ORANGE days
□11嵐の前の静けさ
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その日の夕刻。
ソラとエースの2人はキララを送る為、近くにある小さな島に降りていた。
「おじさん!」
「キララ?!」
住み込みでバイトをしていると言うキララの後に続いて訪れたのは街の小さな喫茶店。
その店先に立っていたのは、道中キララから聞いたこの店のオーナーだった。
「心配したじゃないか。昼前に出て行ったっきり姿が見えないもんだから。」
「ごめんなさい、ちょっと色々あって…」
キララの姿を見てホッと安堵の表情を見せる店主と、それを見て申し訳なさそうに眉を下げるキララ。
…片や、その後ろに立つ2人は何とも言い難い表情を浮かべて顔を見合せた。
店主の第一印象は¨胡散臭いおじさん¨
初対面で失礼かとも思ったが、お世辞にも人が良いとは言えない人相…
それでもキララを心配していた事が伝わって来たのは確かで、ソラはぎこちなく苦笑いを浮かべた。
「そちらの方達は?」
そんなソラに気付いた店主。
キララの一歩後ろに立つソラとエースを見て、不思議そうな表情を浮かべたのは言うまでもない。
「あ、えっと…」
一瞬ドキッと胸が高鳴った。
失礼な事を考えていただけに変な罪悪感に襲われるが、そこは敢えて平然を装い…それと同時に一瞬だけ言葉に詰まった。
普段、誰だと聞かれれば白ひげ海賊だ…と答える所。
しかし、ここでわざわざ名乗る必要もないだろうと思う。
…だとすれば何て挨拶するべきだろう…
考えた挙げ句、ソラはぎこちなく微笑むと「旅の者です」と口にした。
「海で溺れてる所を助けて頂きまして。そのお礼にご挨拶に参りました。」
「それは災難だったな。」
「ええ…まぁ。」
旅の者だなんて真っ赤な嘘に心が痛むが、助けて貰った事は事実。
少し無理があるかとも思ったが、すんなり信じてくれた店主を見て気付かれない様、ほっと息をつく。
そんなソラを隣りで見ていたエースは必死に笑いを堪えていた。
(どう見ても旅の者には見えねーだろ。)
(突然だったからつい…)
(人の良いおやじに感謝だな。)
(人は見掛けで判断しちゃいけませんね。)
(だなぁ。)
店先で何やら話しているキララ達を他所に小声でひそひそ話をする2人。
振り返ったキララが小さく微笑んだ事にも気付かず、2人はあーだこーだと言い合う。
背後には夕陽が沈み、夜の訪れを感じさせる時刻…
話しに一区切りついたのか、キララは再び2人を振り返り声をかけた。
「ソラさん、エースさん。良かったら晩御飯ご一緒にどうですか?」
「…晩御飯?」
「今おじさんと話してたんです。折角仲良くなれたのにこのままお別れするのも寂しいからって。」
「キララが人を連れて来るなんて初めてでね。大した物は出せないが良かったらどうだい?」
そう問い掛ける店主を前に2人は思わず顔を見合わせた。
助けて貰った上にご飯までご馳走してくれると言うキララ達。
ソラ達にとって民間人に助けられた事も初めてだったが、こんな風に歓迎される事も初めての事…
慣れない事ばかりで正直驚きを隠せない。
「…いいんですか?」
「勿論さ。タイミング良く今日は定休日でね。店でぱーっとやろうじゃないか。」
遠慮がちに問い掛けるソラに店主は笑ってみせる。
「折角のご厚意だ。甘えさせて貰おうぜ。」
隣りには既にその気になっているエース。
食べ物の事になると目の色が変わるのは相変わらずな様で、その嬉しそうな表情に呆れながらも頷いた。
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