FINAL FANTASY [

□〜The 2nd War〜
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第41章part1



車の中にあったガルバディア軍の制服に袖を通すと、セルフィは重い気持ちになった。
ガルバディア軍の輸送ヘリは、アーヴァインとセルフィが身を隠した軍用車ごとドールから砂漠の収容所へ向かっている。
「こうしてると、あの時を思い出すね…」
…あの時、10年前の魔女戦争のときの作戦で、同じ様にガルバディア軍の制服を着て潜入したことがあった。
「あの時とは、違う、でしょ〜?」
サイズが少々合わないのか、軍用のブーツを顔の高さにまで持ち上げてまで自分の足を押し込みながらアーヴァインが明るい声で答える。
「…アーヴィン…」
「基地もそうだろうけど、僕にとってはさ、これから向かう場所のほうが記憶が深いんだよね〜。なんせ、リノアにさんざん引っかかれた思い出があるからさ。」
「あの時は、あぁ、やっぱりこの人ってガルバディアの人なんだ、って思った」
「ガルバディアの人だよ。だから大佐の命令は絶対に聞かないといけなかった。みんなを騙して、見捨てて、そうしてまでも指令を全うしようとしてた」
「…でも、アーヴィン、戻ってきてくれた。アーヴィンなら、その時のリノアを気絶させてでも連れ出すことはできたはずなのに、どうして…?」
ブーツの紐を結び終えて、足を床に下ろしてもまだ視線はブーツに向けられたまま、アーヴァインは呟いた。
「……悔しかったんだ…」
「…えっ…?」
「僕は、ガルバディアガーデンの人間だ。そこにも当然SeeDと分類されるクラスがあった。…超エリートね。
 彼らは個々の能力が凄く高い。優秀だ。他の生徒達の憧れの的ってやつ? でも、自分以外はみんなライバルだ、くらいにしか思ってないから仲間意識なんて存在しない。
 強さが偉さのバロメータみたいで、必死に強さだけを求めていた。命令には絶対服従で、堅っ苦しくてゆとりがなくて…。
 そんな時に、みんなに会えた。僕のこともママ先生のことも忘れてしまっていたみんなに。
 みんなに会えて僕の中にあったSeeDへのイメージが全部否定されてしまったんだ。
 …そしてSeeDじゃないはずのリノアまでもが強い仲間意識を持っていた。本当にみんなのことが大切なんだって伝わった。
 …なんで僕は、バラムガーデンに行けなかったんだろうって、悔しかったんだ…」
「…そんな話、初めて聞いた…」
「初めて話したんだから当然だよ〜」
「ごめん、気付いてあげられなくて…」
「…もう、昔のことだよ。 …それに、ズルイのは僕なんだ」
「?」
「毎日、嫌だと思いながらガーデンを出る勇気が出せなかった。そんなに嫌なら逃げ出せばよかったのに…。 みんなに会えて、みんなを理由にした…。僕は、ズルイんだ」
腰掛けた膝の上で組まれた両手に、もう一組の手が重ねられた。
「…でも、来てくれた。ちゃんと、みんなのところに…。ありがとう、アーヴィン」
座ったアーヴァインの目を見つめながら、セルフィは微笑んだ。

輸送ヘリの、さらにそこに収納された軍用車の中からでは、外の様子を知ることはできない。
窓はなく、ヘリ特有のプロペラの音だけが聞こえ続け、人の気配は全く感じられない。
庫内の温度の上昇だけが、灼熱の地に近付いたことを物語っている。
ドールでゼルが拾った情報は“バラムでSeeDと子供を捕獲した”というものだけだった。
それが果たしてあの子達なのか、2人には確信はない。
だが、それでも予感はあった。もしかしたら…という思いが2人に湧き上がる。
そのゼルはと言うと、スコールから頼まれたアイテムを届ける為に、魔女が見つかったという報告の入ったトラビアに向かった。
彼も、自分たちと同じ様にガルバディア軍の制服に身を包んでいる頃だろうか?

ヘリが旋回を始めたのが車の中でも分かった。
「どうやら到着したみたいだね…」
「…何か、聞こえない?」
地鳴りのような、重い音が微かに響いている。
見ることはできないため、どんな状況なのかは分からない。
自分たちを乗せたヘリが到着したことで、収容所が砂に潜り始めたのだ。
自分たちの乗り込んだヘリが着陸態勢に入ったところで、同じく貨物室に乗せられた軍用車に自分たちが今着ている物と同じ制服を身に纏い、手に手に武器を持った兵士達が一斉に乗り込み始めた。この収容所に共に突入する部隊の1つなのであろう。
床の更に下部からの小さな突き上げるような衝撃を感じる。それと共に動きの完全に止まった床。
静けさを感じる暇もなく新たに感じる振動。軍用車のエンジンがかけられた。
重い機械音のした方からは、外の光が暗い貨物室を黄色く照らす。太陽の光を受けて見える空気は、舞い上げられた砂漠の砂で霞んでいた。
ガルバディア軍の制服は、顔を覆うヘルメットも当然のようにあるのだが、口の部分だけは剥き出しになっている。
この砂塵を防ぐ為には、その下に厚いマスクを当てるしかなさそうだ。
ヘリのハッチが完全に開くと、車が動き出した。
1台、また1台と、ヘリの重量が軽くなっていく。
セルフィ達が乗り込んだ軍用車も、暗い世界から飛び出した。
やっと見えた外の世界は、異様な光景だった。

すっかり砂の中に潜り込んだ収容所は、最上部の管理施設部分だけが砂の上に残り、いつもの見覚えのある巨大なネジの姿は微塵も感じられない。
今だ立ち残る砂煙が、美しい山吹色の霧のようにさえ見える。美しいからこそ、不気味な姿だ。
広大な砂漠の中に取り残されたようなたった1つの建造物であったはずなのに、その周りをグルリと取り囲む夥しい数の兵団。
未だ上空で旋回を続ける軍用のヘリの爆音と、それによって舞い上げられる砂煙で、方向感覚さえも失ってしまいそうだ。
視界の悪さを利用して、施設に近付いていく。
砂地への潜行を終えた建物は、今はどこからか低い駆動音の余韻が響いているだけだった。
たった1つ開かれた入口付近には多くの兵が集合しており、隙を見て中に侵入する事などできそうではない。
「なんとかして中に入りたいけど、兵士がいっぱいだね〜」
「もう少し様子見たほうがいいかな?」
「おい、そこの2人!」
「「!!」」
突然後ろから掛けられた声にビクリとして身を正す。
振り向いた先には、今自分たちが身に纏っているのと同じ制服に身を包んだ兵士。
「お前たちも来い。整列してお出迎えするんだ」
「は、はい」
「(…お出迎え〜?)」
「(誰だろ…?)」
ヘリから降りてきた数名の兵士がなにやら報告している姿が見えた。2人のいる位置からは何を話しているのかは分からない。
兵士が何人も収容所の入口から出入りを繰り返しているが、その他の兵士達は何をするでもなくじっと何かを待っているようだった。
すぐにもう1台のヘリが近くに着陸し、兵士達は慌てて整列を始める。
アーヴァインとセルフィもそれに習い、列の中に紛れ込んで同じ様に敬礼した。
ヘリから降りてきたのは、数名の兵士を先頭に、色の違う将官用の軍服を着た人物と、2つのストレッチャー。
息があるのかさえもわからないようで、ピクリとも動く様子は無い。
それはそれぞれ別のところに運ばれるようだ。それぞれに兵士と医師なのか、白衣を身に纏った人物が寄り添う。
1つは先程ヘリを降りた将校の方へ、もう1つはアーヴァインとセルフィ達が並ぶ兵士達の列の間を通り抜けていった。
「あっ!!」
「えっ!?」
思わず声を上げてしまった2人を、他の兵士達が睨みつける。
見送りが済むとヘリが飛び去り、立ち並んだ兵士達もそれぞれの持ち場につくようだ。
ごちゃごちゃと兵士が溢れる入口で、この人の流れに乗じて収容所に入り込んだ2人は近くの倉庫のような小さな小部屋に入り込んだ。

「(…見た?)」
「(見た)」
「(スコール、だったよね)」
「(うん、間違いないよ〜)」
「(どうしたんだろ、凄い怪我してたみたいだったけど…)」
「(ってことは、もう1つはリノア…だよね〜)」
「(スコール、あのあとトラビアに行ってリノアと会ったはず。サリーも言ってたし…。そこでガルバディアの兵士に見つかっちゃったんだよ!)」
「(リノアを守ろうとしたんだね〜、あの怪我)」
「(…どうしよ、アーヴィン、子供達も助けたいけど、スコールとリノアも助けなきゃ!)」
「(なんかさ、僕たち、正義のヒーローって感じ?)」
「(!! うんうん!救出大作戦だね! …で、どうするの?)」
「(う〜ん、そうだね〜)」

小さな倉庫の外に溢れていた兵士は、それぞれ持ち場に付いたのか辺りに人影は見えなくなった。
リノアを乗せたと思われるストレッチャーが運ばれた通路へ向かい、2人は走り出した。
枝分かれの多い通路、壁のあちこちに立ち並ぶドア、小さな標識は2人には役に立たない。
2人はすっかり迷ってしまった。
「アーヴィン、ここ、どこかな?」
「…さあね〜」
「アーヴィン、ここのこと、よく知ってるんでしょ?」
「あのときはこんなフロア無かったんだよ〜。あの後、色々改装されたんだと思う」
「リノア、どこにいるのかな〜」
「!! セフィ、誰か来る」
立ち止まって耳を澄ませる。確かに小さな靴音が近付いてくるようだ。
「ど、どうしよう」
「こっちだ!」
たまたま近くにあったドアの中に逃げ込み、なんとか足音の主をやり過ごすと改めてその部屋の中を見回した。
殺風景な部屋だった。小さな狭い部屋の中は明かりも無く、机と椅子があるだけの何をするのかもわからない部屋。
壁の一面が大きな窓になっているのか、ブラインドが降ろされている。
その隙間に指をかけてそっと向こう側を覗いてみた。
「あっ!リノア見つけた! セフィ、こっち見て!」
アーヴァインが驚いた様子でセルフィに声を掛ける。
同じ様に1段低い位置から隙間に指を差し入れて覗いた先に、彼女がいた。

「…これって…」
「研究設備だね。それにしても人がいっぱいいるね〜」
「こんなところにまでこんなのがあるなんて…」
円筒形の透明なケースの中で、リノアは静かに眠っていた。
周りをグルリと取り囲むように白衣を着た人物や先程見かけた将校が立ち並び、なにやら話をしているようだ。
何に使うのかわからない怪しい光を点滅させる機械や、たくさんのコードが繋がれた大きな箱のような機械も恐ろしい拷問道具のように見える機械も不気味な唸り声を上げているようにさえ感じる。
たくさんの男達と怪しい機械に囲まれたリノアが痛々しい。見ているだけで怒りが込み上げてくる。


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