その瞳に映す

□人魚座 興行
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その日、人魚座の一座が壬生村で一日限りの興行をする


それを聞いた壬生村の住人達はこぞって人魚座の興行を見ようとした


彼らは京を出身にする旅芸人の一座でありその芸は大名達でさえ唸らせる


一座の出し物は多種に渡り各々が一流の腕前を持つ


その中でも誰もが魅了される業を持つのは座長の如月刹那


病弱なため滅多に舞台に上がらないと言われる彼女が舞台に上がると聞き誰もが壬生寺へと集まった



「人魚座ですか?」


「ああ!千鶴は知らねぇのか?蒼介さんとこの一座。日ノ本中を旅してたって言ってて江戸にも行ったんだと」



全国を行脚してきたと言う


蒼介自身も座長であり、双子の姉である刹那と共に軽業を人々に見せ楽しませていた


それも蒼介が新撰組に入隊するという事で破門にされたが



「蒼介さんは普段から変装してるから素顔がどんなか知らねぇけど座長と似てんじゃねぇかな?…行こうぜ千鶴!」


「え?」


「人魚座の興行は滅多に見れるもんじゃないんだよ。それに座長は俺達とは旧知の仲なんだよ」



千鶴の腕を引いて藤堂は人魚座が興行を行う壬生寺へと向かった



壬生寺へ行けばそこには既に人だかりができていた



「すごい人だね平助君」


「そりゃあ、そんだけ人魚座が人気って事だろ?」



千鶴とはぐれないように手を繋いで移動する藤堂


だったが



「何処だろここ?」



なぜか千鶴は藤堂と離れ離れになってしまっていた


千鶴が迷い込んだ先は



「おや、ここは関係者以外立入禁止なんだけどなぁ」



黒髪に蒼い瞳をした妖艶な女性の元であった



「貴女は?」


「ん?私かい?私は刹那よ」


「刹那さん?」


「うん。よろしくね千鶴ちゃん」


「え?」


「ふふ…ここを真っ直ぐに行けば平助君に会えるよ」



柔らかく微笑むその人に後押しされ平助君と合流できた



「何処行ってたんだよ千鶴?」


「ごめんね、平助君さっきね、不思議の女の人に会ったの」


「へー、どんな奴?」


「女性にしては少し背が高くて綺麗な黒髪に蒼い瞳をした…」



ドドン!



千鶴が続きを言う前に太鼓の音が響いた



「東西、東西!これより始まるは一座一の軽業師にして我らが座長如月刹那の軽業!とくとご覧あれ!」



軽快な笛の音や太鼓の音に合わせ出てきたのは顔の半分を面で覆う女性


音に合わせて様々な動きで周囲の人達を魅了してやまない


終盤を迎えたのか壇上に何本もの棒が立たされる


口元に僅かばかりの微笑を浮かべるのが見えた



「これより先は座長刹那が奏でる笛の音と軽業を堪能くださいませ!」



人の倍以上ある棒の上に軽々と飛び上がり差していたであろう横笛を取り出し奏で始める


魅惑的な笛の音は民衆を虜にした


それに加えた軽業


人々に更なる楽を与える







全てが終わった後も皆が皆夢心地であった



「人魚座ってすごいんだね」


「だろ。特に刹那さんを見るためだけに連日通う奴がいるんだから」



夢のような一時であったのだろう


様々な出し物に話は尽きない


二人がそうして話していると



「新撰組八番組組長藤堂平助殿とお見受けします」



小柄な少年が藤堂へ声をかけた



「お前は?」


「座長の使いです。座長がこちらに来るようにとの事です」



少年の物言いに藤堂と千鶴は顔を見合わせ瞬きを繰り返すのであった




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