ショート
□阻むものは壁とお前という存在
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「シズちゃーん!」
「うるせぇ、きめぇ、近寄るな!」
「酷ーいシズちゃん。俺はこんなに愛してるのにー」
「それがきめぇんだよ!」
臨也と静雄の追いかけっこはいつもの風景だった。
だが最近は少し違う。いつもは静雄が臨也を見つけ悪態をつけいろんなものを投げ飛ばす。
最近は臨也が静雄を追いかけ静雄が逃げている。
周りはその二人を珍しい、そして変な目で見ていた。
それは仕方ないだろう。
臨也が静雄に告白しているのだから。
人通りが多いにも関わらず臨也は叫び続けた。
「シズちゃーん!」
「しつけぇー!」
人で混雑している中なら逃げ切れるとふんだ静雄だったが、静雄が通れば道もあく。いつまで経っても臨也を撒くことができなかった。
誰かにぶつかったりで距離は縮まる一方。
「チッ…!」
舌打ちをし細い道へ足を向けた。
急なことに臨也は一瞬姿を見失ったが、あの容赦だ。すぐに見つかった。
細道に入るのを見た臨也は口端を吊り上げた。まるでそれを待っていたかのように。
「シズちゃん待ってよー」
誰が待つかノミ蟲が!
心の中で叫び静雄は走り続ける。
それが急に足を止めた。
何度したかわからない舌打ちをする。
「やっと捕まえた」
「まだ捕まってねぇ」
目の前に阻む壁に、くわえていたタバコを押し当てた。
「前には壁、後ろは俺。そろそろ降参したら?」
「手前どういうつもりだ」
「何が?」
「いきなり、あんなこと…」
「愛してる」
振り返り臨也の赤い眼を睨んだ。
「うるせぇ! そういう冗談はやめろっ」
「冗談ならもっと他のこと言うよ」
コツコツと足音を立て静雄へ近づいていく。
「俺気付いちゃったんだよね」
シズちゃんが俺のこと好きだって。
その言葉に静雄は口を開け唖然とする。
「手前馬鹿だろ、それが何で」
静雄の言葉は臨也の唇によって飲み込まれた。
「っ、……!」
「ねぇシズちゃん」
俺のモノになってよ。
阻むものは壁とお前という存在