FINAL FANTASY [

□〜The 2nd War〜
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第34章part1


魔女研究所襲撃の事件は、セントラの新しいガーデンにもすぐに伝えられた。当然、会議中のマスタールームにも。
会議は中断され、全員TVのニュースに釘付けになった。
ゴーシュはすぐにどこかに連絡を入れている。しかし、呼出音はするものの、向こうからの反応はない。
「…船長?」
「…誰も、出ません」
「まさか、あそこにも…?」
「ええ、いたんですよ、我々の同士が」
勢い良くドアが開き、サイファーが飛び込んできた。ゴーシュの姿を見つけるといきなり襟元を強引に掴んだ。
「てめぇ!何を考えてんだ!言ってることとやってることが違うじゃねーか!なんだ、ありゃ!ざけんなっ!」
首を絞められているゴーシュは、苦悶の表情を浮かべるだけで言葉を発することもできない。
周りの人間達が必死にサイファーを宥めて手を離すよう促す。
「ナイト!止めて下さい。我々も今初めて知ったことなんです!」
「…なんだと…?」
その言葉を聞き、やっとサイファーはゴーシュを手放した。
思わず苦しそうに咳き込みながら崩れ落ちるゴーシュに寮長が歩み寄る。
「大丈夫ですか?」
「おい、どういうことだ!説明しろ!」
大声で叫ぶサイファーにドドンナが恐る恐る声を掛ける。
「…サイファー…いや、ナイト、落ち着きたまえ…」
「るせぇ!てめぇはすっこんでろっ!!」
煩い虫でも追い払うかのように腕を大きく振るったサイファーに、ドドンナはその場から数歩後退る。
「すいません寮長、大丈夫です」
「ナイト、いきなりこれはやりすぎですよ」
「いえ、私は大丈夫ですから。それより、どうぞお座り下さい。…ナイト、あなたも」
「俺はここでいい」
窓辺に立ったまま、ゴーシュの話を聞く体勢に入っているようだ。
「…さて、困ったことになりました。」
「それで、いつ彼女はこちらに到着する手筈になっているのかね?」
「?」
「なぜ連絡が取れないんだ?」
「やはり、この襲撃の影響でしょう」
「そもそも程度の違いはあるものの、目的は達しているんじゃないのかね?」
「??」
「いえ、ですが確認が取れないというのは問題かと…」
「犯人はまだ不明となってますけど、声明は出してないのかしら?」
「こちらからはそれは控えるように伝えたんですが…」
「おい!何を言っているのかさっぱりわからん!ちゃんと最初から説明しろっ!」
彼らの会話についていけないサイファーはイラつく。こんなことなら先ほど逃げ出さずに大人しく聞いていたほうが良かったかもしれないと、少々自分を悔やんだ。

ゴーシュがサイファーに事の次第を説明しているその時に、通信が入った。
「私が出よう」
近くにいたドドンナがゴーシュを制す。スピーカーをオープンにして、その場にいる全員に声が聞こえるようにセットしてから、受話器を持ち上げた。
「ドドンナだ」
『!!あ、マスター!よかった!やっと通じた!…ゴーシュ船長は?』
「ここにいる。君の声も聞こえている。話したまえ」
『アルタです、船長。こっちからの通信は回線がパンクしててずっと繋がらなくて、どうしようかと…』
「…だれだ?」
「エスタの…例の研究所に送り込んだ我々の同士です、ナイト」
『どういうことなんです?船長。先ほど、何もするなと命令を受けたばかりで、いきなりこんな襲撃なんて!しかも、自分達とは別働隊がいたなんて、知らされてません。
自分達は一体何の為に潜り込んだんです!?』
「…別働隊…?」
「?」
ドドンナが振り返ってゴーシュのほうを向く。ゴーシュも首を横に振っている。
「アルタ、こちらもTVの報道を見て驚いている。この一件、君たちが起こしたものではないのかね?」
『…はぁ?何を言っているんです?自分達に様子を見るように、つい先ほど連絡してきたんじゃないんですか?だからこちらは動けずにいたのに…。』
「!?」
「…どういうことだ?」
『それに、始まる前に館内放送で魔女派だと確かに名乗りましたよ。だから自分達は驚いて…』
「もう一組いたってことか?」
「…まさか、そんなはずは…」
『船長、どういうことなんです?自分達はどうすればいいんですか!?』
「彼女の生死は確認が取れていないんですね?」
「魔女の生死は確認がとれているのか?」
ゴーシュの言葉をドドンナが伝える。
『あ、はい。まだ見つかっていません』
「では、もう少しそこで様子を見て貰います。彼女についてわかったらすぐに連絡してください」
「そのまま任務続行だ。魔女についてわかったことがあればすぐに連絡を」
『了解しました』

ここにいる彼らが計画した魔女拉致計画とは別の作戦が実行された。それは彼らも与り知らぬことだった。
誰にも気付かれずに施設に侵入し、魔女を拉致し、そして証拠を消し退路を確保する為の大掛かりな目晦ましとも言える爆破。
こんなことができるのはあいつらだけ…。サイファーには確信に満ちた予測が立てられた。
「そもそも、こんな派手なことをやらかしたのって、一体どこの誰なんだろ?その目的は?」
「誰かは判らないけど、目的はやはり魔女、でしょうね」
「だろうな、こんな過激なことができるなんてレジスタンスにもそうはいないと思うけど…」
「レジスタンス…?」
「元々、魔女を匿っていたのは彼らなんだ。行動を起こしても不思議ではない」
「だが、先日のティンバーへの一斉攻撃の際に主だったレジスタンスのメンバーは捕らえられ、その上で魔女を捕獲したはずだろう?まだガルバディアの目が光っている今の時期にレジスタンスが動くとは考えられん」
「…じゃぁ、なぜ魔女派と名乗ったのかしら?」
「俺たちという存在を利用したんだろ」
「……もしくは、メッセージとも取れなくもない」
「メッセージ・・・?」
「うむ、手を組むつもりがあるのやもしれんな」
「我々の宣言を受けて、戦力的に力を欲し、利用したがっている、と?」
ゴーシュがサイファーに問いかけた。
「ナイト、ナイトは、何か心当たりありませんか? …彼女を、魔女を知っているあなたになら…」
「それを聞いてどうしようってんだ?」
「!?」
「だから、今後どうするか話し合ってるんじゃないか!」
「手を組めるかもしれないんだぞ」
「…アホくせぇ」
「…い、今何と…」
「アホくせえっつったんだよ! お前らの本当の目的は何だ!ガルバディアをぶっ潰すんだろ!? だったらこんなとこでチマチマあーでもないこーでもないなんて下らねえ言い合いしてる場合じゃねーだろ。大統領の暗殺でも官邸の爆破でもやったらいいじゃねーか! なぜそんなに魔女に拘るんだ!」
「…ナイト!」
「な、なんてことを…!」
「とても、魔女の騎士の言葉とは思えんな…」
「…我々は、テロリストではない」
「またそれか!! なんなんだ、てめえらのその矛盾は! 大統領を暗殺しようとしたんだろ?魔女を拉致しようとしたんだろ!? 何の為に電波ジャックまでして政府に宣戦布告したんだ!!何の為の声明だ!!お前らは、そうしたいが為に俺を呼んだんじゃねえのかよ!」
「ナイト、どうか落ち着いて下さい」
「るせぇ! てめえらは戦いたくねぇだ!? だが武力介入の宣言までして、今更こそこそ話し合ってるだけかよ!」
「ナイト、どうか、落ち着いて下さい! 2人だけでお話しましょう。 …みなさんも、今日のところは申し訳ありませんが…」
まだ興奮の冷め遣らぬサイファーを必死で抑えながら、ゴーシュは皆の退席を申し出た。
こんな状態では、話し合いなど無理だと、そこにいる誰もが感じたことだった。
「放せ!」
皆が部屋を出ると、サイファーを止めていたゴーシュの手を振り払った。
「…てめえ、まだ何か隠してやがるな…」
「…いえ、見せられるものは全てお見せしました。私達の目的も、メンバーもここの拠点も…。ですが、私の頭の中まではお見せすることはできません」
「じゃあ、話せよ」
「あなたが先ほど仰ったことはよく分かります。そして、その通りにあなたのその力が必要であることも…」
ゴーシュは大きな窓から外をじっと眺めながら答えた。

「それから、子供たちなんですが…」
「ガキどもがどうしたってんだ…」
「10年前、ガルバディアが魔女によって支配された。そう考えるのは政府だけです」
「?」
「子供たちや、ガルバディアの政府に対して、正しい結果と記憶を与えたい。…そう考えるのは、私の勝手な理想でしょうか…」
窓の外を見つめながらそう呟くゴーシュの目が、あの時の、船の中で見せた鋭い目に変わる。
「大衆の目の前で、時の大統領を殺害したとき、誰が大統領を惜しみましたか?誰が魔女を非難しましたか? …あの瞬間、国民は救われたのです。酷い悪政の支配からの解放なのです。そしてその魔女こそ、我々を慈しみ、育てたママ先生。
今の子供たちはママ先生を知りません。ですが、我々にとってとても大切な彼女を非難するガルバディア政府は、子供たちにとって魔女を苦しめる悪の存在でしかないのです。私達は子供たちに教え続けてきました。この魔女こそ、私たちを育ててくれたママ先生という優しい魔女なのだ、と。
あの時、パレードに出たあなたにならわかるはずです。国民の魔女へ向けられた意識の大きさと強さを!溢れるような気持ちを!大波のように押し寄せる興奮を!」
「…俺に何をさせたいんだ…」
「ガルバディアという国は、…おかしな表現ですが、“跳梁跋扈”(ちょうりょうばっこ)とでも言える、統制の取れすぎた軍隊なんです」
「?」
「頭さえ押さえてしまえは、何もできないんですよ。 …だが、ヘンデルは存命だ。できることなら、このまま命を奪ってしまいたいという希望はあります」
「…一度銃撃を受けた身だ。2度は無い」
「ええ、そうでしょうね……ですから」
瞼を落とし、ゆっくりと考えるような素振りを見せてから、ゴーシュはサイファーのほうを向き直った。
そして、その目で語りかける。
「…それが、本当の俺の仕事ってわけか…」
「こういう話だと、あなたと話すのは楽で助かります」
「わかった。俺の力が必要なら、そうしよう。 …だが、それなりの見返りは要求するぞ」
「我々にできる範囲内でしたら」
再び、いつもの人当たりのいい笑顔に戻る。こいつほど食えない奴はいない、サイファーはそう感じた。


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