☆新庭
□09
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『はいよー、休憩だってさー。』
籠にいっぱいのタオルとドリンクを入れて、割りと軽々持ちながら中学生のコートへおろす。
中学生が入ったとは言え、彼らのスタートは高校生の一番下からスタートだ。
彼らが来てから1週間。
あたしが入ってから3週間。
『…ん、そろそろかもねぇー。』
「そろそろ、って?」
「何がじゃ?」
ふたつを取りに近づいてきた精市と雅治は、あたしが零した独り言に食いつき首を傾げる。
不思議そうにするふたりを見つめてから、ふと秋空の住んだ青色を見上げ『んー、』と間延びした声を伸ばす。
気がつけば割とみんなが休憩に入り、それぞれを手にしながら誤魔化している朔を見つめている。
でもそんな事に気付かないフリを決め込んで、あたしは見上げたまま表情を厳しくする。
態度も声も行動も、いつもと少しづつ少しづつ違うから。
その頭を後ろから叩かれて、少し前につん止めりながら後頭部に手を添えて後ろを振り返る。
「何、生意気にんな顔してんだ。」
『景吾…、お前な…。』
「跡部、あまり朔を怒らすな。」
「殴られとったトコ大丈夫か?」
『ん、ありがと国光、謙也。』
ふんっと鼻を鳴らす景吾のことは分かっているつもりだから、イラッとはくるがまあ、いい。
ふたりに庇われながらへらりとまた笑う。
さてはて、こんなに平和なこっちだが向こうはきっと今日もてんやわんやとしているのだろう。
「朔先輩、電話鳴ってる。」
『お、ありがとリョーマ。えと、コーチの方か。』
初期設定のままの機械音が小さく鳴っていて、リョーマに言われてポケットから出すとそれは主張するようにけたたましく鳴り響く。
名前を一応確認してから、通話のボタンを押して耳に近づける。
聞こえてきた声はいつものすましたような黒部の声ではなく、何処か焦りを匂わしていた。
「≪朔…、侵入者が現れました。≫」
『…その人の特徴って、』
「≪黒髪、170cmくらいでしょうか。絶対的な特徴から言うなら、≫」
『肩にかけた学ランに風紀の紋章。嗚呼…、やっぱり。』
「≪その通りです、知っていたんですか?≫」
『まさか。ただ…、限界だと思っただけです。』
はい?と不愉快そうに声を漏らす黒部に対し、朔はふう、とため息を吐く。
想像した通りの現状にもはや良いわけも必要ないだろう。
さあて、どうしたものか。
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