【F2119】海賊|第2部

□「竜宮城の密会」
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「ゾロが先に来てるって言ってたなー」

ルフィは自分の身長より軽く10倍はありそうな、それはそれは大きな扉を見上げて言った。
けったいなもじゃもじゃのおっさんに連れられやって来た、竜宮城。
絢爛豪華なお城はそりゃもうカッコよくて、ルフィをずっとワクワクさせている。
姫のペットを助けたお礼だとかでご馳走してくれるらしく、空腹限界のルフィに異存あろうハズもない。
やっと着いた宮廷の中も色々あって楽しそうで、ルフィの探検心がウズウズしたのだけれど、とりあえず美味そうな匂いにくんくん鼻を膨らませウソップ達の元を離れたら、いつしかこの扉の前に到着していたのだった。
「しかしでかくて分厚くて堅そうな扉だ!」
インペルダウンの壁みたいな扉にはなぜか斧や刀がたくさん刺さっていた。
それよりも美味そうな物が確実にこの中にはあるのだ。嗅覚に従って匂いの元を辿ってきたらぱたりと扉の前で途絶えたから、間違いない。
きっとここが宴会場だ!!
「だってゾロばっか先にズリィよなっ!!」
ゾロばっか……と心の中で繰り返したら、ルフィはなんだかドキドキしてきた。
ここへ向かっているとき、先にゾロが来てると聞いて無事だったことにホッとした反面、他人の口から出てきたゾロの名前に(ゾリだったけど!)ドキッとしたのを思い出す。だけどそのときよりも今はもっとドキドキして、ルフィは首を捻るのだ。
ゾロがこん中にいるってことだ!と思うと早く会いたくて堪らない、足踏みして草履をパタパタ鳴らせる。
2年ぶりやっと会えたのに、またあっという間に離れ離れになる予定なんかなかったので、くっつき足りない気がしてくるともう頭がそればっかになってくる。
そっかこれがサンジの言ってたイチャイチャかぁ……。←遅い
「ま、アイツは酒大好きだから食わずにのんでばっかだろうな」
出会ったころからゾロは寝てるか酒のんでるかトレーニングしてるかだった、とゾロの顔を思い浮かべたらそれは2年前の相棒の顔で、ルフィは無意識に自分の左目を掌で隠していた。
「こんな感じなんか、ゾロの視界って……」
修行を終えたゾロは片目を失っていた。まだ再会して間もないのもあるが、ちょっと見慣れていない自分に気づきルフィは驚く。
見た目に無頓着なせいかさっそく人違いしただけあって、ルフィはその辺ドライなのだ。
だけど知らない間の変化がルフィの胸ん中をなんだかもやもやさせて……。
「きっと腹減ってっからいけねェんだ!!」
おれんことも半分しか見えねェのかと思ってたけど、そんなこともないみたいだしやっぱり空腹のせいだ。
ルフィはそんな頓珍漢なことを考え、
「よっし、ゾロの分も食いまくるぞー!!」
と意気込みも新たにおれはやるもんねポーズした。
そしてその扉の取っ手に手を掛けようとした、そのとき──。

「何やってんだルフィ、そんなとこで」
「ぬお!?」
後ろからさっきまで考えていた男の声が聞こえ、ルフィはびっくりして飛び上がった。
「おれはお化けかよ……」
「……ゾロォ!!!」
振り向くなりぱあっと破顔する。
酒瓶片手にニヤと笑う剣士になんか男っぽくなったか?と相棒の顔を改めて、ガン見。
「なんだよじっと見て」
「んん! ゾロかっこいいなーと思ってよ」
「はあ?」
怪訝な顔も2年前より渋い。
無頓着というより、ただよく見ていないだけなのかもしれない。
とりあえずルフィはてててっと寄って行って、相棒にぎゅっとハグした。
「感動の再会はもう済んだろうが」
くつくつと頭上で笑う声が聞こえる。こうやってひっつくとやっぱりゾロの身長は伸びた。
「でもあんとき抱きつけなかったもん」
「さっそく甘ったれてんじゃねェよ」
とか言うクセに、ゾロの片腕が腰を抱いてくる。
しかしルフィの腹がぐぐうっと鳴って顔を見合わせて吹きだした。
「おいルフィ、宴会場はあっちだぜ」
くいくい、とゾロが自分の来た道を親指で差す。
「えー? ゾロが言うことだからなァ」
きっと迷子だ。間違いない。
それに会場はこの扉の向こうだと思うんだよ。
「そりゃどういう意味だ!?」
「あははは。まァいいやどっちでも」
「そうだなどっちでもいいな。ちっと寄り道してこうぜ、船長?」
「へ?」
ルフィが首を傾げてゾロを見上げれば、デコにちゅっとキス。
2年経ってもこういうときのゾロの意図するところは勘で解る、だってこの雰囲気は……。
手首を捕られ引かれるまま、ルフィはその扉をしばし離れることにした。


迷路のような通路をいくつか曲がって衛兵がいない柱の陰に隠れる。
真っ白い石のそこへゾロはルフィを押し付けるなり、噛みつくように唇を合わせた。
すぐにルフィの細い両腕が首に絡みついて更に引き寄せられる。
薄く開かれた口内へゾロはさっそく舌をねじ込み、船でもこっそり何度か味わった甘いルフィの舌をきつく吸った。
「ぅんっ、んー」
ルフィは昔から──と言っても離れ離れになる前のほんの数ヶ月のことだが、とてつもなく性には疎い奴だった。
キスから何から、ゾロが教えたようなものだ。
あのころから変わらない稚拙なキスの応え方なのだけれど、ルフィはたまーにゾロより貪欲になることがある。
それは大抵、強敵との戦いのあとだとか、長く離れていたときだとか、なかなか抱き合えなかったときだとか……。
要するにこんなお子さま船長にもそれなりの性欲が秘められていることを、幸運にもゾロだけが知っている。
今のルフィはどうやらそのスイッチが入っているのだろう、負けじと舌を絡めてはふはふ言いながら、必死にゾロとのキスを楽しんでいるようだった。
こんな船長はツチノコより珍しい。
なにせ空腹より優先させている(自暴自棄な解釈だ)。
「はぁ、んん、ゾ…ロ、あんな」
「キスしながらしゃべんな」
くちゅ、と音を立てて長い長いキスが一時休止。
ハァハァとすっかり息の上がったルフィの潤んだ目が見上げてきて、熱をはらんだそれにうっかり下半身が疼いた。
「ゾロ、酒臭ェんだけど」
「今更だ……。お前は肉の匂いなんだってな。前にチョッパーが言ってたがおれにはちっともピンと来ねェ」
多分、本来のルフィの体臭を嗅覚が記憶しているせいだろう。甘いような日向の匂いは、ゾロの好きなルフィの匂いだ。
「そんでな、あっちから誰か来るぞ?」
「それを先に言え!!」
またルフィの手を引きその場を離れる。
足音を殺しながら走っていたが3人組の兵士とぶつかり、ルフィは「お前らごめん!」と一言詫びるや覇気発動。
ぶくぶく泡を噴き眠ってしまった彼らにゾロはギョッとした顔で、
「ルフィ……おれ達がここで会ったこと、絶対ェ誰にも言うなよ」
あーあ、と額を押さえて唸った。
「なんで??」
「そのない頭で考えろ」
「えー!?」
それから手近にあった扉を開け放ち、中へ飛び込めば、幸いひと気のないだだっ広い接見室だった。


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