がんばる小悪魔ちゃん 番外編

□小悪魔ちゃん 人肌を恋しがる
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この世界に着て、初めての冬のとある夜。
布団と言えば、人数分のタオルケットしかない魔王城に、暖房器具なんてものはない。
せいぜいあるのは特売で買った使い捨てカイロぐらいだが、寝るときに使うわけにはいかないし、これで寒さが和らげるほど初めての冬は優しくはなかった。

寒さ凌ぎに服を何枚も重ね着をしたが、それでもまだ寒い。
おやすみなさい。と彼女が言ったのは今から5分ほど前の事だ。
この震えるような寒さを耐えながら寝るのは至難の技。
人の温もりが欲しい。
そう思いはしたが、真奥と芦屋にそんなことは言えない。けど寒い。と問答を繰り返した結果、彼女は押し入れの戸を開け、床についている真奥を見た。
「あっ、あの、魔王様。起きていらっしゃいますか」
何故、真奥を選んだのか。答えは簡単だ。
真奥よりアルシエルが少しだけ厳しいからだ。それに引き換え、真奥はなんやかんやで頼みを利いてくれる。そこに彼女は目をつけたのだった。
「……どうした。寝れないのか」
「はい。ちょと寒くて。それでですね、魔王様。今日だけで良いので、魔王の隣で寝てもよろしいでしょうか?」
「それは良いけど、珍しいな。お前がそうやって頼みに来るのは」
彼女は目を瞬かせ、小首を傾げた。
「そう、ですか?」
「そうだろ。いつもどこか一人で大丈夫だって気を張ってんぞ」
「……そんなつもりはないですけど、でも、確かに魔王様とアルシエル様にはなるべく迷惑をかけないようにしないといけない。とは思ってます」
「バーカ、いーんだよ。そんな気を使わなくて。もっと俺らを頼れ、いいな」
その言葉が嬉しくて、彼女は目を細めて微笑んだ。
「はい、魔王様」
「うんじゃあ、早くこっちこい」
「はい、魔王様」
あっさりと出た了承。
花が咲いたような満面の笑みで、彼女は枕代わりの座布団とタオルケットを持って、真奥の隣へと寝転んだ。
ただ隣で寝るだけ。そう思っていたのは真奥だけである。
「っちょ、お前、何してんの」
右隣にいる彼女は、真奥の右腕に抱きついていた。それに真奥は驚いた。
硬直する身体。右下を見れば、不思議な顔した彼女が見上げていた。
「寒いので抱きついているだけですけど……駄目ですか?」
悲しそうな顔をされてしまえば、真奥の中にある良心も働いて、ダメだとは言えなくなる。
そこそこ膨らみがある彼女の胸。それが厚着をした服の上ではあるが、抱きつかれた腕に押し当てられているのがいやでも分かる。
ふにふにした柔らかな、男にはけしてないその触感。意識するなと言う方が無理である。
いくら臣下のひとりだと思おうとしても、それ以前に彼女は女である。現役のそこそこ人気を集めだしたモデルだ。
「魔王様は温かいですね」
そう笑って、抱きついた魔王の腕に頭を傾けさせ、彼女は瞼を閉じた。

その日、魔王はなかなか寝つけなく、寝不足のままバイトに向かった。

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