FINAL FANTASY [

□〜The 2nd War〜
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第40章part1


普段は平和で静かなバラム島は、この日、いつもと少々違っていた。
一際目立つガーデンの周りをグルリと取り囲むおびただしい数のガルバディア軍。
活気溢れるバラムの街では、何事かと人々が囁きあっていた。
島の東側には大きな森が広がり、今だ未知のモンスターが生息しているという。
正体の分からない不気味な声が響き、そこに生息する生物達が発しているのか、それともこの島の自然がそうさせるのか、奇妙な音が時たま耳に入る。
この森の中を、息を切らせて必死に走っている少年が2人。
そして、その少年を追う大人たちの声と足音。
時たま後ろを振り返りながらも、立ち止まることなく2人の少年は走り続ける。

荒い息を必死に抑える。高鳴る鼓動は口から飛び出してきそうな勢いだ。
玉のように噴出す汗を拭うこともせず、震える足も投げ出して、じっと背後を伺う。
太く大きな木の根の間に身を潜め、辺りの気配に神経を研ぎ澄ませる。
森の中に入り込んだ闖入者のせいで、動物達は身を潜め、鳥達は上空で警戒の声を発している。
風の音だけが、異様に耳についた。
両手は後ろで冷たい金属により拘束され、自由が利かない。
幼い子供の足でそれでもここまで必死に走ってきた。
自分たちの後ろを追跡者が銃を手にして走ってくる。
だがその追撃者自身にも、警戒しなければならない敵がいた。
森の奥へと逃げる途中、彼らの静止の声は勿論、時折威嚇のように銃声が響いた。
それは嬌声に変わり、悲鳴へと転じた。
この森に住む獰猛なモンスターに遭遇したのだ。
耳を覆いたくなる音と声が、逃げる2人にも届いた。
溢れそうになる涙を必死に抑える。
口に銜えていた鍵の束を後ろ手に持ち替え、兄のホープがなんとか自分の手首から片方の鍵を外すことに成功した。
やっと自由になった腕をグルグルと振り回し、嬉しそうにウィッシュの手錠を外した。
後ろからの追撃者はない。
急に静かになってしまったようだ。
「…静かになったね」
「…みんな食われたとか…」
「こ、怖いこと言わないでよ、兄さん…」
「ハハハ…」
逃げてきた方角から、数台のヘリが頭上を通過していくのが木々の梢の隙間から見えた。
「…ヘリが飛んでく。…撤退したのか?」
「ランスさん、どうしたんだろ?」
「とっ捕まったに決まってんだろ!俺たちを逃がすためにな!くそっ、バカなことしやがって…」
「ランスさんが言ってた。セントラの白いSeeDの船を探せって」
「…はっ!?セントラ!? どうやって行くんだよ、そこまで。しかも白いSeeDって何だよ!?」
「僕にもわからないよ。…でも、ランスさんはそこであの名前を出せって言ってた」
「あの名前…?」
「…たぶん、ハリー・アバンシアのことだ。…その白いSeeDの船って、たぶん魔女派の人たちだと思う」
「なんでそう思うんだ?」
「…う〜ん、勘、かな」
「…勘、かよ…」
2人はなんとかしてそこからセントラに行く方法を考えた。
ガーデンには戻れない。恐らくまだガルバディア軍の人間が自分たちが戻るのを待ちかまえているだろう。それは、バラムの街や港も然り。
この小さなバラム島から出るには、どうしても海を渡らなくてはならない。

話に夢中になっていた2人には、すぐ近くまで接近してきていたモンスターに気付かなかった。
不気味な羽音と鳴き声に振り返った先には、一体どこから集まってきたのかたくさんの虫が2人を取り囲んでいた。
「バイトバグだ!」
すかさず飛び掛って行ったのは兄のホープのほうだ。
年少クラス担当のディン教官直伝の体術で次々と倒していく。
だがこの数には流石に対応しきれない。
ウィッシュが魔法で後方から援護する。
『ファイア!』
決して炎は小さいわけではない。しかし、モンスター達は全く怯まない。
「…炎系はだめだ。…それなら『ブリザド!』」
飛ぶ力を失って地面に落ちる虫を見て、ほっとするウィッシュの手を、ホープはすかさず掴んで走り出した。
「今の内に逃げるんだよ!」
後ろから追ってくるモンスターに、ウィッシュがさらに魔法をぶつける。ある程度の距離まで来ると、それ以上の追撃は無くなった。
息を切らしながら重くなった足を庇うように地に座り込んだが、ウィッシュがホープのいつもと違う様子に気が付いたのは、そこで足を押さえて蹲る姿を見た時だ。
…ここまで走ってくる間になぜ気付かなかったのだろう…?
先程のモンスターの攻撃を受けていたのだ。
彼の足は紫色に腫れ上がり、動くのも辛いのか苦悶の表情を浮かべていた。
「兄さん!その足…」
深い森の中で姿を現したままじっと動かずにいることは命を危険に晒していると言うこと。
一刻も早く森を抜ける必要があった。
ウィッシュはホープに肩を貸し、明るいほうへと足を進める。森を抜けたのだ。
山の岩肌の一角に、大きな洞穴が口を開けていた。
よく見ると、あちこちに看板らしきものが立てられている。
「…あれ、ここってもしかして…」
洞穴の中に足を踏み入れようとしたとき、突然奥から何者かが現れた。



『エスナ』
温かく優しい光に満ちた魔法は回復系の証である。
「うわぁ…。スイマセン、僕まだST系全然で…」
「どうしたんだ?蝿にでも噛まれたのか?」
バイドバグは大きな顎を持つ蝿のモンスターだ。噛まれたり刺されたりすると傷口から猛毒を受けてしまう。
レベルが高い場合は死に至るケースもある。
「…助かった〜」
傷口は小さなものだった。それでもホープの足の半分程も侵食していた毒は、手当てが遅ければ体中に巡っていただろう。
「回復系・治療系は覚えておいたほうがいいな」
「はい、ありがとうございました。 …あの…」
「ガーデンの年少クラスだろ?キミたち。キミたちだけで森に入るなんて、無謀だな。引率の教官は誰だい? …あ、まさか脱走してきたんじゃないのかい?」
「いえ、僕たちは…」
イオリと名乗った青年は、バラムガーデンの元SeeD。今はアルバイトでここ試練の洞窟の管理を任されているのだそうだ。
最奥に眠るG.F.がその存在を失っても、ここは候補生たちにとって重要な訓練の場。
かつてバラムガーデンを統括していたマスターノーグがその座を退いてから、マスター派だった教官達は姿を消し、手薄になってしまった教官の変わりにこうしてガーデンに身を置いていた若者達が大勢影でガーデンを支えている。彼もそんな1人なのだ。
「そういえば、今日は朝からやたらとヘリが飛んでるんだよな〜。何があったのかな〜?」
わざとらしく2人に向かって独り言のような言葉を発するイオリに、全てを話すべきか迷ってしまう。
「詳しくは聞かない。僕も元SeeDだしね。 …キミたちはこれからどうするつもりなんだい? ガーデンに戻るんだったら連絡しておくけど」
「ガーデンには、戻りません」
その時、洞穴の外から声が聞こえた。
「イオリ〜!いるのか〜!?来たぞ〜!」
2人は警戒した。
「大丈夫、ただの飲み友達だ。暇だったし、美味い酒があるっていうからさ、呼んだんだ。 こっちだ!入ってきてくれ!」
イオリの友人だと言う人物も、かつてはガーデンに籍を置いていた人物だ。バラムガーデンの制服を着た2人の少年に驚いた様子だったが、あえて深く聞くこともせず、簡単な挨拶だけ返してくれた。
「なんだ、またイオリの“お世話大好き〜”が始まったのか!?」
「可愛い後輩のためじゃないか」
「へいへい、俺はここにイオリと飲むためにやってきて、雨で船が流されて帰れなくなる可愛そうな奴なんだよな」
「!!」
チラリと横目で2人を見やったその人物の言葉に、ホープははっとした。
「小さい虫が2匹ほどいるみたいだが、気になるか?イオリ」
「すぐにいなくなるよ、きっと」
笑顔のままの2人の会話の意味を、幼い2人も理解できた。
2人に言葉も無く敬礼を捧げ、ホープとウィッシュは洞穴を飛び出した。


「…あの船、親父のなんだけど…」
「…マジ…!?」
バラムの港で知らぬ者はいないと言われる雷親父の顔が浮かんだ。


→part2
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