FINAL FANTASY [

□〜The 2nd War〜
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第45章 part.1


「さて、困りましたね〜」
後ろ手に組んだ己の掌にぎゅっと力を入れて、シドは呟いた。
その視線は、学園長室から望める豊かな森林に向けられたままだ。
この新しい学園長室が作られてから、もう10年になる。
突然地下シェルターに格納されていたガーデンの起動装置がせり上がり、学園長室内にエレベータが出現した時はその驚きと、何よりもそれ以上に切迫した状況であった為、何も対応できないでいたが、戦争が終結し、ガーデンが再びこのバラムの地に落ち着き学園生活を再開しようとした際に、改めてこの部屋の現状に気付いた。
ガーデンを運営していく上では何の支障もないが、さすがに学園長室がこのままでは自分たちの仕事が出来ない。
そこで、ガーデンが浮上稼動し、F.H.の職人達に修理を頼んだときのことを思い出した新たなマスター・シドは、再びF.H.の見事な腕を持つ職人達に依頼し、かつては学園長室だった部屋を操舵室に、その隣に今までのものよりは小振りながらも新たに学園長室を併設して貰ったのだ。
地下にあったマスタールームは閉鎖することなく、生徒達の新たな訓練の場として再築し、今は多いに有効に使われているようだ。
「そうですわね。通信もできないようですし、派遣されている子供たちは大丈夫かしら…?」
シドの呟きに応えるように、自身の胸の前で祈るように両手を組んだ女性は、10年前の魔女戦争のときの魔女イデアその人である。
しかし、戦争終結後、彼女はその力を失い、今は普通の人間として、シドの妻として、そしてこの学園の長として子供たちの成長を見守っている。
彼女はかつてシドと共に小さな孤児院で大勢の子供たちと暮らしていた。
そしてガーデンを作り上げ、その時の孤児たちは立派なSeeDとして成長した。
その時の名残で、生徒達全員を『子供たち』と呼ぶ。
そのことに、生徒達の間では賛否両論あるようで、“母親”的存在であると言う者、未だ魔女であったという“忌避”的感情を抱く者、それは様々である。
イデア本人は気にしていないようではあるが。
「申し訳ありません、マスター、学園長。私の責任です…」
学園長室の入口扉近くに起立していた女性教官の1人が頭を垂れた。
その言葉に反応するように、シドとイデアが女性教官のほうを振り返った。
「なぜ、貴方が謝るのですか?シュウ」
イデアが少し困った顔をして女性教官に声を掛ける。
「ホープ・キニアスとウィッシュ・キニアスの兄弟に許可を出すように、半ば強引にキスティスを説得したのは、私なんです。
 あの時、彼女はティンバーでの任務を終えた直後でした。…彼女には、その後起こり得るだろうことを予測している節がありました。
 いくら優秀とは言ってもまだ年少クラスの少年。彼らの熱意に負けたとはいえ、私のした事は安易過ぎました…。それがまさかこんな結果になるなんて…」
イデアはシュウの元へ歩み寄ると、穏やかな笑顔で諭すように話しかけた。
「…シュウ、悔やむことは誰でも出来ます。それにそれはもう終わってしまったこと。誰にも、過去を変えることはできないの」
「学園長…」
「それよりも、今はもっと大切なこと、やらなくてはならないことがあるのです。今朝のガルバディア軍の来校で、学園内は混乱しています。
 皆に状況を知らせ、落ち着いた行動を取るように伝えてくれますか?」
「!! はい!」
2人に向かって敬礼をしたシュウは、学園長室を後にした。
「…イデア」
2人きりになった学園長室の空気は重いままだった。
「…わかってます。彼女を責めることなんて、私にはできない。私の罪はあの子よりも重いものですもの…」
シドはそっと、イデアの背に手を添えた。


『ピンポンパンポ〜ン♪ ガーデン内全生徒及び教官の皆さんは速やかに各自の教室に戻って下さい。』
校内放送が流れる。
声は放送担当の者のものだが、どこか緊迫感を漂わせていることが感じられた。
シュウは年長クラスの教室へ急いでいた。
放送を聞いて慌てて教室内に駆け込んでくる生徒が数人見える。
「ほら、急いで席について!」
教室内はざわついていた。
年長クラスということもあり、中には既にSeeDとして派遣業務に携わる者もいる。
ガーデン内の生徒達の中で、一番年上のクラスということで比較的落ち着くのは早いようだ。
しかし、やはりどの顔も不安を浮かばせている。
「シュウ先輩!何が起こっているんですか!?」
シュウが教室に入るや否や、質問が飛んでくる。
教官という立場にあり、彼らとは年齢が離れているとはいえ、彼女は“先生”や“教官”と呼ばれることを嫌っていた。
自分は確かに教える立場にはいるが、それでも完全な人間ではない。そんなに偉そうな肩書きなどいらないと思っていた。
そこで、敢えて“先輩”と呼ぶように言っていた。かつてはこのガーデンでここにいる生徒たちと同じ様に学び、訓練を受けていた身なのだから。
「それについて、今から説明します。落ち着いてよく聞いて欲しいの」
シュウはある程度皆が静かになったところで、話を切り出した。
「今朝、ガルバディア軍がガーデンに来たことで、驚いた人も多いと思います。でも安心して。危害を加えに来たわけではないの。学園長と話をしに来ただけのことよ」
「それにしては随分な重装備で大部隊でしたけど」
「それに、誰かが連行されたみたいでしたけど?ちょっとした騒ぎを見てました!」
「それについてもちゃんと説明します。…はい、席に座って。質問は後からちゃんと受け付けるわ。まず、話を聞いて欲しいの」
そこは年長クラスである。大人しくシュウの言う通りに静かに聞く体勢に入る。
「みんな、エスタでの魔女研究所爆破の事件は知っていると思います。 …はっきり言うわ。容疑者として、このガーデンの生徒が上げられました」
その一言で教室内には大きなざわめきが起こった。

シュウは、人物の名を一切口には出さなかった。
生徒達の中には、気付いていた者もいたかもしれない。
別に、彼らを擁護しようと思ったわけではない。そういう指示を受けたわけではない。
それでも、口に出すのを躊躇った。
魔女研究所の事件に関わったとして、決定的な証拠と共に訪れたガルバディアの将校に、ガーデンからの指示ではなく彼の勝手な単独行動であり命令違反を犯した旨を伝え、彼は捕らえられた。
生徒達にそう説明したが、それで納得できるわけも無かった。
未だガーデンの敷地内にはガルバディア軍が少数ではあるが駐屯しており、何かを待っているのかじっと見張りを続けていた。
生徒達にとってはそれは不快なものでしかなく、容疑者となったガーデンの生徒という人物に少なからず嫌悪を抱いた。
ガルバディアの兵士達が未だそこにいるのは、容疑者を捕獲した際に逃亡した2人の少年がガーデンに戻る可能性があるからである。
「しばらくの間、我慢して下さい。みんな、下級生や年少クラスの子達の手本となる行動を取って欲しいの。いいわね」
生徒達は納得も出来ないまま、しぶしぶ頷くしかできないでいた。
「後日、学園長もしくはマスターがガルバディア政府、及びエスタ政府に出向いて事の次第と処遇を検討することになると思われます。…でも、みんなは心配しないでいいわ。
 ガーデンはまた今まで通りに運営されるはずだから。あなた達はいつものように訓練に励みなさい。説明は以上よ。
 もしどうしても聞きたいことがあったら直接私か学園長まで来て下さい。説明できる範囲で教えるから。 
 …しばらく自習しててね。勝手に教室の外には出ないこと!」
生徒達の了承の返事を受け取り、シュウは教室を出た。
「(…勝手な単独行動、命令違反…。…まったく、誰かを思い出すわ…)」

「シュウ!」
呼ばれて足を止め、振り返る。
ガーデンの教官の1人が声を掛けた。
「終わった?」
「えぇ、そっちは?」
「年少クラスの子には、ちょっと難しい話ね。こっちもどう説明していいか迷うわ…。他の先生達は終わったかしら?」
「う〜ん、時間的に、私たちが終わったってことは、もう大体終わってると思うけど。…次はあちらさん、なのよね〜」
シュウはそう言ってガーデンの正面玄関に当たるカードリーダーの辺りを指差した。
「外…? あぁ、“あちらさん”ね」
「通信も切られてしまってるから、復旧するまでは派遣に出てるSeeD達とも連絡が取れないし、もしかしたら直接帰ってきて確かめようとする子もいると思うのよ」
「…いいわ。じゃあそれはこっちで引き受けるから。シュウは次のところへ行っていいわよ」
「いいの?助かるわ。 …じゃぁこれ、派遣に出てるSeeDのチームよ。お願いね」

やらなくてはならない仕事が山積みのときに、助けてくれる仲間がいるのは本当にありがたいとシュウは思った。
続いて向かった先は保健室だ。
今朝の捕獲時の騒動で負傷したガルバディア兵数人が、実はここで治療を受けていた。
「失礼します。カドワキ先生、ちょっとお話が……… あ、れ? マスター!! いらっしゃったんですか。失礼しました」
先程学園長室でその姿を見たばかりだったので、まさか彼がここにいるとは思っていなかった。
慌てて起立して敬礼を捧げる。
「ご苦労様です、シュウ。カドワキ先生には、私から説明しましたから」
「そうでしたか。…では私は失礼します」
「あ、ちょっと待って下さい。 少し、一休みしていきませんか?食事も取っていないのでしょう?」
「…あ、はい。 …でも…」
「命令しか、聞けませんか?」
「!! いいえ、そんなことは…」
ニコニコと笑顔を見せながら、シドはテーブルの椅子を引いて見せた。
遠慮がちに腰を下ろすと同時に、ガーデンの校医でもあるカドワキ先生がお茶を用意してくれる。
「マスターが甘党だったなんて、知りませんでした」
「イデアには内緒にしててくれませんか? 実は最近、控えるように言われてるんです」
照れたように後頭部を掻きながら言うシドの態度に、思わず笑みが零れた。
温かいお茶と、仄かに甘い菓子がシュウを癒してくれた気がした。


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