☆新庭
□04
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「…朔。」
『はーい、なにー?』
「1番コートにドリンクとタオルを頼む。」
「3番コートにもお願いね。」
「5番にもだ!」
こっちを振り返ったカズ先輩に名を呼ばれて目が合うと、そう変わらない仏頂面を彼はふっと緩める。
それは彼があたしを認めてくれた証拠で、頼むと言う事を許された証拠。
それを知ったから、同じように彼らを見上げてへらりと頬を緩めて笑う。
『了ー解。直ぐ持ってく。…ん?もしもし、何ですか、黒さん。』
「≪コーチです。朔は中学生に施設案内をしなさい。≫」
『…1、3、5コート以外のドリンクとタオル及び残りのマネジメントは。』
「≪本日はこちらで行います。貴女のことです、準備はしてあるのでしょう?≫」
『ん。ドリンクは冷蔵庫、タオルはそれぞれ籠ん中に分けとくよ。』
「≪伝えときます。では、中学生は任せました。≫」
この合宿用として支給された携帯電話が、着信を知らせる。
カズ先輩達がコートに戻って行くのを見ながらその携帯を通話する。この携帯からの着信は基本コーチからだ。
今回もそこに表示された名は、黒部の苗字でこの後の指示を受けて『了解』と返して通話を切る。
『じゃあ、中学生は合宿場と施設の案内をあたしがするから。』
「だが、マネジメントは…」
『まあ、コーチが上手くやると思う。取りあえず、あたしはカズ先輩達のだけ済ませて来るから。コートの出入り口の門のとこでちょっと待ってて。』
「なんなら手伝うで?」
『へーき。配ってくるだけだから。』
ニッと笑ってからマネージャー室に向かって仕度を全て終わらせてから、1、3、5コートの籠を持つ。
駆け足にそれをコートに持っていくと、こちらに気付き休憩にしようと声をかけた。
それに近づいて、彼等にタオルとドリンクを手渡していく。
「すまないな。」
『え?なんて?』
「…ありがとう。」
『はい。どういたしまして。』
手渡すと同時に、カズ先輩が謝るから。わざとらしく首を傾げれば、彼も口元を緩めて。
お礼を言ってくれるから、それに微笑み返して言葉を返す。
それを見た修先輩があたしの頭に手を置きながら、カズ先輩を覗き込むようにしてにやりと笑う。
「なん、徳川笑っとるん?朔が相手となると表情柔らかいやん。」
「…煩いですよ、種子島さん。」
「図星かあ?可愛いとこあんやな。」
「種子島さん!」
「修さん、からかっちゃ駄目だよ。」
「奏多も鬼も朔を可愛がっとるもんな〜。」
「種子島もだろーが。」
『光栄ですー。』
どこまでも余裕な修先輩を睨みながら、どこかむすっとしたカズ先輩。
かーた先輩と十先輩も近づいてきて、この合宿で一番安心できる彼等にあたしも頬が緩みやすい。
まだまだカズ先輩をいじる修先輩はちょっと凄いと思う。なんだかんだカズ先輩も修先輩を本気で嫌ってないし。
その光景を見ながらも、あたしは中学生を待たせているので、全員に配り終えると籠を回収して背を向ける。
「ん?もー行くん?」
『うん。この後は中学生達を施設案内しないといけないから。』
「そうなんだね。頑張って。」
『ありがとう。みんなも練習頑張って。』
「ああ。」
『あ、そうそう。大和先輩、腕痛むんだったら無理は駄目だよ。あと、右端先輩も一度トレーナーにその足を隠さず治療。』
それを言い残してから籠を手に持ち直して、今度こそ彼らの背を向けてコートを出る。
籠をマネージャー室に戻してから、もう一度ざっと確認して中学生達の下に駆け出した。
「うーん、流石ですねぇ。」
「本当に少しの痛み程度なんだがな。」
「相変わらず朔はよく見とるわ。」
「彼女の洞察力観察力は、並外れているね。」
「…だから、中学生でも俺達が認めたマネージャーです。」
カズ先輩の言葉に全員がうなづく。
そんな事を話しているとは、朔は気付くことはない。
それでも、彼女が認められているそのひとつは、確かに此処に。
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