FINAL FANTASY [

□〜The 2nd War〜
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第29章part5


教室の扉や窓を塞ぐ音も、やがて終了したのか静かになった。
スコールは壁際まで移動していた。この暴走で壁に走った亀裂は、窓もないこの部屋と建物の外とを繋ぐ細い空間を作ってくれていた。
そこから間もなく昇るであろう朝の光が微かに入り込んでくる。
自分を貫いた先ほどの光とは全く違う、優しくて暖かい光だ。
壁に背を預け、リノアを抱きしめたまま、己とリノアとに交互に回復の魔法をかけ続けている。
「(…この空間では回復魔法も効果がないのか…)」
魔法の威力を抑えてしまうこの部屋の中で、決して得意とは言えないにしろ擬似魔法を使えるスコールと、先ほどの物凄い雨霰の様な魔法を繰り出したリノアとではそれでも大きな差がある。改めてリノアの力の大きさを思い知った。
まるで壊れ物にでも触るように、とても大切そうに、自分の方に寄り掛かっている小さな温もりを抱きしめたまま、その胸元に手を当てて魔法をかけ続ける。
ふいに、その手に小さな手が重ねられた。
「…あったかい…」
「!! リノア! よかった…」
「スコール… 本当に、本物のスコール…? また夢を見ているの?」
「俺は、ここにいる」
「…夢でもいい、スコールがいてくれるなら…」
「夢なんかじゃない。…でも、俺も同じだ」
「私、力がどんどん溢れていって、自分で自分を抑えられなくて、怖くて、一人ぼっちで…ずっと、スコールを呼んでた。
 “助けて!”って…。 もう、諦めそうになってた。…でも、声が聞こえた。ここに来てくれた。だから、嬉しいの」
頬を伝う液体が2人の重ねられた手に零れ落ちる。
「…俺も、ずっと会いたかった。ずっと探してたんだ。毎日嫌な夢を見て、落ち着かなくて、そこにあった筈の温もりがないってことの寂しさを、知ったんだ。
 でも今は、リノアがここにいる。暖かいと感じる」
「…ね、どんな夢を見たの…?」
「…忘れた」
「クスッ、また誤魔化してる。…前にも、こんなことがあったなって思い出してた。暗くて、寒くて、息ができなくて、でも、スコールが温もりをくれた」
「俺にとっての温もりは……リノアだけだ」
「ねぇ、この指輪、どうしたの?」
左手の薬指に嵌められた指輪を、手を広げて見つめた。少女のような笑みを浮かべて、リノアはスコールの返事を待った。
「…貰ったんだ」
「誰に? この指に嵌めてくれた理由、考えちゃうな〜」
「…たまたまその指が丁度いい位置だったんだ」
少々拗ねているような投げやりな返答が返ってくる。それでもリノアには分かっていた。それは彼の照れ隠しなのだということを。
「スコール、もう1度聞いても、いい?」
「何を?」
「…私、魔女でもいいの?」
「…魔女でも、いいさ」
壁の亀裂から差し込む細い朝日の僅かな光の中、2つの影は重なっていった。

魔女であるということ。
今回の事件のように、彼女がどんな形にせよ狙われることを意味する。
「(やはり表に出すべきではなかった…)」
それは独占欲でしかないのだろうか?
誰の目にも触れさせず、どこへも連れ出さず、ただ自分だけの側に置き、自分だけを見つめる存在にしてしまう。
確かにそれは安全かもしれない。彼女の力を他の誰かに継承させてしまえばいいだろう。
しかし、それは彼女が一番嫌がる行為だ。
自分と同じ力を得て、そして自分と同じ様に晒される。他の誰かにそんなことをさせたくはない。
いつも口にしている彼女は、この先長い長い時間、この呪縛の中で生き続ける覚悟を持っているのだろうと思った。
ならば、自分がその支えになる。彼女を守る。騎士として…
2人は寄り添いあったまま、語り合った。リノアはここトラビアでのこと、スコールはエスタでのこと、そこで出会った仲間のこと。
そこに無口でクールなスコールの姿は無かった。気付いていなかった。心が温かくなっていることに…
他人を寄せ付けず、干渉されることを嫌い、感情を表に表すこともできなかったあの頃からは想像できない姿だ。
「ね、スコール、いつまでこうしていられるかな?」
「今、アーヴァインとセルフィとゼルの3人でオダインブランドを探している。早ければ今日中にも外に出られる」
「もう!!そういう意味じゃない!」
「心配するな。俺はもう、二度とリノアを離さない。離れない。命をかけて守る」
「…ありがとう…」
リノアはスコールの胸元に当てた手に違和感を感じた。
「(…濡れてる…?)」
体を起こし、改めてスコールを見つめる。
「スコール、服、どうしたの…?」
先ほど手を触れた辺りまで服を捲り上げてみる。
「うっ…」
スコールが顔を歪める。胸元から腹部にかけて酷く爛れ、血が滲んでいるのが暗闇でもハッキリわかる。
「スコール!!まさか、ずっと我慢してたの!? わ、私…」
「大丈夫だ。大したことは無い」
暗闇で、しかも抱きしめられた状態で、リノアの座っている位置からは見えなかったが、スコールの顔にも同じ様な症状があった。
リノアの座る位置の反対側の半身は無意識に盾としたのであろう。ジャケットの袖は見るも無残なほど引き裂かれ、同じ様に爛れ血が滴る肌が見えていた。
急に鼓動が早まる。…そうだ、不本意とはいえ彼にこの傷を負わせたのは紛れも無い自分なのだ。
「スコール、早く保健室に…」
「ダメだ。今ここから出るわけにはいかない。…また1人置いておくこともできないしな」
ただひたすら、謝ることしかできない。効果の薄い回復魔法をかけるしかできない。
会いたい、ずっと側にいたい、触れていたい。大切な人のはずなのに、…傷つけることしかできないなんて…
スコールが迎えに来てくれたらびっくりするぐらい強く――― そう言ったのは、ついこの前だったはずなのに、それは、この魔女の力の強さを示していたわけではない。
もっと強くなりたい。この力を自分で抑えられるくらい、強くなりたい。
そう願う心とは裏腹に、口から出る言葉は、許しを請う言葉だけ。
魔女という力を得てから、10年もの時間がただ無駄に過ぎた。ずっと守られてきただけの、影の存在でしかなかった。
この10年の間に、もしかしたらもっと色々なことが分かってたはずなのに、なぜ何もしなかったんだろう?
こんな時になってから初めて、魔女であるという意識が強まった。
あの時、頭の中に響いてきた声は何だったんだろう?何と言ってた?それは私に継承された魔女の力の本来の持ち主…?
…知りたい。理解したい。
「…リノア…? どうかしたのか? …気にすることないからな」
考え込んでしまったリノアが我に返る。
また泣きそうな顔をして、そっとスコールの顔の傷に触れる。
今だ流れる血が自分の腕を伝っていくのが分かっても、手を離さなかった。
『ケアルラ』
「…温かいな…」
「…顔の傷、増えちゃったね」
「これは、リノアを守った証。騎士としての俺の勲章だ…」


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