がんばる小悪魔ちゃん(終)

□小悪魔ちゃん 勇者に戦いを挑む
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ルシフェルが攻めていた大陸を始めに、魔王軍は次々とやられていった。
残るは魔王城がある中央大陸だけだ。
勇者率いる軍勢が、魔王城目掛けて攻め込んできた。
勇者たちが中央大陸へくるまでの間、レムは打倒勇者と闘志を燃やし、あらゆる場面で対峙出来るよう、武芸の習得と魔法のスキルアップに寝る暇も惜しんで身につけた。否、大人しくしていることができなかった。ルシフェルが勇者にやられてしまう場面を思い出してしまうから。

新たに再生された翼も真っ黒だった。
そのことにレムは気に止めなかった。
気づいても驚くことはなかった。それどころか喜んでいた。
「ルシフェル様と同じ色」と。
レムがいかにルシフェルを慕い、彼女が一番、ルシフェルの死を悲しんでいることを、サタンを始めとする魔王城に残っていた悪魔たちは知っていった。



勇者たちが魔王城に攻め入ってきた。
それにいの一番に城から出たのはレムだった。
勇者には、ルシフェルと同じ武器で下してやると剣を取り、勇者たちを待ち構える。

けれどレムに立ち向かってくるのは、魔法も使えない人間ばかりだ。
勇者以外の者は殺す気はない。眠らせてそこら辺に転がせて置くのが一番いい。
レムは歌い出す。戦場へと化した場所には似つかわしい子守唄。
なんだ、この歌はと油断した人間たちが次々とレムの歌声を聞き、眠りについた。
歌を歌って一息を着いたのも束の間、剣士が襲い掛かってくる。
こんな奴を相手にしたいわけじゃない。
なのに向かってくる相手はこんな奴らばっかりだ。
「私の邪魔をしないでっ! 退きなさいッ! 貴方達には用はない。私は勇者と戦いたいの! その邪魔をしないでっ」
剣士たちに幻覚を見せて、仲間である相手を的であると認識させる。すれば誰もレムには襲い掛かっては来ない。広範囲までに魔力が効いているから。
勇者はどこだ。周りを見渡してもそれらしき姿はない。
地上にいるのはレムの幻覚に掛かった者たちだけ。
黒く染まった翼を広げ、レムは飛ぶ。打倒魔王と掲げている勇者の事だ。魔王サタン様の元に向かうのは明白だ。ならばサタンのいる部屋の前にいれば必ず勇者に会うことができる。
レムはサタンがいる部屋の前へと飛び立つ。
どこかで爆発音がした。何が壊れる音がした。視界を邪魔する煙。
それに足止めをくらい、攻撃された。
魔王城の壁にぶつかり、そのまま壁は破壊された。床に叩きつけられた。今日初めての痛みだ。
誰だ。歪めた顔。瞼を押し開き、相手を見た。 深くローブを被っていて顔は見えないが、男だと言うのは分かった。
「消えろっ! 魔王の手下!」

男の上げた片手から現れた丸く蒼い球のようなもの。それがレムの心臓に目掛けてくる。
「スリープ」
胸元へと迫ってきた手の首を掴むと同時に言った。
球は消え、男は眠りに落とされた。
遠くで重たい鉄がぶつかるような音がした。
よくよく耳を澄ませてみれば、それはレムがいる場所へと近づいてくる。
誰がくる。仲間が勇者らか。
立ち上がろうと足に力を入れると、右足首に痛みが走る。
捻ったか。けれど我慢すれば立ち上がることも出来るし、歩くことだって短時間の間ならできる。
レムは向かってくる相手の到着を待った。

鎧を頭の先から爪先まで身につけた者がやってきた。その人物を見て、レムの心臓が騒ぎ出す。
「彼を殺ったのは貴方?」
「はい。そうですよ。でも勘違いしないで下さいね。先に仕掛けてきたのは、この方です。私は防衛のためにこの方を眠らせただけです」
「そう。悪魔の言うことなんて、到底信じられないけど」
「なら信じなくて良いです。――ところで確認のためにお聞きしますが、貴方は勇者ですか?」
剣を構える相手とは違いレムは何も持たず、ただただ相手を虚ろの目で見据えるだけ。
「そうよ。それが」
「そうですか、やっぱり。じゃあ、あって間もないのに、こんなことを言うのは失礼ですけど――」
勇者が瞬きをした瞬間にレムは、その距離を目の前へと詰め、「死んでください」と低い声音で言うと同時に、素手で勇者の鎧の顔を殴り飛ばした。虚ろだったレムの目は、瞳孔が開き、血走っていた。
立ち上がろうとしていた勇者にレムは魔力で作り出した氷柱の矢を解き放つ。
でもそれは意図も簡単に叩き落とされる。
お互い無言の戦闘。
レムが頭の中で思い描ければ、呪文もなしに魔法は発動される。
憎悪に呑み込まれたレムはいつにも増して魔力が上がってはいるが、正気はない。
勇者を滅せられればそれでいい。
ただその一心で戦い、両方翼を切り落とされても戦い続け、負けた。
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