ORANGE days
□01隊長とわたし
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「はぁー食った食った!」
「っ…この状況でよくもまぁ呑気にそんな事が言えますね!」
「何だお前…もしかして腹減ってんのか?」
「減ってません!」
…あたし達はたった今、非常にピンチな状況に置かれている。
例え隣りを走る彼のせいでそんな風に見えなくても…
到底緊張感がある様には見えなくとも、だ。
ここは航海の途中にフラリと立ち寄った、リトルキャンディと言う有名なリゾート島。
易々と海賊船を近寄らせる辺り海軍との繋がりを一切感じさせない。
港には海賊船がズラリと並ぶと言う珍しい光景も見られた。
あたし達は今日から3日間この島に滞在する予定。
久しぶりの陸地にイヤでもテンションの上がる仲間達。
勿論あたしもその1人だ。
次はいつ陸に上がれるかもわからないし、この機会に洋服やアクセサリーでも見て回ろうと1人浮かれていた所だった。
「ハズなのにどーしてこんな事に…」
さっきまでフラリと立ち寄った店で洋服を物色していた筈。
それが気付けば大人数の大人たちに追いかけられているではないか。
「まぁそー気を落とすなって。人生明るく前向きに行こうぜ。」
「元はと言えば全部隊長のせいでしょ!」
「そう硬ぇ事言うなよ。」
「事実を言ってるんです!」
そう…全てはこの食い逃げ常習犯のせい。
何が悲しくて上司の悪行の巻き添え食らわなきゃいけないんだか。
「はぁ…」
「ため息つくな。俺まで辛気臭い気分になっちまうだろ。」
「少しは辛気臭い気分にでもなって落ち着いて下さい。そんでもって食い逃げから足洗いましょ。」
「そりゃ無理な注文だ。」
「人として最低。」
「海賊としては最高だ。」
隊長は悪びれる様子もなくいつもの様にニカッと笑った。
「…」
それを見たあたしは不覚にも何も言えなくなってしまう。
この人のこの笑顔にだけはホントに弱いんだ。
「よしソラ、お前は船までダッシュな。」
「隊長は?」
「あいつら巻いたら直ぐ戻る。」
そう言っていつもの自信に満ちた表情を浮かべる隊長。
この表情は嫌いじゃない。
寧ろ好きだったりする。
恋愛感情とか変な意味じゃなくて。
「気ィつけろよ。」
「隊長に心配されても…」
「何だ嬉しいのか。」
「…」
「そっかそっか。心配されて嬉しいか。」
「違います!」
「ま、いいから早く行け。追いつかれちまう。」
太陽みたいに笑う彼は頼もしい言葉を残してあたしを先に行かせ、自分は走る足を止めてその場に止まった。
何だかな…
元はと言えば食い逃げして追いかけられてた隊長が悪いんだけど。
巻き添え食らったあたしは被害者な訳で、本来なら迷惑極まりないんだけど…
「…ちゃんと帰って来て下さいね。」
「あぁ。」
どうも憎めないのはやっぱりこの笑顔のせいなんだろうな。
そんな事を思いながらこの場を隊長に任せて船までの道をひたすら走った。
「…悪ィ事しちまったな。土産でも買って帰ってやっか。」
…隊長が後ろでこんな事を呟いていたなんて気付きもしないで。
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