龍桜鬼

□遥か彼方空の向こうに
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蓮「真城姉!真城姉!お腹空いたアルー」


とりあえず部屋に戻った鬼龍隊一行は
真城の部屋で一休みしていた。
一人部屋に8人は流石に狭苦しい。
けれどそのなかで最年少の蓮は
空腹に絶えかねてだだをこね始めた。
畳の上でじたばたする蓮を、零が足で蹴る。


零「うるせぇぞ蓮!!ここはお前の家じゃねぇんだからちょっとは黙って座ってろ!」


げしげしと蹴られる蓮はなみだ目になりながら零に反抗する。


蓮「だってだって!ここの新撰組の人たちは鬼龍隊を甘く見てるネ!真城姉はすっごい人なのに全然気にしてないしっ!お茶の一つでも出すのが普通アルヨ!」


ぷんぷんっと腰に手を当てて怒る仕草を見せる蓮。
その姿を見て夜深もはぁっとため息をつく。


夜「そうですわ。いささか新撰組の方々は真城がどんなに偉大な方なのか知らなさすぎですわね。この刃の届かないうちに理解頂けるといいのですが」


ふっと鼻で笑う夜深。
その手は自身の刀にそっと触れていた。
いつでも斬って捨てんとばかりに。

ユ「止めておけ夜深。そんなことをすれば真城の顔に泥を塗るようなものだと、わかっているだろう」

冷ややかな声を発したのは柱にもたれかかっていたユーリだった。
その顔は部屋の外遠くを眺めて夜深を見ることはなかった。
夜深は一瞬ユーリを見たが、ふい、と顔を背け再び口を開く。

夜「いずれにせよ、真城に歯向かうなら私は誰であろうと斬りますわ」


真「まぁまぁ夜深、落ち着いて。私はそんなにすごい人じゃないって」


爽やかな笑みを浮かべる真城は夜深の頭をぽんぽんっと軽く叩いてなだめる。


夜「真城もあそこであの鬼副長と本当にやり合えばよろしかったのに」

拗ねる夜深を真城はくすくすと笑いながら
撫でる。

真「あの鬼副長さんを見てるとなんだか虐めたくなっちゃっただけよ?本当に手合わせなんて面倒なことしないわよっ」

采「真城がそんな悪戯に争いごとをするはずがないです。最近特に刀を抜いていないし、抜くまでも無い戦いばかり。こんなとこで抜くはずがないです」


夜「采麟・・・若干私に喧嘩売ってますわね?」


采「いいえ?別にそんなことはないですよ?」


2人の間に火花が散っていることを
面白がるように、ヒュウは堪え切れなかったように笑う。


ヒ「ホントお前ら毎度毎度懲りねぇなー。そんなんじゃ真城の体、いくつあってもたりねぇぞ?」


夜「ヒュウは黙ってってくださいます?」


へいへい、と笑って白旗を揚げるヒュウ。
そんな2人のやり取りを、ユーリは大きなため息をついて聞いていた。

すると、真城がおもむろに立ち上がった。


真「ちょっと外出てくるね」


そういって部屋の障子の扉へと足を運ぶ。


夜「どちらへ?」


夜深がすかさず立ち上がろうとするが、真城はすっと手を出して止めた。


真「いいよ夜深。ちょっと局長と話してくるだけだし。ほら、そんな顔してないで、ここまでの道中長くて疲れてるだろうからよくやすんでて?ね?」


不満そうな夜深とは対照的に、真城は笑顔を見せていた。再び口を開こうとする夜深だったが、真城は気に止めずにそのまま振り返って部屋を出て行ってしまった。


夜「・・・・」


采「一人で大丈夫なのか、心配?」


采麟は夜深の考えを察知したかのように、
夜深に問いかけた。
夜深は言葉に詰まったように一瞬黙るが、
はぁっとため息をついて采麟に視線を合わせる。


夜「心配に決まってますわ。・・・まぁ、真城が負けたりするとは思ってませんけど。でもこんな男所帯を一人で行き来するなんて、あまりいいようには思いませんわ」


そうだ。ここ新撰組隊舎には雪村千鶴を含め、真城、夜深、采麟以外に女性はいない。
しかもここにいる隊士たちはそんじょそこらの町人の男よりも力があり、気性が荒い。
たとえ真城が鬼龍隊隊長だということが知られていたとしても、
身の安全は保障できない。


夜「なにもなければいいのですけど・・・」



夜深は空に浮かんだ流れる羊雲を
遠い目で眺めるのだった―――。
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