じれんま

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「これで終わりだからなア!」



大声がすぐ近くから上がり、びくりと肩を上げて斜め前の席を見る。
大きく振り下ろされた赤い髪の彼の手は、無惨にも教師の頭を鷲掴みにしていた。
教室内に冷たい沈黙が流れる。



「…んあ?」
「“…んあ?”じゃないわ…、何堂々と寝とるんだ、貴様!」
「いや、あの…その。」
「後で職員室に来るように。」



しどろもどろになりながらゆっくりと教師の頭からてを放して誤魔化すが、そこまで教師は甘くなく説教行きが確定した。
教師はそのまま回れ右をして教卓に戻っていく。

――火神の後ろでぐっすり熟睡している黒子には怒らずに。

火神くんは自分の後ろで私の隣のテツを恨めしそうに睨む。
ふと何かに気付き、火神くんはポケットから携帯を取りだしまた小さく首を捻っていた。



「起立、礼。」
『テツ、授業終わったよ。』
「…、はい。おはようございます。」
「たく、何でこいつは見付からねぇんだよ。俺より爆睡してたじゃねーか。」



チャイムが鳴り、授業の終わりに号令をすると隣の影の薄い幼馴染みに声をかけながら小さく肩を揺する。
彼は船を漕いでいた頭を起こすと、小さく欠伸を溢しつつ目を軽く擦る。
火神くんはその様子を振り返りながら見て、不満そうに愚痴を溢した。
キセキの世代との試合は大分体力を削られているようで、今日の授業は全て爆睡している。
疲れが取れていないんだろう。後でテツくらいにはやってあげようかな。…倒れられては困るしね。



「そうだ、黒子。お前メール見てみろよ。呼びだしだ。」
「メール、ですか。」



鞄の中からテツの黒い携帯が取り出され、メールを開くのを見て私も顔を寄せて手元を除き混む。
1年生全員に一斉送信で送信者はカントクさん。
短い文に彼女を彷彿とさせる、言い切り命令形(語尾にハートは付いているが)。


《1年生全員、昼休み2年校舎集合♡ 》


それを見た黒子も火神も顔を合わせると、嫌そうな顔をしていた。



『てか、火神くん、先生からの呼び出しは?』
「やべ、忘れてた。」
「何かしたんですか、火神君。」
『爆睡して寝言言いながら髪の薄いあの先生の頭を鷲掴みにしたんだよー。』
「てめ、白椰!それは言うなよ!」



火神くんが声を大きくして文句を言ってくるが、お構い無しに耳に手を当てて聞こえないふりをする。

黒子は昨日の海常戦から急速に近くなったこの火神とユナとの距離に密かに微笑んだ。
隣で幼馴染みの自分とさえ距離を取り壁を張っていた時の彼女は、閉ざしてても寂しそうだったから。

からかう私と律儀に怒り続ける火神くんを止めるようにテツが口を挟む。



「職員室は良いんですか、火神君。」
「うおっ、そうだ、んなことしてる場合じゃねぇ!」



慌てた様子でバタバタと教室を出ていく火神。
その後ろ姿を見送ってからユナは振り返って黒子を見つめた。
テツは私がしようとしていること気付いたのか、まるで背中を押すようにその無表情の顔を小さく微笑みに変えた。
それを見て、ぎゅっと手を握ると、火神くんの後を追うように私も職員室に向かって行った。











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