ORANGE days

□08過去も未来も
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─幼い頃は、いつかこんな風に誰かを愛せる日が来るなんて思ってもいなかった。


誰かを愛し、愛され…
言い様のない温かい感情に包まれた今、それが酷く心地好くてならない。
夢なら醒めないで…俺は柄にもなくそんな事を思っていた。


「…あの、隊長?」

「ん?」

「話し、聞いてました?」

「話し?」

「…やっぱり。」


ふと声をかけられて我に返ったエース。
見上げた先には相変わらず自分を見下ろして来るソラが居て胸が満たされて行く様な感覚に包まれる。
そんな中、これは夢なんかじゃない…そう確信したのは心地好い重みと温もりを感じるから。
エースはソラと視線を合わすと、その頬にそっと手を伸ばした。


「…っ、」


少し驚いてみせたその顔。
涙はいつの間にか止まっていた。
それでも微かに桃色がかった頬には先程まで流していた涙の跡があって…
指で優しくなぞってやればソラはくすぐったそうに瞳を細めた。


「で、話しって?」

「あ…あの、この体勢…冷静に考えたらこれは非常に気まずいと思いまして…」

「あぁ…確かにお前が押し倒してるみたいだもんな。」

「…そんなハッキリ言わなくてもいいんですけどね…」

「俺的に、たまには押し倒されんのも悪くはねぇんだが。」

「は…?」


エースの言葉で徐々に顔を赤く染めるソラ。
そんな姿はエースの悪戯心に火を付けるだけだと言う事も知らず、ただ自分を見上げる男を恨めしく思うばかり。
エースのマイペースは今に始まった事ではないが、それでも今のソラにとっては厄介な事この上ない。


「…もういいです。」


拗ねた様に眉を寄せたソラは遂に強行手段に出た。
がっちりと腰に回された腕を力任せに押し退けようと身をよじった…のだが。


「ひゃっ…」

「これなら文句ねぇか?」


気付いた時には何故か体を反転させられ、自分を見下ろすエースが視界いっぱいに広がっていた。
背中には甲板の冷たさが伝い、突然の出来事に何度も瞬きをして状況整理をするソラ。
そのきょとんとした表情がおかしくて、見下ろす側のエースは悪戯な笑顔を浮かべた。


「やっぱりコッチの方がしっくり来るな。」


そのどこか余裕げな表情。
普段通りの自信に満ちた笑顔…
そんな顔で恥ずかしい言葉を平気で言って退けるものだから、ソラは大きな瞳を更に大きく見開いてエースを凝視した。


「またそんな顔して。お前は男心を擽る天才だなぁ。」

「お…仰る意味がわからないんですが…」

「まぁいい。」


予想通りの反応を示すソラの言動一つ一つにエースは小さく笑った。


愛しいだとか可愛いだとか、
自分とは到底無縁だった感情は素直に心地好い。
…愛しさ故に困らせたい。
色んな表情を見せて欲しい。
自分しか知らないソラを増やしたい。
勿論こんな感情は初めて。
そんな思いを表すかの様な熱い眼差しで見つめられたソラは、逃げ場のないこの状況に自然と瞳を潤ませた。


…ソラもまた、他の何も考えられない程エースで頭をいっぱいにさせているのだ。
その事に自分自身でも気付いてしまった今…
正直顔から火が出そうなくらい照れ臭い筈なのに、気持ちに反して愛されたいと思っている自分も居る。


触れたい
触れられたい。
そして、もう一度言って欲しい…
そんな欲ばかりが出て来る。


「何かもう思考が滅茶苦茶…」

「ん?」

「いえ…」


甘え方さえ知っていれば、こんな時素直に気持ちを口に出来るのにな…
そんな風に思ってはみても生憎自分は甘え下手なのである。
甘い言葉が浮かんで来る訳でも無ければ、甘えた仕草を見せる事も出来ず、もどかしくて仕方なかった。


しかし、そんなソラの表情1つでさえ見落とさないのがエース。


「ソラ。」


ふと柔らかい声音で名前を呼ぶと少しだけ潤んだ瞳と視線が交わった。


「何、物欲しそうな顔してんだ。」

「別にそんなんじゃ…!」

「何なら気が済むまで言うか?」

「っ…」


そう満更でも無さそうに問い掛けた後、エースは静かに唇を落とした。


「愛してる…」

「隊長…」

「…好き過ぎてどうにかなっちまいそうだ。」

「…奇遇ですね。あたしもなんです。」

「そりゃ光栄だな。」


軽く唇を啄み、どちらからともなく微笑み合う2人。


エースは言葉通りソラの胸の内を満たしてくれ、そんなソラのはにかむ姿を見たエースもまた満足そうに笑う。


その光景は、まるで映画のワンシーンの様に暖かく微笑ましいものだった。


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