☆新庭

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『此処だよ、まだ寝てると思うから静かにな。』

「はい。」




午後の練習も終わり、草壁を後ろに引き連れて、取り敢えず蔵ノ介に運び込むように頼んだ自分の部屋に向かう。

恭弥を取り押さえる為だったにしても、無茶をしたと言ってもいいからな、少々心配だ。

音を出来るだけ立てないようにと、慎重にドアを開けて部屋に足を踏み入れた。




「ん、戻ってきたんか。」

『蔵ノ介。恭弥の様子は?』

「熱はまだまだ下がりそうにないわ。でも運び込んだ時より顔色も良うなっとるし、呼吸は浅いが良う眠っとるわ。無理さえせんかったら順調に回復すると思うで。」

『だって。』

「そうですか、安心しました。」




草壁は言葉通り、厳しかった表情を少し緩めるとほっと息を吐く。

本当に良く出来た上司思いの部下だこと。

その彼の肩をぽんぽんと軽く数回叩いてベッドで眠る恭弥と、横に座っている蔵ノ介に近付いた。




「ちゅーか、こういうんは合宿におる医者が最適やないか?」

「委員長が素直に診察させるかどうか。」

「…大人があかんなら医者の息子もおるやん。謙也と忍足クン、柳生クン。」

『ばーか、確かに偉そうぶる大人も嫌いだが、そもそも親しくもない奴に近寄られることが嫌いなんだよ。』

「…ああ。」

『恭弥が起きたらあいつらじゃ下手すれば咬み殺されちゃう可能性があるってわけ。それは絶対回避。』

「そういうことか。まあ、一般人よりかは俺の方がマシやな。雲雀クンの攻撃を避けきる自身あらへんけどな。」




蔵ノ介は妙に納得した顔で、視線を此方から寝ている恭弥に映し苦笑をこぼした。

同じように恭弥に視線を移す。

依然として発熱を窺える頬の赤みはうっすらと残っているが、こう話していても起きないほどにはぐっすりと眠っているようだ。

恭弥の体質から言えばそれだけ疲労が溜まっていた、という事実でもあるわけだが。

汗で緩くも張り付いている額の髪の毛を払って、ふうっと一息ついた。




「で、そっちはどうなんや?」

『ああ、うん。実はまだ何も話し合ってない。草壁が結構心配してたから先に顔見せとこうと思って。』

「さよか。容態も安定しとるし、ちゃっちゃと済ませた方がええで。起きられてごちゃごちゃ言われても話進まんやろ。」




草壁の顔も見ていたのか、蔵ノ介は頷くと身体ごとこちらに向ける。

普段の恭弥は物音ひとつで起きるやつだし、その可能性は否定できないな。

起きたら起きたで文句と悪態のオンパレードを聞かさせるに違いない。

容易に想像できる展開に蔵ノ介の言葉へこくりと頷いた。













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