FINAL FANTASY [

□〜The 2nd War〜
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第47章 part.1



五月蝿いマスコミの山を掻き分けて、自分専用のジェットヘリに乗り込んだところで、ガルムは深い深い溜め息を重そうに吐き出した。
操縦席でフライトの準備をしていたところにまでその声は届き、パイロットは思わず苦笑いを浮かべた。
今回の飛行は、学園長の身内の見舞いが目的であった為、護衛の兵は少ない。
それでも、人物が人物だ。
ガルムは、このガルバディアの大統領、ボルド・ヘンデル氏の子息である。
つい先日、その大統領が銃撃されたのだ。
当然、身内であるガルムにもその銃口が向けられる可能性はない訳ではない。
周囲の者達の緊張と警戒は最大限に高められた。
学園長という立場もあり、連絡は受けたもののすぐに彼の父が入院する病院へ向かうことすら困難だった。
忙しい学園長としての公務を片付け、全て出払ってしまったガーデンのヘリの代わりに専用のジェットヘリの手配をし、口喧しい役員どもの意見を無視して最低限の護衛だけを連れ、漸く父の元に顔を出すことができたのだった。
デリングシティの様子を初めて自分で目の当たりにして、ガルムは言葉を失った。
TVの報道番組で流れる映像など、何を誇張し過ぎているのかと鼻で笑っていた。
だが、目に写る光景はガルム自身が思い描いていたものとはかけ離れていた。
ほんの数日で、町はこんなにも変わってしまうのかと実感したと同時に、民衆を恐ろしいと感じた。
そう、今まさにこの世界を震撼させている、魔女と同じように…。

昨晩、やっと訪ねることができた父と、それでも僅かだが会話をすることはできた。
すぐに麻酔のせいで再び眠りに落ちてしまった父の寝顔を確認して、プライベートでとったガルバディアホテルへ向かった。
どこから嗅ぎつけてくるのか、ここにも報道陣の人だかりができていて、鬱陶しいことこの上ない。
必要以上に眩しいカメラのフラッシュが目に焼き付いてしまう。
「ヘンデル学園長!大統領にはお会いになりましたか?」
「大統領の傷の具合はどうなんですか?」
「なぜこちらのホテルに?病院ではルームサービスを受けられないからですか?」
「先日の、年上の女優とのスキャンダルは事実ですか?」
「今後の魔女派の動向についてどう思われますか?」
どうして今、こんな時にまでそんな質問が出てくるのかと、我が耳を疑ってしまう。
車からホテルの入り口までのほんの短い距離に、一体いくつの質問が飛び出したのだろうか?
「ヘンデル学園長、今のお気持ちを聞かせて下さい!」
どうせ無視されると思っていた記者たちは、そこで意外な顔をしてしまう。
ドアマンの押さえた扉を潜る瞬間、ガルムがこちらを振り返ったからだ。
「…身内が、…たとえ未遂とはいえ殺されかけたんだ。…察してほしい」
「あ……」
「………」

ガルムがこのホテルをとったのは、煩いマスコミが病院にまで入り込んでくるのを避ける為と、もう一つの目的があったからだ。
フロントで受け取った白い封筒。
最上階の部屋の肌触りのいいソファーに深く腰を落としてから、封を開ける。
中に入っていたのは、短波式の小型通信機械。
電源を入れてチャンネルを合わせる。
世界中どこにいても大抵の場所で使用できる上、チャンネルを合わせれば誰でも聞くことができる。
10年前に電波障害から復旧した際、世界各地に電波塔を整備した為だ。
盗聴の可能性はもちろんある。
だがガルムはだからこそ、あえてこれで通信をしているのだ。
「御苦労さま」
『…お疲れ様です』
「で、何かあった?」
『家の地下室で祭りの主催者が次の出し物の準備をしています』
「…そうか。会場はわかる?」
『はい、いつでも参加できます』
「わかった。ちょっとこっちの準備ができるまで待っててくれないか」
『了解しました』
簡単な会話を交わしただけで、ガルムは電源を切ってしまった。
口元をニヤリと歪ませて、今度は部屋の通信機械からガーデンへと連絡を入れた。
「僕だ」
『学園長、大統領のお怪我の具合は…』
「君までマスコミと同じことを聞くな」
『申し訳ありません』
「こっちの地下で、また反政府組織のグループを見つけたらしい。今回のデリングシティでの暴動を扇動したようだし、また何かを始めるみたいだ」
『…では』
「あぁ、明日の朝までに取れるだけの情報を入手したい」
『わかりました。すぐに向かわせます。…連絡は如何様に?』
「いつでも構わない。電話で起こしてくれ」
『畏まりました』



この位置からでも民衆が起こしているのであろう、町の喧騒が伺い知れた。
窓枠に肘を乗せ、その手を自分の顎にかけながら、思い浮かべるのは昨夜の父の言葉ばかり。
この仕事に就いてから、なかなか会って会話を交わすこともできなくなったが、この数日間は何度か顔を合わせることが多かったように思う。
再び現れて、この町を、この世界を震撼させた存在のお陰になどしたくはなかった。
だがつまり、それだけこの町は平和だったと言うことになるのだろうか?
昨夜の父の様子に違和感を覚えた。
怪我をしたことで弱気になっていただけか?
口では迷惑そうに言っていたが、エスタ大統領と会うことを仄めかしていた父はどこか嬉しそうに見えた。
あれは気のせいではない。
何が父を変えた?
あんな気弱な父を見たことがない。
そして、今回の彼が口にした言葉…
それがガルムには一番理解不能なことだった。

亡き前終身大統領、ビンザー・デリングに代わり、名乗りを上げたのはボルドただ一人だった。
皆、魔女の脅威を恐れた。
魔女の脅威がなかったとしても、デリングの後釜に座るということがどういうことなのか、いやでも判っていたからだ。
それでも、ボルドは名乗りを上げた。
自分が、この町を治めるために。
ガルムにしてみれば、その時の父は輝いて見えていたことだろう。
まだガルバディアガーデンの学生という立場でしかなかった彼は、その日から“政治家の息子”ではなく、“大統領の息子”になったのだから。
前大統領の暗殺、そして魔女騒動で混乱の渦中にあったこのガルバディアを纏め上げ、新しい政府を確立させたボルドは忽ち国民の絶対的な支持を集めた。
デリングの時代には有り得なかった平和な時代が始まったのだ。

国民にとって、そして息子ガルムにとっても、大統領のたった1つの憂いはファーストレディ、つまり彼の妻の不在であった。
ボルドが大統領となった時も、ガルムがガーデンを過去にない優秀な成績で卒業した時も、そこにいたのは、彼らの家族ではなかった。
だがガルムは不満など一度も口にしたことはなかった。
父を、彼の仕事をよく理解していたからだ。
それはボルドも同じで、息子が史上最年少という若さでガルバディアガーデンの学園長に就任し、共に祝いあえる時間を取ることさえできなかったが、陰ながら、そして大統領という立場から彼を支え、今日に至るのだ。
年頃の親子の断絶などという言葉は、この親子には当て嵌まるかどうかさえ、周囲にはわからなかった。
だが少なくとも、ガルムは父を疎ましいと感じたことはないし、拒絶したことは一度もない。
父という存在を尊敬し、誇りを持っていたのは事実だ。

その父が、変わってしまった。

平和な時代が訪れて10年。
大統領という地位に就いて10年。
真面目で、世の為人の為に働いてきた父は、平和ボケしてしまった。
今の大統領という地位にしがみついているだけという印象を稀に見せる時もあった。
それは仕方のないことだろうとガルムは思っていた。
だが、突然沸いた、『魔女』という存在。
これだけ世に知れ渡ったのは、ほんの数日の間のことだ。
そのほんの数日で、自分が築き上げた町も地位も捨てて逃げ出すような腰ぬけになってしまうとは!
人を変えるのは、時間ではなく、環境なのだと、ガルムは思い知った。
彼を、父を元の威厳ある姿に戻すためにはどうしたらいいだろうか?
そんな父を慰めになどならないだろうが、ガルバディア政府に反旗を翻す者たちを徹底的に粛清してきたのがガルムだ。
昨夜の通信も、そんな不逞の輩をまた1つ消すことができたというもの。
次に父と話すときには、いい知らせとして報告できるだろう。
一刻も早く、全ての不穏分子は排除してしまわねばならない。

ふと視線を落とした先には、つい今しがた自分がここまで乗ってきた黒い高級車があった。
かたわらで煙草をくわえているのは寡黙な運転手だ。
車内は禁煙となっているため、こうして車の外で一服していたのだろう。
地面に映っていたヘリの影の一部がゆっくりと動き出す。
同時に室内に僅かに振動が伝わる。
プロペラが回転を始め、飛び立つ準備が整ったようだ。
そこから生まれた風が、運転手が手にしていた煙草の火を煽る。
風を受けて散った火花が、緩い弧を描きながら地面で弾けた。
思わず目を奪われてしまったその光景に、ガルムははっとする。

「…悪い虫は元から断たねば」
「学園長、何か?」
「…行き先を変更してくれ」



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