オフ本サンプル

□【サンプル:色彩纏う金色に手を翳しましょう】
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「オレってば幸せ者だなぁって思ったんだってば」

 今のように好きな人に甘やかされて、今日のように家族のような班員が自分を祝ってくれようとしている。そしていつものように仲間が支えてくれている。

 これを幸せと言わず何を幸せと言うか。

 ひまわりのような、だが精悍な表情さえ併せ持つナルトの笑みをみてサスケは目を見開く。そして同時に金色に絡めていた白い指を解くとナルトの身体を掻き抱く。

「うわわっ・・・いきなり何だよサスケッ」
「うるせぇ。今は黙って抱かれてろ」
「意味わかんねぇし、ぎゅってし過ぎ! 苦しいっての」

 強く抱き込まれた華奢ではあるがちゃんとした男の身体は女のように柔らかい訳ではない。だがこんなにも愛おしく感じるのはナルトだからだ。その愛おしい人がサスケに自分が幸せだと言った。きっとナルトはこの言葉がどれほどサスケにとって深い言葉だったのかなんて一生気づく事など無いのだろう。

「もー、一体何だってんだよ・・・」

 思った以上の苦しさに流石のナルトも抵抗を試みていたが、離す気配は無く、むしろ緩まる様子も無いサスケの腕に諦めたように溜息を漏らす。そして掻き抱かれた反動で行き場を失っていた腕を再度サスケの背に回すとポンポンと子供あやす様な、そんな仕草をサスケに与えた。

「・・・このウスラトンカチ」
「はいはい。何を思ってあの心地よい雰囲気から苦しい抱擁に変えてくれたのかは知らないし分かる気もしないけどさ、流石にオレでも苦しい抱擁は嫌だってばよ。せめてもっと優しくしろってば」

 そしたら許してやる、と微笑むナルトにサスケは腕の力を微かに緩めるといつもの悪態をつく。確かに緩めはしたが、だがそれは本当に微々たるもので、何ともサスケらしい行動にナルトは呆れよりも笑いが込み上げる。思うがままに笑えば拗ねるのは百も承知、故に声に出すのを我慢して肩を震わせ笑いを我慢したのだが、サスケが気づかぬ筈も無く。苦い顔をして身体を離すと未だ笑いをかみ殺すナルトの額を人差し指でビシリと弾く。

「いっ・・!」
「お前がいつまでも笑ってるからだ」

 見慣れた精悍な顔がほんのり赤みを帯びてナルトを睨みつけてくる姿は拗ねた子供のようで。

「サスケ、お前可愛いってばよ」

 思ったままを言葉にしたら意外にもそれはやんわりと発音された。離れた温もりに少し寂しいと感じつつもその離れた距離でサスケの顔を覗えば、困った様な嬉しい様な何とも言い難い表情をされたので、きっとそれはサスケにも気づかれていたのだろう。

「サクラに叱られる前に戻るぞっ」

 先程の表情とは裏腹に天性の忍としての力量を発揮した一人前の忍が木の幹に乗ってきた時と同じように音も立てず飛び降りる。

 言動の一つ一つにギャップがありすぎる。
 今でさえ行動は一人前の忍なのに離れた理由が何とも可笑し過ぎてナルトは笑いを収める事が出来なかった。下ではサスケが苦虫を噛み潰したような表情をしているに決まっている。だが今度こそ声に出して笑ってしまえば本格的に拗ね始めてしまい、収集が付かなくなってしまう。

 そんな今なら何でも出来そうな気がした。つまり、笑って何でも誤魔化せると言うように、今なら何でも言えそうな訳で。

 ならばせめていつもとはちょっと違った言葉を言ってサスケの表情の一つや二つ簡単に変えてやろう、と笑い出た涙を指で取りながら、言ったあとのサスケの表情を想像して笑うのだ。

「愛してるってばよ!」



(本文一部抜粋)



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