ショート

□lovesickness
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高校2年の秋、折原臨也は悩んでいた。
今まで殺したいほど憎み、色々な悪事を働いた相手、平和島静雄についてこれ以上ないほどに。
単に殺す方法などに悩んでいるわけではない。なら何にって、周りに相談すれば「頭打ったんじゃないか」と本気にされることはないだろう。そのくらいありえないこと。
いつも喧嘩ばかりしてトラックで轢き殺そうとした折原臨也が、平和島静雄に恋をしてしまったなんて。誰が信じる。当の本人でさえ信じられないでいるというのに。
臨也自身この気持ちを誤魔化し続けてきた。これは気のせい、静雄のことが憎いからこそずっと考えているのだと。だが静雄の笑った顔を見るたびに、他の奴に見せたくないと考えてしまうようになった。
一人の人間にこうも翻弄されては臨也も認めるしかなかった。静雄は気付いていない。その日から喧嘩を吹っ掛けるのを止めたことを。それでも静雄を倒そうと来る者達はたくさんいるので感づかれることはないだろう。
今までの騒動があったことにより静雄に普通に話し掛けることも出来ないので関係が発展することはまずない。臨也は初めて後悔した。
戻れるものなら入学した日に戻りたいと思うまで至った。もう末期だ。

静雄のいる教室を横切れば一瞬で見つけることができた。席は知っているし、休憩になっても友達のいない静雄は席を立つことがなく、親友の新羅とは席が前後、尚更だ。
チラッと目を向ければ静雄と視線が合った。
眉間にシワを寄せ怒りを表していた。今までの臨也なら意味もなく笑うか、あだ名で呼び掛け切れさすような言動で静雄を弄んでいただろう。だが今日は何もせず過ぎ去るだけ。その態度に静雄がどう思い、どんな反応をしているか気になり振り返ろうとしたが、相手は静雄、嫌いな相手に一々反応するわけない、と前を見続けた。授業に出るのも億劫になり屋上に向かった。
静雄のクラスは次が体育、上からなら邪魔もなく眺めることが出来る、と階段を上るの足も軽かった。
「おい」
おい、とは誰のことだろうか。惚けてみても主があの人物なら声を掛ける人数は限られる。
「君が声を掛けるなんて珍しいね、シズちゃん」
「手前、何を企んでる」
相当機嫌が悪いらしい静雄は単刀直入に質問した。
「別に?なーんにも企んでないけど?」
いつもの作り笑いと喋り方に静雄の眉間に更にシワが出来る。臨也は心の中で毒突いた。
また嫌われたな。
これ以上好感度が下がることは避けようと何もしていなかったのが裏目に出たか、何にしても静雄が臨也に対しての態度は酷いものだ。自覚した時に覚悟していた事だが、やはり辛い。
「行ってもいいかな、俺体調悪いんだよね」
「はあ?手前の何処が」
「…ココ」
トン、と指を差したのは心臓。勿論心臓どころか、痛い場所もなく体調が悪いなんて大嘘だ。敢えて言うなら恋の病が一番しっくりくる。本気に捉えたのか、一瞬眼を大きく開き、でも直ぐに細め舌打ちをした。
「じゃあね」
静雄がどう捉えたかわからないが、静雄に嘘は通じない。野生の感とは恐ろしい。バレて殴られてしまわないうちに退散することにした。
ちょうど授業開始のチャイムがなりみんな慌てて教室に戻る中、静雄一人が廊下に残っていた。



「────みーつけた」
屋上のフェンスに近付き、体育をしている生徒の中から静雄を見つける。遅れて行った為見付けるのは容易だった。先生も静雄を恐れているため注意も何もしない。唯一親友の新羅が近付き声を掛けるくらいだった。
それを見るだけでも腹立たしい。
その行為までもが臨也を苛立たせた。できれば誰も近寄ってほしくない。
それが通じたのか、傍にいた新羅は離れ静雄一人になった。瞬間バチッと目があった。だが睨まれているわけでもない、ただ見つめているだけ。
数秒経った、再び近づいた新羅と静雄は何か話し傍から離れた。静雄は授業を放棄し校舎の中へ入っていく。新羅は手を振り見送った。
楽しみが無くなってしまった。
静雄が出ていない授業を見ても意味がない。フェンスに背を預け空を見上げた。

バンッ
ドアが勢い良く開く音、離れていた臨也の元まで扉の破片が届くほど強烈な衝撃、それが出来るのはただ一人、さっきまで下のグラウンドにいた静雄。臨也を見付けるなり叫んできた。
「手前見すぎなんだよっ」
まさかの登場に目を開いた。ただ授業をサボったのかと思っていたが、わざわざそんなことを言うために来たのだろうか。
「やだなあシズちゃん、自意識過剰なんじゃない?何でシズちゃんばっかり見ないといけないわけ?俺は人間ラブだよ?君みたいな化け物を見続けて何の得があるんだよ」
「グダグダうるせえ。手前が何処見ようが知ったこっちゃねえ。だけどな、俺の視界に入るのは頂けねえ、今すぐ殺す」
息を切らして何を言うのかと思えば。
「ちょっと見てただけじゃん。それに、君の視界に入らないようにするのは無理だと思うよ」
「手前が死ねば済むことだ。すぐ殺す」
「はあ。勘弁してよ」
さっきのが嘘だとバレたのか、静雄の怒りはピークだった。だが、距離を保ったまま中々近づこうとしない静雄に違和感を感じた。直ぐに殴りかかって来ると思ったが。
「シズちゃーん?近づかないと俺は殺せないよー?」
「っ、うるせえっ」
もしかして。
「病気のこと気にしてる?」
「…………してねぇ」
何秒かの間が肯定していると認めているようなものだ。
シズちゃんはお人好しだ。俺なんかの気持ちも知らないで。
近付いてこない静雄に臨也自ら歩み寄った。至近距離にも関わらず静雄が殴る気配はない。
「殴らないの?」
「気分じゃねえ」
「さっきと言ってること違うけど?」
「うるせえ」
臨也が思うほど静雄は苛立ってはいなかった。
「ねえシズちゃん、抱き着いていい?」
「……はあ?」
「今無性に人の体温を感じたくなった」
「手前って、本当にわけわかんねえよな」
「しょうがないじゃん」
急にシズちゃんが可愛く見えたんだもん
「何がしょうがないだよ、たく……ほら」
「……え」
「手前から言ったんだろうが」
両手を広げ待ち構える姿が男らしく、妙に恥ずかしい気持ちになったが、それをしている本人の顔が赤いのを見て吹き出してしまった。
「なっ、手前が言ったのに何を笑って…!」
静雄が言い切る前に臨也は静雄の胸に飛び込んだ。腕を背中に回し力強く抱きしめた。
「シズちゃんってほんっとうに──」

ちゅっ

「あ?」
「可愛いよね」
一瞬の隙を付いて唇に軽く触れた。静雄は何が起きたのか判断が出来ていない様子。
「俺行くよ。シズちゃんのお蔭で元気になったし、またよろしくね」
静雄が怒る前に退散することにしさっさと屋上から去って行く。その場に残された静雄はやはり顔が赤く、それでも怒りが沸いてくることはなかった。



「静雄何処行ってたの?君がサボるって言った時はビックリしたよ」
「ちょっと気になってな」
「臨也のこと?」
「あいつ何か変なんだよな。自分は病気だとか言い出して」
「まあ臨也だから仕方ないんじゃない?静雄が臨也のことを心配するのもまた珍しいけど」
「うるせえ」
(そういや何でキスされたんだ?)
さっきの出来事を思い出して顔が紅くなり、それを見た新羅が青ざめてしまった。
「静雄が変」
そんな新羅を思い切り睨み、新羅はやっと黙った。




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