近言ってなかったろ?」
確かに最近は言葉よりもナイフで切り掛かったり他校の人を使って殴って蹴っての繰り返しだった。
「調子狂うなー」
「臨也何処行くんだい?」
「ちょっとからかいに」
静雄が置いていった飲みかけのカフェオレを持ち後を追った。
「何だかんだ言って気になるんだろうね、臨也も」
「そうだな」

門田は密かに静雄から相談を受けていた。
臨也を嫌いになれない、と。
それはそれでいいんじゃないかと言ったが、納得いかないようだった。
何故嫌いになれないのかと理由を聞けばわからないと返された。心底ムカつく、殴ってやりたい、そうは思うのに殺そうとは思えない。口では言っているが、殴る瞬間自然と力が抜けていると言った。
やはり喧嘩を好まない静雄だから今までに何をされても恨んだり出来ないのだろう。
「俺……臨也のことどう思ってんだろ」
嫌いになれない、無視も出来ない、声が聞こえたら反応してしまう、自分のことなのによくわからない。
ふいに窓の近くに行き外を見遣った。
「なんでだろうな」
呟く静雄、門田も静雄に並び外を見た。
「よくわかったな」
「…なんとなくな」
外には彼女らしい人物と歩く臨也の姿があった。女から臨也の腕に絡み臨也は少し鬱陶しそうだ。それにも気付かず女は楽しそうに笑っていた。
二人、というより臨也を見る静雄の瞳はとても悲しそうだった。
「嫌いにならないと、いけないんだ」
そうしないと自分が辛いから。
その言葉で門田は核心した。静雄は無意識で言ったのか。自身でよくわからないと言いながらもその気持ちがなんなのか気付いている。
「あんまり溜め込むな。辛かったらいつでも言え」
「、さんきゅ」
これ以上暗くなるのはどうかと思い話題を変え話を続けた。臨也のことは触れないようにして。





一方通行


門田(俺は両想いだと思うんだがな)

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