じれんま

□11
1ページ/6ページ




5月16日、土曜日。天気、晴れ。
作戦も練った、対策も打った、練習もした、良く寝てよく食べ、体調も整えた。
やれる事は、全てやった。
何時振りか、玄関を開ける時右手で開けて、左足でその敷居を跨ぐことを意識した。



「おはようございます、ユナ。」
『…おはよう、テツ。』



5月16日、土曜日。天気、晴れ。

――I・H予選、対新協戦本番!



「全員揃ったわね!」
「行くぞ!」



リコは携帯で8時になったのを確認し、パタンと音を立てて携帯を閉じつつ、周りを見渡した。
キャプテンの日向の声にあわせ、その後を追うように全員が今日の舞台へと足を向ける。
体育館に向かう彼らの顔は、緊張と集中で引き締まっていた。
体育館に入り準備をしていく中で緊張を通り過ぎ、興奮のし過ぎで目を赤くした隣の光に影は少し苦笑する。



「…また寝れなかったんですか、火神君。」
「うるせー…。」
『手がかかるなあ。火神くん、手貸して。』
「あ?なんだよ。」
『いいから、テツもやる?』
「はい。」



荷物を整理していた手を止めて、聞こえてきた声にふたりの会話に首を突っ込む。
首を捻りつつ差し出された火神くんの手に自分の手を重ねて、ぎゅっと握る。
目を見開き、慌て気味に離そうとする手を押さえるようにさらに強く繋ぎ直し、反対の手でテツとも手を繋いだ。



「い、行き成り何すんだよ!」
『いいから、テツと火神くんも繋いで円になってね。で、手を見ないで目を瞑って。手の感覚だけに集中、自分の熱を隣の人に伝える隣の人から分けてもらうそんなイメージを意識するの。心を落ち着けて意識集中!』



少し睨むように自分を見てくるユナに、火神はうっと少し身を縮めて言われたとおりに目を閉じた。
私の左手には火神くんの、右手にはテツの手が繋がれている。
相変わらず、テツの手は少し体温が低いがその低い体温がじんわりと暖かくなっていくのを右手で感じる。
対して火神くんの手はまず大きい。すっぽりと覆われてしまいそうなほどの大きさの手は興奮していると言っていたわりに、思ったとおり冷たかった。
その手が暖めるように、少しだけ彼の手を握る力をやんわり強くした。



「…お?」
『手、温まったね。充血も多少直ったかな。よし、いいよ。練習行ってきて。』
「で、これはなんだったんだよ。」
『リラックスして貰ったの。意気揚々なのは良いけど火神くんは余計な力が入りすぎだったからね。詳しい事が知りたければ後で教えてあげるからまずは身体温めてきてください。』
「久々でしたね。でも、リラックスできました。ありがとうございます。」



テツの言葉ににっこりと笑って、まだ渋る火神くんの背中を押して練習に向かわせる。
それを見届けると、カントクが近づいてきて少し感心したように口を開いた。



「今の条件付けのα波放出、リラックス法を身につけるための体感瞑想ね。」
『はい。余計な力を抜いて集中する正しいリラックスをしろ、なんて言っても絶対火神くんには伝わりませんから。判りやすい掌を使った体感瞑想をさせてみたんですけど、効果はあったみたいです。』



さっきまで繋いでいた両手を見下ろし、グーパーを繰り返した。
冷たかった彼の手は暖まり、私の手もじんわりとした体温がまだ残っていた。
カントクはうんうん、と頷いてから満足そうに微笑んだ。



「よし、じゃあ準備しちゃってくれる?」
『あ、すいません!今やります!』











次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ