じれんま

□07
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『お疲れ様…、おめでとう。』
「ありがとうございます。」



ベンチへ戻ってくると、私の前で黒子が立ち止まる。
彼の顔を見つめて、あの頃と変わらずに、タオルを差し出して笑った。
瞳からは、まだ涙が零れ続けているけれど。
黒子はそれを受け取りながら、もう一度ユナを見つめる。



「悲しい、ですか?…黄瀬君が負けて。」
『…わかんない。悲しいし悔しい、でもテツが…、黒子クンが勝って嬉しい。わけわからないでしょ?』
「言い直さないで下さい。今まで通り、テツって読んで欲しいです。」



次会うときは違うベンチなんてわかっていたのに、試合が始まればどちらかが勝ってどちらかが負けるのはわかっていたのに。
…涙が止まらない。
黒子はそっと手を伸ばして、私の顔を包みながら親指で涙を拭う。



『…う、ん…。』
「取り敢えず涙は止めて下さい。」
「黒子ー、行くぞー。」
「今行きます。ユナに泣かれるとどうしたいいかわからないです、ボク。」



黒子は零れる雫を拭って安心させるように微笑むと、渡したタオルを私の頭に被せて火神の後を追って更衣室へと向かっていく。
泣くなんて、なんだかなあ。と自分に苦笑しながら、被せられたタオルを頭からおろす。
ふと、着替えて更衣室から出てきた黄色い頭を見つけて、後を追うように体育館を出る。



『…りょーた。』
「!え、ユナっち!?」



水道に頭を突っ込んで蛇口を逆さにして水を頭から被る黄瀬にそっと近づいて、彼の下の名前を久しぶりに呼ぶ。
その声に驚いたように、黄瀬は顔を上げると私を見て目を丸くした。
そのきょとんとした表情に、私は困ったように眉を下げて笑う。
でも黄瀬は何かに気づいたかのように、蛇口を閉めるとそっと私に手を伸ばす。



「…泣いたん、スか?」
『…わかる?』



伸ばされた手は私の頬に添えられ、無意識に瞑った私のまぶたの上を彼の親指がなぞる。
そんなに目が赤くなっているのか、自分で苦笑して呟く。
片目のまま彼を見ると、黄瀬はまた泣きそうな情けない顔をして私は首をかしげる。



「負け、ちゃったっスわ…。」
『…私ね、帝光でたくさんの心残りあるけど、君たちに負けを教えてあげられなかったこともひとつ未練だったんだよ。』
「負けを、教える…?」



情けない、悔しさを隠しきれない表情で黄瀬は呟くように言葉を零す。
彼の手が離れていくのにあわせて、彼をしっかりと見上げてタオルを差し出す。
そのタオルを受け取りながら、黄瀬は私の言葉を繰り返す。
その顔は意味がわかっていないようで、私は眉を下げながらこくりと頷いた。












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