本棚V

□風間ぽんが来た日
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「今日のVS収録、めっちゃ楽しかったねー。」
冷蔵庫から取り出した冷え冷えのビールを大ちゃんの目の前に置くけど、いつものような笑顔がなく。
「ん?どうしたの?ビール嫌だった?日本酒もあるよ?」
中学生みたいに三角座りしている大ちゃんはとっても小さくて可愛い。
けど、いつもの愛らしい笑顔がそこにはない。
しゃがみこんで、目線を合わせようとするけど合わせてくれない。
「ほんと、どうしたの?具合悪い?」
ふるふると茶色い柔らかい髪が揺れた。

たまに、こういうことがあるんだよね。
大ちゃんが悲しそうにしていることが。
他のメンバーならいざ知らず、言ってくれなきゃ分からないのに。
言ってよって、再三言ってるけど、自分の気持ちをあまり言わない大ちゃんはなかなか言ってくれないんだよね。

またかー、と無意識に溜め息をつくと繊細な大ちゃんは体を強張らせた。
傷つけるつもりなんか、これっぽっちもないのになー、とガリガリと頭を掻いて大ちゃんから離れて座った。

折角、風間ぽんがVSにきて楽しかったのにな、と不貞腐れながらビールのタブを開ける。
重苦しい空気を払拭するようにビールを煽った。
ソフアに背をつけてちらりと三角座りから女の子座りになって項垂れる大ちゃんを見た。
白い綿シャツに青いカーディガン、可愛いなー。
首、細いし、肩とかも細い。
もっと顔を上げて笑ってくれないかな、
あ、でも、あんな顔をさせるのも俺だけかな、なんて不埒なことを考える。

「あいばちゃん…」
「なに?」
小さな俺の名を呼ぶ声が愛しい。
「そっち、行きたい…」
目の縁が赤い。
泣かせたかな、とも思ったけど大ちゃんが何を思っているのか言ってくれなきゃ分かんないから、と敢えて平然を装う。
「来たら?」
許可を貰った捨て猫みたいにおずおずとこっちにやってくる。



「!!!」


俺も天然だーってバカにされるけど、大ちゃんは天然の小悪魔系だと思う。

ホンモノの猫のように俺の胸の中にすっぽりと入ってくる。
背中に手を回しホッと小さく吐息をついた。
甘い香りが鼻を擽り愛しさが増した。
ぎゅっと抱き締めたい衝動に駈られたけど寸でのところで止めた。
彼の甘え作戦に何度も引っ掛かり、思いを言葉にすると言う公約をあやふやにされること数回。
ここは心を鬼にして、とグビッとビールを飲んだ。

「なに?言いたいことあるんじゃない?」

はっきりいって、もうどうでも良かったけど。
ほんとは早く抱き締めたくて堪らないんだけど。
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