じれんま

□03
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「ちょっと、今練習中なんだけど!」
『直ぐ終わります。黒子くん、これ明日提出だから。』
「…ありがとう。」
「黒子を普通に見付けた…!?」



すたすたと真っ直ぐに黒子の前に進み、テキストを押し付ける。
あまりにも普通すぎることだが、黒子の場合その普通さに誠凜メンバーは驚いた。
そしてはっとしたかのように周りの騒がしさに気付いて周りに目を向ける。



「えっ?何でこんなにギャラリーできてんの!?」
「…来て、良かったんですか…?」
『…は、は…わかんない、よ…。』
「おい、あいつは…!」
「でも…。」



今気付いたのか、ギャラリーに驚きを隠せないバスケ部。
黒子くんの小さい質問に私は、フードを深く被りなおして顔を隠して同じように小さく答えを返す。
それを見てどんな顔をしたかはわからないがでもと呟いた彼を見ると、私の後ろを窺うように見ていた。
視線につられるように振り返ると目につくのは黄色い頭。



「……お久しぶりです。」
「久しぶり…って、嘘!」
『っ!』



黒子くんが先に挨拶をすると女子に囲まれながらにっこりと笑い、そのままスライドさせるようにして私を見た。
彼の黄色い瞳と目が合い、驚いたようにみるみる見開かれた。
普段ファンを大事にしているあいつらしくもなく、ギャラリーを押し退けてまで近付いてくる。
その間も目を逸らすことさえできず、無意識にか後ずさって持っている鞄の取っ手を握り締めた。



「ユナっち!!」
『寄るな、ばか!』



握った鞄を顔に向かって振り回し、殴りにかかるが、彼の手に止められた。
目を輝かせ、それでいて涙を滲ませながらじりじりとにじり寄ってくる彼に一歩また一歩と後ずさる。



「酷いっスよ!顔はダメ、商売道具なんスから!」
『ワザとなんだけどね!』



半ば睨むように目を合わせると、それすら懐かしそうに笑ってみせる。
思わず怯むと、その隙を見逃さず彼の手が伸びて私を引き込んだ。



「変わらないっスね…。でも、会いたかったっス…!」
『…何であんたが、…黄瀬くんが居るの…。』



彼に抱き締められる勢いで、深く被ったフードが外れる。

――黄瀬 涼太。
中学二年からバスケを始めるも、恵まれた体格とセンスで、瞬く間に強豪・帝光でレギュラー入り。
他の4人と比べると、経験値の浅さはあるが、急成長を続ける、オールラウンダー。

(私は、会いたく、なかった…)

白い髪がふわりと揺れて、彼女の表情を隠した。













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