この恋、君色。
□〈四〉2人の距離
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海が現世に降り立って3日目の夜の事…
この日、黒崎家のキッチンには手際よく夕飯を作る海の姿があった。
「どうかした?」
「あ、いや…」
「?」
隣りに立って自分の手元に釘付けになっている一護を海は軽く見上げる。
先程からずっとこの調子で黙って隣りに居られては、海が気になってしまうのも無理は無い。
そんな海の気持ちを他所に、何をやらせても完璧にこなしてしまう海に対して関心するばかりの一護。
掃除洗濯は勿論、まさか料理まで出来てしまうとは…
これが本当に朽木家の令嬢なのだろうか…まだまだ海に関しては知らない事が多いな、等と感じていた。
「なぁ、何か手伝う事あるか?」
「ううん、大丈夫。後は野菜入れるだけだから。」
「洗い物は?」
「そんなの男の一護君がする事じゃないでしょ。」
「別に男だとか女だとか関係ねぇと思うけど…」
「じゃあ気持ちだけありがたく。」
沸騰したお湯に目分量でだしを入れると、途端に広がる何処か懐かしい香り…
そんな中、一護の些細な優しさが嬉しくて自然と柔らかな笑顔を浮かべる海に一護もまた優しく笑顔で返した。
こんな風に何気ないやり取りが幸せで…
例えそれがほんの一時でも、心の中はほんのり温かくなって行く様な感覚。
嬉しい様なくすぐったい様な…
そんな初めての感覚に、2人は互いの知らない所で感じた事の無い感情に包まれていた。
(…一兄デレッデレだな。)
(夏梨ちゃんもそー思う?)
(そりゃあの幸せそうな顔見てりゃ誰でも思うって。)
(もうこの際ご飯まで2人っきりにしといてあげよっか。)
(それが良いかも。)
…ダイニングの外でこんな風な会話が繰り広げられているとも知らず。
─そして、夜。
「今日も手掛かり無しでした、と…」
「終わったのか?」
「うん。まぁ終わったも何も昨日から虚さえ出現しないから特に報告する事も無いんだけどね。」
「確かにこの2、3日静かだよな。」
時刻は22時。
既に夕飯と風呂を済ませた2人は互いに布団の上に座り、他愛もない会話を交わす。
その合間に海が毎日欠かさずしている事が、瀞霊挺への今日1日の報告だった。
例え何か起きなくてもこれだけは必ずしておかなければならないらしく、文書を作っている最中の海はいつになく真剣な表情。
しかし、それも終わってしまえば普段通りのものに戻る。
「もう寝る?」
「これ読み終わったらな。…つっても明日休みだし少々夜更かししようが関係ねーんだけどよ。」
「休み…?」
「あぁ…海はまだ知らねーんだったな。現世じゃ週休2日制ってのがあって土日は休みなんだ。学校もだし企業なんかも大体同じ。」
「それで明日は学校に行かなくても良い日なんだ。」
「あぁ。」
初めて聞く現世の制度に興味深く耳を傾ける海。
その表情が次第に明るくなって行く様子に気付いた一護は、一瞬何かを考える様に視線を空に泳がせ、
「そうだ…」
直後何か閃いたとでも言わんばかりに口を開いた。
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