スペードの国のアリス
□Prologue
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ア「もうこの引越しも二回目ね。さすがにもう驚かないわ」
そう言ってアリスは自分の所持品を丁寧に片付ける。
ハートの国からクローバーの国へと引っ越したときはさすがに驚きを隠せなかったが、さすがに二度目なら対応できた。
それに、以前とは違って居なくなった人は居なかったようだし、心細くなったりなどはしなかったからだ。
それは一番の幸いだろう。
アリスは上段に本を並べる。
それを少しばかり気だるげに手伝う男、
いつも派手な帽子をかぶるマフィアのボス。
ブラット=デュプレがいた。
ブ「お嬢さんは私を使うのが上手なようだ。マフィアのボスであるこの私に部屋の片づけを手伝わせるなんてね」
そう言ってアリスに本を手渡す。
アリスは文句を言われながらも作業を進める。
ア「貴方が私が片づけをしているときに来たんだから、しかたないでしょう?恋人に頼みごとをしてはいけないなんて、どの辞書にものってないわ」
そう言って、また本を受け取る。
ブラットはふぅ、とため息をついてアリスの言う事をしぶしぶ聞いている。
ブ「引越しとは、面倒なことだな。毎回毎回こうもだるいと気がまいる」
そう、この“引越し”と呼ばれるものは突然やってくるのだ。
自分たちが土地を移動するというよりも、
土地が移動してくるといったほうが正解だろう。
以前ハートの国から引越したときも、こうやって面倒な作業を行ってきた。
ア「それにても、このスペードの国って不思議ね。以前森だった場所が公園になってるんだもの」
そう、あのドアのある森は消え、新たに大きな噴水のある公園になっていたのだ。
公園といっても、広すぎてもはやどこからどこまでが公園なのかは分からないほどだが。
ア「それに、あのクローバーの塔はスペードの塔になっているし。塔は変わったのにナイトメアやグレイがそのままいるのにはびっくりしたけど」
上段の本をしまい終わったアリスは、パンパンっと手をはらってブラットのそばに近寄る。
ア「手伝ってくれて助かったわブラット。そういえば次の時間帯にはスペードの塔で会合があるんだったかしら?」
そう言うとぶらっとはソファに腰掛けてアリスを手招いた。
ブ「会合とは、まただるいものを…お嬢さんは私を振り回ししぎではないか?」
ア「ちょっと、私が主催するんじゃないんだから文句は主催者に言ってちょうだい。でも、ルールなんだから行かないといけないでしょう?」
あぁ…と、まただるそうに答えるブラッドに、アリスはたじたじだ。
そんな矢先。
デ「ボス!お姉さん!大変大変!」
ダ「大変ってもんじゃないんだよ!ね、兄弟!」
アリスの部屋に突然押しかけてきたのは
双子の門番。ブラッディー・ツインズ。
かわいらしい子供の容姿とは裏腹に、身の丈ほどもある斧を無邪気に振り回す。
エリ「こらお前ら!アリスが怖がってんじゃねぇか!…ごめんなアリス」
頭の上で茶色い耳をぴくぴくと動かしながらアリスに謝るこの男は、
この帽子屋ファミリーのbQであるエリオット=マーチ。
どうしても、彼に会うとその頭の上のかわいらしいウサギ耳に目がいってしまう。
ア「え…えぇ、私は大丈夫…」
アリスは突然どんちゃん騒ぎで現れた3人に困惑しながらも答えた。
デ「それより大変なんだよっ!」
ダ「僕たちの話を聞いてよ!」
そういう双子の門番のあわてっぷりは相当なもののようだ。
仕方なく、騒がしいのを注意するよりもさきに事情を聞く。
気だるげなブラッドも、何も言わずに二人の発言を待つ。
ダ「スペードの塔にね、二人目の余所者の女の子が現れたんだって!」
デ「落ちてきたんだって!」
ア「え……」
余所者は私だけじゃなかったの?
そんな疑問がアリスのなかで廻る。
そんな世界だ、たしかにそんな事態がおこっても不思議ではない。
でも、自分はペーターという白ウサギによってこの世界に連れてこられた。
と、いうことはその二番目の余所者の女の子もこの世界の誰かに連れてこられたのだろうか。
ア「私…その子に会ってみたいわ」
自分と同じ境遇のその女の子に会ってみたい。
ただそんな思いだけが溢れてきた。
ブ「興味深いな。私もこの目で見てみたい。次の時間帯には会合が開かれるのだから、なんらかの報告はあるだろう。退屈しのぎになりそうだ」
先ほどまであんなにもめんどくさがっていたブラッドは、そんなことは無かったかのように楽しそうだ。
ア「それじゃ、早速準備をしなくっちゃね」
そういって会合用の服をブラッドに用意してもらい、
アリスたちはスペードの塔に足を運ぶのだった―――…。