じれんま

□12
1ページ/6ページ





ダンクの決まった後の金属の撓(しな)る音とボールが地をついた音が響く。
バッシュのスキール音を小さく響かせ、火神くんがリングを離してコートに降り立つ。
それを呆然と見ながら、パパは今目の前で起こった事に戸惑いを隠せない。

――今、何がどうなった?どうしてパスが通ってダンクが決まったんだ…?

パパだけではない、新協のほかの選手も観客も驚愕している。



「と、とにかく一本返すぞ!」



思考停止している場合ではない、新協の主将である谷村は戸惑いつつも士気を高めようと声をかけて味方に安易にパスを出す。

(そんなところで、そのパスじゃテツに取って下さいって言ってるようなものだよ。)

相手の手に渡る前にパスとして出されたボールは、床に勢い良く上から叩き付けられた。
ボールはゴール近くにまで高く跳ね上がり、火神くんがそれをそのままゴールへダンクで押し込んだ。



「マジかよ、スティールしたボールをそのままダンク!?」
「てかいきなりダンク2連発って…。予選一回戦だぞオイ!」



初戦からのあまりの迫力に、観客のざわめく声が体育館に響く。
その声を聞き流しながら、ポジションに戻る途中、日向は少々ひきつった顔で前を行く黒子の後姿を見てから火神を見た。



「スゲーなマジ…。てか黒子ってこんなだっけ?子供扱いされたのそんなに怒っちゃった?」
「そっスね…。」
「ガッカリだヨ、弱くテ。キセキノセダイっテ、こんナコドモ…!」
「…やってもないのにお前が言うな…、って感じじゃん?っスよ」



火神は前を行く黒子の後姿を見ながら、“お父さん”の言葉を思い出してそう日向に言い放った。
ブーーっと第1Qを終えるブザーが丁度コートに鳴り響く。
電子掲示板を見ると、8対23。その差は15点差。
カントクの10点差以上を楽に達成していて、よしっと小さく拳を作ってからバインダーを置いてタオルとドリンクを手に持った。



『お疲れ様です、タオルとドリンクです。』
「ああ、ありがとう。」
「サンキュー。」
「マジすげっス!」
「てか圧勝!?」
「何言ってんの!むしろここからが大変なのよ。」



日向先輩を筆頭にベンチに戻ってくる選手に腕にかけたタオルと持った籠に入ってる各ボトルを手渡しで配っていく。
その途中、ボトルを渡すとテツと一度拳を合わせてニッと笑いあった。
帰ってきた選手と得点板を見比べて、興奮気味に言う1年を一喝し、カントクはテツへと顔を向けた。



「黒子君は時間制限あるから、此処で交代ね。」
「はい。」
『此処から暫く、テツは温存しなくてはいけないので攻撃力は落ちます。』
「中盤の間、如何に点差を縮めさせないか、がカギとなるのよ。」
『新協学園には“お父さん”以外に脅威となる選手は居ません。ボールは全て“お父さん”に集められるだけです。』
「とどのつまり、火神君が“お父さん”相手に何処まで踏ん張れるか。それに尽きるわ。」
「任せろっスよ!」



カントクの言葉に、火神くんはしっかりと頷いて見せた。
その火神くんの顔に不安など浮かばなかったが、留学生がこのままでいることも考えられなかった。











次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ