じれんま

□08
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「こうやってちゃんと話すのは久しぶりっスね。…怪我、大丈夫っスか?」
「はい。大丈夫です。」



バスケットボールを片手に弄りながら、先を歩く黄瀬の表情は見えない。
小さい公園に入る。横にはワンコートだけバスケコートがあって、その中では男子学生が3人、ストバスをしていた。



「そういえば緑間っちに会ったっスよ。」
「ん…、正直あの人はちょっと苦手です。」
「あは…、そーいやそーだったっスね。…けど、あの左手はハンパねェっスよ、実際。蟹座がいい日は、特に。」
「…はい。」



黄瀬は真っ直ぐにベンチへ向かい、地面にエナメルのバックを無造作に置くとリズムよく駆け上がり振り返ると、本来背もたれであるところに腰を落とした。
緑間の名前に黒子は少し目線をそらすと、本音を言い放つ。
その言葉にユナは苦笑いを零し、黄瀬は笑いつつもふと真剣な表情で黒子を見つめ言った。



「ま、今日は見に来ただけらしいっスわ。それよりも…黒子っちにフラれ、ユナっちにフラれ、試合にも負けて。高校生活行き成り踏んだり蹴ったりっスわ。ダメ元でも一応本気だったんスよー?」
『…涼太。』
「ひっくり返りますよ。」



ふっと息を吐くと、黄瀬は上を向き手に持っていたボールを器用におでこに載せ、手を離すとバランスをとる。
黒子は冷静に突っ込みを入れると、ふと考えるような顔つきになって視線を落とす。



「…すみません。」
「冗談っスよ。そんなことより、話したかったのは理由(ワケ)を聞きたかったんスよ。」



黒子が謝ると黄瀬は気を取り直すようにベンチから降りて、ボールを軽く上下に投げる。
ポールと手のひらの当たる音が、少し静かなこの空間には響く。
私は、何となく彼が聞こうとしていることがわかって、口を閉じていた。



「なんで全中の試合が終わった途端、姿を消したんスか?」
「…。」



黄瀬が質問に合わせるようにボールは、綺麗なループを描いて、黒子に向かって投げられた。
くるっと手首を回してボールを綺麗に受け止め、黒子はボールから黄瀬へと視線を移す。
少し考える素振りをして、黒子は眉を下げた。



「…わかりません。」
「…へ?」
「帝光の方針に疑問を感じたのは、確かに決勝戦が原因です。あの時、ボクは何かが欠落していると思った。」
「スポーツなんて勝ってなんぼじゃないっスか!それより大切な事なんてあるんスか?」



理解できないと言いたげに、一歩足を前に出して言った言葉に黒子もユナも口を閉ざす。

(勝って、なんぼ…か。)

――百戦百勝
それが帝光バスケ部の理想概念であり、“キセキの世代”が実際に完全行使して見せたこと。
黒子は黄瀬から目を離すことなく、真っ直ぐと彼を見つめた。













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