小話
□rings on the water
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六魔将軍との戦いが終わり、静かな妖精の尻尾。
今日は降り続く雨のせいもあり、俺をはじめ仕事を休んでのんびりしているメンバーがほとんどだった。
「雨…やまないなぁー」
「ね」
窓の外を眺めるルーシィとカナに、プーン、とプルーも相槌を打つ。
「ジュビアのせいじゃないと思う」
二人の会話を聞いて、ジュビアが慌てて弁解している。
そーいやコイツ、ファントム戦で俺と戦ったときちょっと前まで青空を見たことが無いとか言ってたっけな…。
「誰もそんな事言ってねーよ」
雨なんて降るときは降るし、止まない雨だって無い。それだけのことだ。
俺がそう言うと、ジュビアは顔を真っ赤に染めてうつむき、机にノの字を書きはじめてしまった。
ナツはといえば、そんな周囲の会話などおかまいなく、いつものメンバーの集まるテーブルの椅子に座ったまま寝ている。
「いつまで寝てんだナツ」
エルフマンが呆れたようにナツを見下ろすが、全く起きる気配が無い。
本当にコイツ、放っておいたら明日まで寝てるんじゃねーか…。
ん?起きないなら起きないで…そうだ。
「顔に落書きしちまおーぜ」
思いついた事を口に出すと、周りの奴らの表情が一斉に輝きだすのがわかった。
さすが妖精の尻尾の仲間。意思の疎通は完璧だ。
「おいリーダス、ペン貸してくれ!!できるだけ消えないやつな!!」
「あ、あたしの分も〜!」
雨で皆することが無く、何か暇つぶしになるものが欲しかったところだ。今のナツは格好のオモチャだった。
窓の外を見ていたルーシィ達も早速食いついてきて、皆リーダスからペンを受け取ると、ナツの周りに集まり出した。
「俺が一番な!!」
発案者の俺に一番乗りの権利があるのは当然だ。
気合を入れて腕まくりをしようとしたが、服を着ていない事に今更気付いた。
…最近誰もツッコんでくれないから気付きにくいんだよな…。
さて何を描いてやろうか、と左手をナツの頬に添えると、自分の掌に納まってしまう輪郭にドキリとする。
"うわ、顔小せー…"
確かに自分より少し小柄だな、くらいには思っていたが、予想外だった。
てか、よく見ると割と可愛い顔してんだよな、コイツ…。
寝息をたてる薄く開いた唇に何だかドキドキしてきてしまい、ラクガキをしようとペンを持った右手は止まってしまっていた。
"しかも、肌つるっつるだし…"
掌を少し滑らせると、なめらかな感触と程よい弾力が返ってくる。
それが何とも言えず気持ちよくて、無意識に何度も掌を往復させてしまう。
ナツが特に手入れをしているとも思えず、それでこんなにきれいな肌ならばいつか女性陣に呪い殺されるのでは、と妙な心配をしてしまう。
「グレイってばどうしたの?描かないならあたしが先に描いちゃうわよ」
俺を押しのけてきたルーシィの声にハッと我に返る。
って俺、今何考えてたんだ…。
「ナツってば、おとなしくしてれば可愛いのよね〜」
そう言いながらルーシィがナツの頬に触れるが、途端に無言になってしまった。
黙ったまま、真剣な表情で頬を撫でている。
「ちょっとジュビア。来て」
真剣な声音のルーシィが指差すのはナツの顔。
側まで来たジュビアの手を取ると、ナツの頬に触れさせた。
「…まぁ、なんて柔らかいほっぺ…」
ジュビアはナツの頬をつまむと、ふにふにと伸ばしている。
うっとりと頬を染めるその表情は、小動物を可愛がるような、何とも幸せそうなものだ。
「お前ら、どうしたんだ?」
俺たちのテーブルの様子がおかしいのに気付いた他のギルドメンバーも近寄ってくるが、やはりナツの肌に触れると皆同じように緩みきった表情になるのだった。
大勢がかわるがわるナツを撫でまわしていたが、本人はそれでも全く起きる気配が無い。
ったく、何でアイツ起きねーんだ?
男にまであんなに触られまくって、されるがままじゃねーか…。
…?
なんだコレ。
何で俺がイライラしてんだよ…。
ナツが起きないから?
それとも…
ナツが他の奴らに触られてるから…?
…そんなバカな。
「あー、クソッ!!」
苛立ちまぎれに、最近は減らしていたタバコをズボンから取り出そうとするが、その手は空振りする。下半身に目をやると…
ズボンも履いていなかった。
「チクショー!!!」
"グレイ、服!!"
ギルドメンバー全員から手遅れのツッコミがやっと聞こえてきた。
→あとがき