FINAL FANTASY [

□〜The 2nd War〜
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第36章part1


「おはようございます、大統領」
眼鏡の男が挨拶と共に病室に入ってきた。既に目が覚めていたボルドは、朝のニュース番組を食い入るように見つめていた。
「朝一番に申し訳ございません。至急目を通して頂きたい書類がありまして…」
そう言いながら、ボルドに数枚の書類とペンを差し出す。
手馴れた様子でざっと目を通すと、自分の名を書き記した。
「本日のご予定はいかがなさいますか?」
「…何がある?」
「面会を望む要望が多数寄せられていますが…」
「キャンセルしろ」
「はい。…軍事部長が大至急大統領との面会を求めていらっしゃいまして、別室で待機されておいでです。 例の研究所のことで大統領に許可を頂きたいと」
「わかった、会おう。呼んでくれ」
サインを書き終えた書類を纏めて眼鏡の男に手渡し、ボルドは再び視線をTVに戻した。
まだ朝の早い時間だというのに、先日の研究所の襲撃事件について解説者だか研究者だかと肩書きのついた男たちが熱く語り合っている。
やがて、退室した眼鏡の男と入れ替わるように入室してきた者は、ガルバディア軍の将校バッヂをつけた男と見慣れた官僚の顔。
軍服をきっちりと着込み、帽子を脇に抱えて敬礼している。
こちらからも敬礼を返すと、その場で硬直してしまったように真っ直ぐに立った。
良く見知った顔は、軍事部部長のゴードン・シモンズだ。
「おはようシモンズ部長。早いな」
「おはようございます、大統領。お加減はいかがですか?」
「媚はいらん。用件は?」
「…あ、はい。先日の研究所襲撃事件のことで。 …公安部より連絡が入りまして容疑者と思われる人物を特定したそうです」
「何、本当か! よく判明したな!」
「まだ、容疑の段階で確定はしておりませんが…。後ほど公安部より詳しい説明があると思われますが、私が動かざるを得ない状況になりそうでして…」
「…? どういう意味だ?」
「実は…」
シモンズは懐から取り出した数枚の写真をボルドに手渡した。
「容疑者です」
「!! 何かの間違いではないのか!?まだ少年ではないか!」
ボルドが受け取った写真に写されたのは、1人の青年と2人の少年。共に制服を着ている。
そして告げられる。その制服こそがバラムガーデンのものであると。
「…SeeD…」
1度写真から離してシモンズに移った視線が再び自分の手元に戻される。改めて3人を見つめなおした。
「当日施設にいた関係者及び、報道陣、我が軍兵たちからも証言を得ております。確証はないと申しましたが、ほぼ間違いないかと」
「…こんな幼い子たちがあんなことを…!?」
「…大統領、ティンバーでは哺乳瓶より先にナイフを持たせる、という諺があるんですよ…」
「………」
「もはや、ガーデンは敵と考えるべきです。このままでは必ず脅威の存在になるでしょう。ただでさえ特殊な訓練を積む場所でもあります。早急な対策を…」
「…どうするつもりだ」
「ガーデンに軍を配置し、彼らが戻ったところを押さえます」
「そんなことはガーデンが許さん」
「…あなたのご命令があれば可能です。大統領の命令が…。ガーデンから彼らの資料を入手し全国に手配を。…うまくすれば魔女派は一網打尽です」
「…魔女派? …ガーデンと魔女派は繋がっているのか?」
「これも確かではありませんが、調書を取った関係者や報道陣の話によると、爆破が起こる直前、魔女派を名乗る館内放送を聞いたそうで」
「そんな話は聞いていない」
「…これは失礼。大統領のお耳には届いていませんでしたか…」
「ガーデンと、魔女派…」
自分の受けた傷がズキリと痛んだ。自分を襲った人物がSeeDであった可能性すら浮かんできてしまう。
「…わかった。許可を出そう」

シモンズと共に入室してきた男が呼ばれる。
今回この作戦の指揮を執ることになる。
「彼はフリーマン大佐。3年前のティンバーのレジスタンス一掃作戦の英雄です、大統領。ガルバディアガーデンを優秀な成績で卒業後我が軍へ。
彼に一任すれば間違いは無いでしょう」
「宜しくお願いいたします」
かっちりと制服を着込んだ背の高い男に、ベッドに横たわるボルドが見下ろされているかたちになる。本人は果たしてそう思っているのかは判らないが、威圧感を覚える。
いかにもエリート育ちの将校といった顔付きの、真面目そうな男だった。
受け取った書類に目を通し、任意同行を求める少年達に危害を加えないことと、ガーデンの学園長に事の次第を説明した後、彼らの資料を受け取り協力を仰ぐことを付け加え、サインを書き入れた。
シモンズがもう1枚の書類を取り出す。
「…これは?」
「例の電波ジャックですが、ドールが発信源の可能性がありまして、その調査・捜索を行いたいと思いますので、家宅捜索の許可を願います」
「何、ドール!?」
すぐにボルドはドールのシンボルともなっている巨大な電波塔を思い描く。
かつて自分達ガルバディア軍も利用しようとしたあの電波塔が、まさか今度は我々に挑戦する内容を発信するとは…
ふいにドアをノックする音が聞こえ、医師が顔を出した。
「失礼し……あ、スイマセン、来客中とは知らず…」
「あぁ、いいんだ、シュナイダー先生、入ってくれ」
「では大統領、我々はこれで」
「あぁ、頼んだ」
ボルドのサインを確認し、書類を受け取ったシモンズとフリーマンが退室する。
改めて挨拶しながらボルドの枕元に歩み寄ったのは、執刀医のマーチン・シュナイダー医師。
若いながらかなりのすご腕と評判の先生のようだ。
「…で、どうかね?シュナイダー先生」
「マーチンとお呼び下さい、大統領。自分はここではそう呼ばれております」
「マーチン先生か」
柔らかい笑顔を向けるこの医師が、自分の手術をしてくれた先生とは思い難い。
「はい、院長と相談しまして、なんとか2週間だけの期限付きで許可を頂きました。経過を見なくてはならない患者もおりますので、毎日連絡を入れるように、とのことでした」
その言葉にボルドの顔にほっと安堵の色が浮かぶ。
それはつまり、ボルド自身にも一時退院の許可が下りたことを示す。
そしてタイミングよくヘリの音が近付いたのに気付いた。
「…屋上に着陸したようですね」
「…ま、まさか…」
大統領の懸念は現実のものだった。


眼下には美しい色とりどりの花畑が広がり、さながら自然が織り成した大きな絨毯のようだ。
デリングシティから南下を続けると、広大な砂漠が広がる。遥か太古の昔には、ここにも何らかの文明が栄えていたという。
とてもこんなところ、いくら設備が整った屋敷だったとしても、住みたいとは思えない。灼熱の大地は人間の生気を吸い取っていくように思える。
そこから更に南下を続け、高い山脈と大陸一の長さを誇る大河を飛び越え、山裾の間を縫うように進んだ先に、その小さな村はある。
花を愛し、育てることを生業とするウィンヒルだ。
「美しいところですね」
マーチンが感心したように呟く。
病院からずっと、不機嫌そうな顔しているのは眼鏡の男だ。病院の屋上に降り立ったヘリからずかずかと病室に入り込んできたパイロット。
大統領に一言『お迎えに上がりました』と告げただけで、大統領もこの医師もにこにことヘリに乗り込んだ。
引継ぎも礼も何もありはしない。まさに逃亡でもするかのように病院を飛び出した。
いくら事の次第を院長に伝えてあるとは言うものの、大統領がこのざまでは一国のトップとしての示しも威厳もあったものではない。
「この村は政治に全くといっていいほど感心の無い村のようで、納税率は毎年最低値を記録しています。統計的に見ても…」
「ここではそんな話は聞きたくない」
視線を窓の外から外すことなく、ボルドは眼鏡の男に言い放った。
「大統領!今の状況がわかっておられるのですか!?しかもこんなところに逃げるように来られて、国民が納得しません。それこそ非難を集めますよ」
「…構わん」
「…大統領…」
「エスタのレウァール大統領との会見を望んだのは君もだろう?」
「!!」
「静養するには、いいところですね」
笑顔のマーチン先生の一言で、眼鏡の男は黙り込んでしまった。非常に分が悪そうな顔をしている。
ヘリはやがて村の上空に差し掛かり、一番奥の場違いな大きな屋敷の庭に着陸した。
屋敷からゾロゾロとたくさんの人が出てきて、3人を迎える。ヘリからの風を避けるように急いで屋敷の中へ入り、そこで改めて挨拶をする。
「初めまして大統領。光栄です。コールマンと申します。本日はようこそおいで下さいました」
「しばらく厄介になる。よろしく頼むよ」
眼鏡の男とマーチン医師も共に挨拶し、コールマンは屋敷の中を案内するつもりでいた。
「…レウァール大統領はどちらに…?」
ボルドの思いを察したのか、コールマンは振り返ってすぐに答えた。
「いつものところにおいでですよ」
「大統領…?」
立ち止まり、急に踵を返したボルドを眼鏡の男が慌てて引き止める。
「どちらへ行かれるんです!?」
「どこへも行かん。目的地はここなんだ。すぐそこだ。危険はない」
「しかし!」
眼鏡の男を止めたのは、マーチン医師だった。柔らかい笑顔を浮かべた顔をゆっくりと横に振って見せる。
「大統領、あまり長い時間はダメです。医師として許可できませんよ」
「わかってるよ、先生」
ボルドの顔付きが、病院にいた頃と丸で違うことに眼鏡の男は気付いた。
「(なんて、棘のない顔をしているんだ…)」
それほどまでに、この地は彼にとって大切で思い入れのある場所なのだろうか?
以前1度訪れただけだというのに…
それはボルド自身も感じていることだった。
たった1度、たった1度訪れた。それも半ば無理矢理に連れて来られただけのこの小さな村を、どうしてこうも心地よいと感じてしまうのか。
この寂しい小さな村に、一体彼を郷愁に駆り立てるような何があるというのだろうか?
頬に当たる風が、花の匂いの混じった空気が、どこか懐かしい。
庭から飛び上がったヘリが、その強い風で辺りの花々を揺らし、舞い上げられた色とりどりの花弁がまるで雪のようにフワリと降ってくる。
目を閉じて強い風から身を守るように構えてしまうが、その光景は本当に美しい。


→part2
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