【F2119】URA

□「二人が海賊になった日」
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いきなりのスコール。
まだ見ぬグランドラインの破天荒な海でなくとも、ここ、東の海にも突然の大雨くらいは降るので、小舟に揺られ出来立てほやほや海賊団“麦わらの一味”は、──と言ってもまだ二人きりの一味だが、現在このスコールに感謝すらしていた。
なぜなら既に3日、飲まず食わずの漂流中だから。
船長ことモンキー・D・ルフィは、ゴムゴムの口をタライのように大きく開け、雨水を空腹の胃袋に流し込んで「まだ腹1分目」とかぼやきつつ、そして彼の1人目の仲間こと剣士ロロノア・ゾロもまた、久々の水分補給をして硬い腹筋を「やれやれ参った」と撫でさすった。
その後も二人は大雨で服を洗ったり体を洗ったり。頭をガシガシやってみたりと、とりあえずはこの天の恵みを有効活用した。
そうこうしてピタリと止んだ雨。また晴れ間が顔を出す。
気づけば全裸男二人が小舟で佇んでいる光景はなかなかに滑稽だったが、まぁどうせ誰も見ちゃいない。
晴れ間と言ってももう太陽が西に傾き、夕焼け空に変わろうとしている時刻だった。

「あーあ、もう雨やんじまったー」
ルフィが突っ立ったまんま恨めしげに茜空を見上げて言う。
「やんじまったな」
そのルフィに背を向け、胡座を掻いていたゾロが相槌を打つ。
船長につられて服を全部脱いでしまったものの、ルフィのように惜し気もなく急所を晒す趣味はないので顔だけ振り向いて。
目線の先にいる素っ裸の少年が片身離さず大事にしている麦わら帽子を被った。軽く笑える格好になったが本人は気にも留めない。だからゾロも気にしない。
ルフィとはまだ出逢って間もないが、なぜだか既に旧知の気楽さがあった。加え、誰の下にもつく予定のなかったゾロがこんなガキに命を預けたのは、なりゆきと言えなくもない状況だったが伊達や酔狂じゃなく納得済みのことで。
とは言え、この緊張感のなさや無防備な姿を見るにつけ感じてしまう、一抹の不安……。
それでも一緒にいるのは彼と一つの約束をしたからだった。
ルフィが海賊王となったとき、自分はその仲間の大剣豪であること。
その約束を反故するつもりは毛頭ない。
そんな、へたすりゃ一生を共にするかもしれない船長の生まれたままの姿をこうも早く目撃するとは、なんとも奇妙な気分である。
珍しくもゾロに湧いた相手への純粋な興味がその目を釘付けにする。
つい、上から下までじっくりと眺めてしまった。
「……ん?」
視線に気づいてかルフィがゾロに顔を向けた。
ルフィはゾロの目が自分の股間で静止しているような気がして、己の股ぐらを覗き込んでみる。
「何やってんだ、ルフィ」
「いや見てたから」
「ああ」
実のところゾロは、ややちょっぴりだが、ルフィの股間にぶら下がっているシンボルが皮を被ってピンク色した亀頭に、まだその段階なんだなぁと益体もなく見ていただけで、その部分に他意はない。
しかしパッと顔を上げたルフィが楽しいことでも思い付いたようなキラキラ笑顔で自分を見るのに、たちまち嫌な予感にかられてしまった。
「ゾロのはどんなんだ!?」
どんなんって何が。ナニが、だろうか。だよな……。
「一緒だろ」
細かくは違うが。
隠すのも女々しいのでそのままの格好で眉間にしわをよせ、暗に“確認しなくていいぞ”と目線で訴えてみるもルフィに通じる筈もなく。
テテテッと小舟を揺らしながら寄ってきた彼にはさらに背を向け、「なんだよ!」と一応の牽制。
「だから、ゾロのちんこ!」
「ちんこ言うな」
「ゾロもおれの見たんだからお前も見せろよ」
「お前ほんっとタチ悪ィな……」
勝手にしろよの体で胡座を掻いていた膝に手を着く。
後ろからひょこっと覗き込んできたルフィがゾロの股間を、凝視。
「でかっ!!」
第一声がそれで、まぁお前よりはなと思ったが、言えずにゾロはむっつりと口をつぐんだ。
「おれのとなんか違げェ?」
ルフィが小首を傾げる。“細かく”観察してるらしい。
自分のを摘まんで己のブツを見た船長は、その手をゾロのイチモツに伸ばしてくるのでハタッと掴まえた。
危っぶねェ、ギリギリセーフ……。
「おれは触ってねェだろ。だからお前も触んな」
「じゃ触っていいぞ? ──ホラよ!」
ガッチリ握られた手にゾロがまさかと思っているうちにルフィのナニを掌に押しつけられ、ムニュリとした感触。
「なっ、何してくれてんだてめェ!!」
「よぉしおれも触るぞーっ」
「さ……!!」
触んなァ!と叫びたかったがああ言ってしまった手前、律儀なゾロは言葉を呑む。
目の前に座り込んだルフィに強引に引っ張られ(息子を!)痛くて目を白黒させるも、「ほへー」とか感心気な船長にいじり倒される羽目に……。
なんだこの展開。海賊がこんなでいいのだろうか。何がいいかもわからないが。
「なんかおもしれェかァ? 見たことねェのかよ、自分と同じくらいの歳のヤツの」
「ねェな。山賊のオッサンがいっぱいいたけど見ようとか思ったことねェし」
強くなるのに、幼いころから手一杯だったので。
一番歳の近かったルフィの兄は今の自分と同じ歳で海へ出てしまったし、当時14の自分はまだまだ子供だった。こんなに差が出るものだと、思いもしない。
17歳になって海へ出たとき兄に一歩近づいたのだと、ただただそれが嬉しくて……。
冒険心と希望に満ちている、今だって。
他人の体のこととか、考えたこともなかった。
だけど──。
「あんとき、おれ何て言われたんだっけ?」
「……ルフィ?」

それは兄と過ごした、最後の夜のことだ。
兄エースが自分に言った言葉の意味を、ルフィは唐突に知りたいと思った。

『本当に惚れて惚れこんで、自分を必要としてくれるヤツとするもんだ、セックスってのは』

当時、ルフィには“セックス”の意味すらあやふやだった。それは今もそうで、なんとなく体の深い部分で繋がる行為だってことは、周りの大人達の会話であとあと解ったけれど。
それとちょっぴり、やらしいことだってのも……。
あの夜、子供のころ兄弟仲良く過ごした特別な木の上の家、3人だけの小さな国で、ルフィはエースに「セックスしていいか」と聞かれたのを思い出す。
「エースならなんでもいいぞ?」と答えたルフィにエースはそばかす顔をくしゃりと歪め、「やっぱやめた」と、額にキスひとつ残して言ったのだ。
小さかった体は、ずいぶんと大きくなった。
エースと二人ゴロンと仰向けに寝転んだらもういっぱいいっぱいで。
だからくっつくように寄り添って、ルフィは初めてエースに背中をポンポンされながら、うとうと目をこすっていたから忘れかけていたけれど。
確かにあの言葉を、エースはルフィに教えてくれたのだった。

「──フィ? おいルフィ!」
「へ!?」
「そう無心でいじられるとな、嫌でも反応しちまうんだけどよ」
「何が??」
「触っててわかんねェ?」
「──おわっ!」
芯を持ち始めたゾロのペニスはさっきよりも充分な硬さと大きさを持って半勃起状態だった。
ルフィも一応は精通しているので、この先ナニがどうなって白いのが出るのか、ぼんやりだが解っている。
「夜も更けてきたし、スコール前よか腹もこなれたし、どうせ暇だしよ、ルフィ……」
「うん。んん?」
ゾロは答えることなく、ルフィの背を舟の縁に押し付けてきた。
当惑しているルフィの顔にゾロの一回り大きな影が差す。
おもむろに胸を触ってきた手はルフィの大きな目をパチパチさせ、ルフィはにこりともしない相棒の顔を見上げた。
「ゾロー?」
すりすり撫でられる肌。ゴムの手触りじゃねェな、と呟いたのは独り言らしい。
左胸の小さな色付きを指先で引っ掻かれてピクリと肩が揺れる。そんなところを、意図して触られたのは初めてだ。
と、不意に頭を下げたゾロの緑髪を見ながらそういや珍しいなァ緑って、とか今更な発見をしていたら先ほど触れられた乳首に濡れた感触を感じ、ルフィはようやく少し身じろいだ。
「舐めたか!?」
それに答えるように、次はちゅうっと吸われる。ぴりりと、痛みのようでそうじゃない痺れみたいなものに眉根を寄せる。
なんだろ、これ……。
吸ったと思ったらまた温かな舌先がれろれろ突起に絡み付き、カリッと当たったのが歯先だと悟ったのは、ルフィにしてみれば奇跡だった。
「…あっ」
小さく漏れた自分の声は波の音に消え、それがおかしいことだとルフィにはまだ解らない。
感じるのに、理解できない。ムズムズする感覚は難解すぎだ。
左乳首をちゅっちゅと啄まれて右の乳首はゾロの指先がくにくにしてくる。
じん、と熱くなった腹の奥底、その熱はたちまちルフィの中心に向かっていった。
「ん…っ。ゾ、ゾロなにやってんだ?」
まぁ乳首を触ったり舐めたりしているのは一目瞭然なんだけど。
そうする意味が解んねェ……。
やがて右乳首にあった剣士の長い指はつつつと下腹に下りていき、なんの躊躇いもなくルフィのペニスに添えられた。
「…? あぁ、ゾロもいじりてェのか!?」
「おう。お前もいじったからな、おれの」
「そ、か……んあっ」
ぎゅっと握られ咄嗟にゾロの肩をルフィは押しやった。そんなことをするつもりなどなかったのに、変だ。
おかげでゾロの顔が上がったけれど薄暗がりではよく見えない。
ただ、少し息を上げている風なゾロが不思議だと思い、ルフィはまたまた首を傾げた。
「啼かしてェな……」
ポツリ、またゾロの独り言。
「こんくらいで泣くかよ!」と答えてみたら今度は「そっちじゃねェ」と返事が来た。
じゃあどっちだよ、と口を開こうとした矢先、ゾロに首筋に噛みつかれ乳首と同じくちゅうっ、ちゅっと何ヵ所かをその唇が吸った。
なんとなく、くすぐったい。
初めての感覚も、肌に当たるゾロの短い前髪も。脇腹を撫で上げる手なんか全部がくすぐったくて、じっとしていられないのに動けない。
伸びあがってきたゾロに耳たぶを噛まれ(また噛まれた!)思わず首を竦める。
ルフィの股間を扱き始めた手にルフィはとうとう「フンぎゃー!」と目を剥いた。
「そ、そういうのすると硬くなっちまうんだぞォ!?」
そしたらちんこが上向いて戻んなくて、すんげーキモチイイ白いしょんべん出るのはいいんだけど、そうしないとちんこは元に戻らないのだ。──ったような、記憶がある。
ゾロはおれのそんなん見たいのか??
「ルフィも自分でやってんだよな?」
「何を?」
「自慰ってやつだろ」
じい……? じいちゃん? おれのちんこがっ!?
「んなわけねェだろ!」
「なんだマスも掻かねェのか。道理で……」
「もうゾロ意味わかんねェ。やめろよ!」
「今更やめられっか。おれはもう勃起しちまったんだよ」
「……何で!?」
「おれも勃起したんだから、当然お前も勃起するんだよなァ?」
まるっと揚げ足を取られたわけだがルフィの頭はそこまで回らない。
シュッシュと上下に擦ってくるゾロの手はしっかとルフィを捕えていて、M字に開いた足をふるふるっと震わせる。
わわ、キモチイイ……かも。
なんだか腹がもわもわしてきた。あと、頭ん中ふわふわ、心臓はドキドキする。
ルフィのエラの部分にちょんとキスしたゾロの息はますます荒くなってきたようで、「ルフィ」と囁かれると背筋がゾワゾワ粟立った。
「や、ア、ハァ……ッ」
じっとりと額に汗が浮かぶ。
意識がしごかれている股間に集中する。
舟にたぷんたぷん打ちつける波の音に混じってすぐ下方から、くちゅくちゅと粘着質な音が鼓膜を震わせ、ルフィは勝手に腰が揺れるのを止められなかった。
「ゾロ……も、やめ──」
マジ出るからやめろって! と喚きたかったがゾロの肩をぐっと握りこんで自分に引き付けるあたり、矛盾してると思う。
解ってるのに、解らない。さっきからそんなんばっかりだ。
ちょっとイライラしてきたルフィは根っから短気な性分なのだ。
もう我慢やーめた、と思った瞬間ゾロの手が離れていき、急に放り出されたルフィの下腹がぎゅうぎゅう痛くなった。
「なんで……っ」
「やめろっつったじゃねェか。やっぱやめた」
「やっぱ、やめた……?」
あのときの、エースのセリフと一緒だ。そしてルフィは思い出したのだ。
『おれじゃねェからな、きっとルフィが初めてにしたい相手は』
そう兄は続け、ルフィの頭をガシガシ撫でた筈だ。
エースはあのころの自分の全てだったのに……だったら誰だと言うのか。

「ゾロも違うのか?」
自分から体を離そうとするゾロの屈強な二の腕をルフィは咄嗟に掴んで止める。
「何がだよ」
「ゾロはおれんこと、必要じゃねェんか?」
そして自分はゾロに惚れて惚れこんで≠「るのだろうか?
海賊狩りと呼ばれるこの男を、最初に知ったのは人の口からに過ぎなかった。見たこともない男だったのに、直感がルフィを動かしすぐ会いに行った。
初めて言葉を交わした時のゾロの印象はその宝物の刀のように触れたら斬れてしまいそうな魔獣で。だけどゾロが“いいヤツ”だと自分で確かめられたから、ルフィはゾロを仲間に引き入れると決めたのだ。
それと、その信念と野望。しかもその胸の真ん中にある温かいモンが、ルフィの心をきつくきつく捉えて離さなかった。
あの瞬間を、忘れない。
ゾロはルフィが自ら欲して、生まれて初めて仲間になってくれた男だった。

「おれはゾロに惚れてんだと思うぞ」
臆面もなく告げたらゾロが訝し気に目を眇めた。
「そりゃあ誘ってんのか?」
「誘う?」
「抱いて欲しいのか、って聞いてんだよ」
「???」
「……必要だろう」
「へ?」
「お前はおれの船長だ、必要不可欠だろうが」
コイツがいなくて、海賊をやる義理はこれっぽっちもない。
「おおっ、そうかそうか! そんならしよう! えーっと……セックス、でいいんだよな?」
「なんだ知ってんじゃねェか」
「いやそれっきゃ知らねェけどさ。うーっと……」
また何やらルフィが考え始める。自分の船長ながらちょっと変なヤツなのはすでにゾロも知っている。
ルフィのデコとほっぺがみるみる赤くなって、軽く衝撃を受けている自分にゾロは当惑する他ない。
なに動揺してんだ、おれァ?
それからルフィはようやく何かを思い出したらしく、ポンっと手を打った。
「抱いて欲しい。……であってるか?」
小首を傾げるルフィの仕種なんぞにうっかり欲情している自分も、ちょっと変なヤツだったのかもしれない。
「正解」と一言、ゾロはにやり口角をつり上げ、小舟の船底に細身の船長を押し倒した。


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