FINAL FANTASY [

□〜The 2nd War〜
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第38章part1


「おい、校庭のヘリ見たか?」
「見た見た!エスタのだろ?かっこいいよな〜」
「俺、昨夜ずっと見てたぜ。ヘリが着陸するところ」
「マジかよ!いいな〜。俺の部屋から校庭見えねぇもんな…。 で、乗ってた奴見たか?」
「いや、それは見てない。真っ暗だったし」
「先生やSeeD達が騒いでたのって、それなのか」
「なんで今日に限って外出禁止なんだよ」
「知らねぇよ。どうせまた会議かなんかだろ」
「あー、ヘリ見に行きてぇな〜」
トラビアガーデン内にある娯楽施設の窓から、校庭に着陸したままのヘリを眺めることができる。
昨夜、突然ここに降り立ち、パイロットが校内に侵入。ガーデン内の教官やSeeD達が捕獲しようとしたが、今現在も逃走中のままだという噂が広まっている。
リノアの暴走から、生徒達には外出禁止令が出され、寮の自室と娯楽施設のみ出入りが許されていた。
娯楽室の窓は校庭に面しているので、昨夜スコールが乗りつけた小型のヘリが見える。
そのちょっとした騒動を垣間見た候補生達は、パイロットの捕獲に参加することも無くこうして広まる噂だけが情報源だった。

誰もいない静かな教室の前の廊下を必死に走っていく教官がいた。
手には教室のカギを握り締めている。セルフィと同じ教官仲間でもあり、友でもあるサリーだ。
たった今セルフィから連絡を受け、それをある人物に伝える為に、1秒でも早く知らせる為に、走っている。
震える手で慌てたように壊れた教室の扉のカギを開ける。しかし、扉は開かない。
教室そのものを封印でもするかのように、厚い木の板が幾重にも打ち付けられ、隙間から覗く山と詰まれた机や椅子はバリケードのようだ。
その僅かな隙間から、更に奥の部屋にいるはずの2人の名前を呼ぶ。
「リノア!スコールさん!聞こえる!?」
打ち付けられた木の板を拳でドンドンと叩きながら、何度も2人の名前を呼ぶ。
「………」
何か聞こえたような気がした。
「リノア!!スコールさん!! …返事が無理やったら何か合図して!」
僅かな隙間を縫って、正確にサリーの近くに小さな瓦礫の破片が飛んできた。
「! よかった!いい知らせや! セルフィが、アイテム見つけたって、今連絡が入ったんや! すぐこっちに向かうって!」
もう一度サリーの近くでコツンと音がする。
それを確認すると、サリーは1歩下がって安堵の溜息を付いた。
「よかったな、リノア」
サリーは自分のことのように嬉しくなった。
空から舞い落ちる妖精の欠片が、空気を一層冷たく冷やしていく。
この寒い中で、2人は大丈夫なのだろうかと心配しつつ、サリーは暖かい教官室へ戻ろうとした。
『ピンポンパンポ〜ン サリー先生サリー先生、至急教官室までお戻り下さい。緊急連絡が入っております』
突然響き渡る館内放送。生徒達のいない静かな空間では余計に大きく響くのが不思議に感じる。
サリーは慌てて教官室へ掛け戻った。

「トラビアガーデン教官室です」
『よかった〜!繋がった! 教官No.20セルフィ・ティルミットです。サリーはおる?』
「セルフィ先生!? サリー先生なら、さっき連絡貰ったからって、あの教室に行ってはるよ」
『すぐ呼んで!!』
「う、うん、待っといて!」
通信機が再び鳴り響いたのは、サリーが教室を飛び出してから間もなくのことだった。
受け取った教官の1人はその声の慌て方に気付いた。こちらもついつられて慌ててしまう。
受話器をその場に置き、すぐに館内放送のスイッチを入れた。
そう待つことも無く、サリーはバタバタと足音を響かせて教官室に戻ってきた。すぐに通信機の受話器を取る。
「サリーやけど、セルフィ?どないし……」
『大変や!そっちにガルバディア軍が向かってるんや!はよ逃げ……』
緊迫したセルフィの声と共に、窓の外に鳥の群れのように押し寄せるものが見えた。
それと共に近付いてくるヘリのプロペラの音。
「……あかん」
『…えっ?』
「もう、手遅れや…」
セルフィが慌てて伝えようとしたことはもう、目の前で起こっている。
校庭やゲート前だけに留まらず、屋上にもガーデンを取り囲むように幾台ものヘリが降り立ち、未だ上空に滞空したままのヘリから下ろされたロープを伝って大勢の兵士がガーデン内部にまで侵入してきた。
『サリー!はよ、はよう逃げるんや!それからリノア達にも…!!』
セルフィの声はそこでプツリと途切れ、通信機からは何の音も聞こえなくなった。
「…電話線が!!」
突然窓ガラスが割られ、ロープを伝って降下してきた兵士が何人も雪崩れ込んできた。各々手に銃を構えている。
抵抗する暇さえ与えれず、教官たちは無抵抗のまま一箇所に集められた。
教官室を占拠した兵士は無線で何事か話している。
「(…あかん、このままやったらリノア、すぐに見つかってしまう! …どないしたらええんや…)」
「おい、何なんだお前達、せめて理由くらい教えてくれてもいいだろう!」
「そうや! いきなりこんなことして、どういうつもりなの!?」
兵士は自分達に銃を突きつけたまま動かない。
「静かにしろ!」

兵士達の動きは機敏だった。
各教室から物置まで、全ての部屋という部屋を調べ上げる。
それは当然、生徒達のいる寮にまで及び、幼い子供たちにまでガルバディア兵は容赦なく銃を突きつけた。
兵士達はあの部屋の前にもやってきた。
亀裂が走り崩れ落ちそうになっている壁。打ち付けられた大量の厚い板。僅かな隙間から覗いた部屋の中はもっと凄惨だった。
「…なんだ、この部屋…?随分ボロボロだな。何かあったのか?」
「モンスターでもいるんじゃねぇのか?」
「おい、脅かすな…。入るぞ」
打ち付けられた板を力任せに引き剥がす。その度に生じる衝撃が、壁や天井の欠片をボロボロと落とす。
僅かに開いた入口からバリケードのように積まれた机の上を赤ん坊のように這ってやっと中に進入することができた。
すでに崩れ落ちた天井や壁の一部の骨組みが露になっており、細かい埃がそうなってからまだそう時間が経過していないことを物語っている。
割れた窓や壁を全て塞ぐように打ち付けられた暗い部屋の中、足元に転がる瓦礫や教室だったものの残骸で闇雲に歩き回ることなど到底無理そうだ。
そしてこの異様な匂い。
焼けたような燻臭い匂いと腐敗臭、それにむせ返るような血の匂い。
一体ここで何があったのか、兵士達をも不安にさせる空気が充満していた。

「(…?誰かきた…のか? セルフィが帰ったのか? …いや、早すぎる。何も言わないのはおかしい…。 見つかったか…)」
スコールはそっと自分に寄り掛かって眠っているリノアに声を掛けた。
「リノア、起きろ、…何か、変だ」
眠そうに目をこすりながらも、スコールの雰囲気にはっとする。
「…どうしたの?」
「……敵だ」
「え…」
「走れるか?」
体力はともかく、ケガらしいものはない。…ただ、この凍えるような寒さが、体の動きを邪魔していたのは事実だ。
「…う、うん」
『私よりも、スコールのほうが大丈夫なの?』そう続ける間もなく、繋がれた手を引かれる。
いくら目が慣れているとはいえ、それでも真っ暗な空間。リノアがその力で吹き飛ばした入口付近の僅かな光だけが、そこが出入り口なのだと示していた。
隙間から物音が続く教室のほうをそっと覗く。
「(…ガルバディア兵!?)」
リノアもそれを確認した。…自分を捕らえる為に、彼らが来たということも…
「…スコール…」
心配そうに声を掛ける。
「大丈夫だ…」
そう言うスコールの言葉を信じられないわけではない。だが、果たして今の状態の彼に戦うことなどできるのだろうか?
自分を守るために、自分が傷つけてしまった彼の心と傷は、深いはず。
…自分にもっと強さがあったなら。こんな魔女としての力ではなく、こんなときに支えられる強さが欲しいとリノアは思った。


→part2
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