ショート

□プレゼント
1ページ/1ページ




とても天気のいい日だった。
どこまでも青く、雲一つない清々しい空が続いていた。
今日はいいことがあるといいなと思っていた静雄だったが、すぐに崩された。
「臨也……なんでここにいやがる」
「そりゃもちろんシズちゃんに逢いに」
「きもい、死ね! 今すぐ死ね!」
側にあった道路標識を引き抜くと臨也に向かって振り回した。

「相変わらずだなーシズちゃんはっ……!」
「っ…!」

どこから出したかわからない、素早い手捌きでナイフを出し、静雄の頬を掠めた。
「少しはその短気なとこを直す努力したら?」
「余計なお世話だ!」
臨也が現れ周りが見えていない静雄は、人がいるのも気付いていないのか標識を投げ飛ばしていた。
「ほんとシズちゃんは人の話を聞こうとしないな」
独り言なのかそれとも静雄に言ったのか、後者ならば聞いていない可能性の方が高い。

「シズちゃん」

声色がいつもと違い静雄の動きが止まった。
それを見て臨也は静雄に向かって箱を投げた。
大きくもないが小さくもない、手の平くらいで長方形の形をした蒼色の紙が巻いてある箱。リボンまでしてあるとこを見るとプレゼントらしかった。
「? 何だよ」
まさか爆弾なんてこと、と考えたがそんな馬鹿なマネを臨也はしないだろう。
「それ渡しに来ただけだから」
またね、と手を振りながら帰る後ろ姿を茫然と眺めていた。
周りにいた人だかりは臨也が帰ったことに安堵し、再び歩みを始める。
一人佇む静雄は渡された箱を恐る恐る開けてみた。
丁寧に包まれた紙は静雄の手によって慎重に開けられた。
中身を見た静雄は動きが止まった。
バーテン服を着だしてからかけるようになったサングラス。安物を買っていたのですぐ壊れてしまう。新しいのが欲しいとは思っていた。
それを知ってか知らずか、箱の中身はサングラス。静雄でもわかるぐらいなのでかなりの値段だろう。どういうつもりでこれを渡したのかは不明だ。
頭を二、三度掻き、臨也とは反対方向に歩き出した。




向かった先は新羅のマンション。
どうすればいいかわからず新羅に相談しに行ったのだ。
「貰っておけばいいじゃないか」
とあっさり返され静雄は戸惑った。
「でもあいつが渡したものだぞ、怪しくないか?」
「んーそれは言えるね」
はい、と静雄の前に温められたミルクを置いた。
それに多少表情を明るくし口へとカップを持っていく。火傷しない程度の温さでゴクゴクと音がしそうな勢いで喉を通していく。
「するなら盗聴器くらいだと思うけど」
箱に入ったままのサングラスに手を伸ばし目の前に翳す。
「得になさそうだね。ただのプレゼントだよ、きっと」
プレゼントなんて初めてじゃない?
貰った本人よりも嬉々にそう言ってきた。受けとった時のように頭を二、三度掻き無言になる。
ほとんど飲んでしまったミルクをじっと見つめた。
「静雄に似合うと思うよ」
はい、と手渡され新羅を見遣る。カップをテーブルの上に置き、今かけているサングラスを外しカップの横へ置いた。
臨也から貰ったサングラスを手に取りゆっくりとかけた。
「うん。やっぱり似合ってる」
言われることに慣れていない静雄は頬を赤らめ新羅から視線を外した。
気のせいかとても馴染んでいるように思えた。
「明日からそれにしなよ。臨也もいいものあげたなー」
臨也から貰ったというのが腑に落ちないが、それでも手放すのも惜しいと思っていた。新羅に言われたから、と自分へ言い聞かせ、安かったサングラスをしまい、新しいサングラスをかけ新羅のマンションを後にした。




朝。仕事へ向かう静雄は一人で歩いていた門田に会った。向こうも静雄に気づき手を挙げた。
「よお静雄、これから仕事か?」
「まあな」
門田は優しい。静雄に対して普通に接してくる数少ない友達と言ってもいい。二、三度会話をした後、何気なく門田が話した。
「サングラス変えたのか?」
「――…ああ」
正直気づかないと思っていた。
よく人に気を使う門田だから気付いたのかもしれない。
「よく気付いたな」
「まあな。前は黒っぽかったろ?」
「そう、だったか」
デザインにこだわっていたわけではないので、前使っていたものがどんなかと言われても曖昧にしか思い出せない。

「似合ってるよ」

門田なら、もし静雄に似合っていないなら素直に伝えるだろう。似合っているというのは本心だ。静雄もそれがわかっているのでサンキュと、照れ笑いした。
そんな静雄を驚きの目で門田は見ていた。頬を染めるなんて、今まで静雄にはないことだった。
貰い物か?と、門田が尋ねれば今度は静雄が驚いた。
何でと聞きたい静雄だったがうまく舌が回ってくれない。
「別に深い理由はないぞ? なんとなくな」
じゃあな。気を使った門田とはそこで別れた。
仕事場に向かった静雄は入口でトムと会った。来たばかりで入ろうとしているところだった。トムも静雄の存在に気づき挨拶をしてきた。
「サングラス変えたのか。お前にしては高いの買ったな」
やはり高いのか。
なんとなくするだろうなと思ってはいたが、トムが話すくらいだからよほどなんだろう。
「お前がそんなもん買うはずがないよな。貰い物か?」
トムの言葉にドキッと心臓が跳ねた。そういう所は勘が鋭い。
「女にでも貢がせたかあ?」
はっはっはっと大笑いし肩をバンバン叩く。からかっているのは明らかだ。静雄は苦笑した。
まさか臨也から貰ったと思わないだろう。
昨日貰ったばかりなのに手放すのが惜しいと思えるほど気にいってしまった。
やはり値段がいいものは人を魅了させる。化け物と言われる静雄もれっきとした人間だ。
貰ったのだから返す必要はない。これは俺のだ。臨也から貰ったというのは忘れよう。
昨日臨也に会ったことを記憶から抹消した。

バーテン服を着、サングラスをしている青年、平和島静雄。
殴りかかろうとしてくる男たちを避けながらサングラスを外す。
争う時にはいつも。
大事にしているおかげで傷一つ入っていない。


「シズちゃんがそこまで気に入ってくれるとは思わなかったなー」
新羅のマンションへ訪れた臨也は出された珈琲を片手に笑っていた。
「そんなこといって。静雄の好みわかって買っただろ?」
「まあね」
でもあそこまで気にいるなんて予想外だけどね。





プレゼント





(やっほーシズちゃん、それ気にいってくれたみたいだね!)
(ああ゛!?んなわけねーだろ!)
(だってー喧嘩するときいっつも外してんじゃん?)
(っ、それは)
(壊れたら嫌だから外してんだよねー!)
(〜〜〜っ、黙れくそノミ蟲がぁぁああ!!)






[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ