FINAL FANTASY [

□〜The 2nd War〜
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第32章part1


「ボルド・ヘンデルだ」
『ラグナ・レウァールです。大統領』
いつもの明るい声とは丸で違う真面目な応対が聞こえる。それが彼らしくない違和感だらけの姿が想像できて、ボルドは思わず口元を緩める。
なぜ、たった一言名前を聞いただけなのに、こうも気持ちが楽になるのだろうか?
『申し訳ない、俺、何も知らなくて、連絡もまともに取れないところにいたからさ…』
「ウィンヒル、ですか…?」
『あ、分かった?』
そうだろうとは見当をつけていた。それが当たったことに自分自身に苦笑する。
「ずっと、どうにかして連絡を取りたいと思っておりました。そして、謝らなければ、と」
『あー、研究所の件、か? あそこまでいくとかえって気持ちいい。再建できなくてさ』
「本当に、何と申し上げていいものかと…。今回の移送に私も同行しようか思案しているところへ、あのような思いもしないアクシデントに遭いまして」
『…うん、それを言うならこっちも同じだ。急にキャンセルしちまったのは俺だし、あの戦争の後、こっちの軍は旗色が悪くてさ、わかるだろ? それに、魔女もいない今の時代にあんなに金のかかる研究所なんてホントにいるのかなって……。 あっ、今のなし!聞かなかったことにしてくれよ、な』
「もちろん、了承しております」
『あのさ、電話じゃなんだから会って話そう。俺、見舞いに行くよ。』
大統領という立場からすれば、相手国の大統領を見舞う行為というのは大きな国交の証となりえるだろう。
当然その為のスケジュールの調整や行程と安全の確保と規制。煩わしいたくさんの事務処理をこなして初めて実現できるものだ。
宛ら友人にでも会いに行くかのような軽い気持ちで口にした彼の言葉には、きっとそんな面倒な手続きは含まれていないのだろう。
社交辞令の1つだとしても、ボルドには嬉しい言葉だった。
『…いや、やっぱ止めた! 迎えを出す。こっちで会おう!』
「えっ、あ、あの…」
『そうだな〜、今夜から雨って言ってたけど、まぁいいか。あ、ケガ酷いんだったら無理しなくていいけど』
「いや、あの、大統領、私は…」
『そうだ!そこの医者のセンセも連れて来ればいいんだよ。な! …んじゃ、こっちで待ってるからさ、ケガ大事にしとけよ』
一方的に切られてしまった受話器を握り締めたまま、連絡が取れたことが果たして良かったのかそうではなかったのか、ボルドはしばし思案し続けた。

食事の後、担当医が術後の経過を見ると看護士に伝えられ、了承の返事をしてからずっとつけたままだったTVのスイッチを切る。
あの後もずっと研究所の事件に関する特別番組が放送されていたようだったが、ボルドは見る気にもなれなかった。
眼鏡の男が先ほど病室に残していった細かい事務処理用の書類にざっと目を通し、サインを入れる。
次から次へと出される新しい法案や要請は、今のこの状況ではくだらない民衆の我侭にしか見えない。
ペンで自分の名前を書くことさえも煩わしく思えてくる。
しばらくして、病室のドアがノックされ、看護士を先頭に白衣の医師と見られる男性が2人入ってきた。
「大統領」
担当医が声を掛ける。
「経過を見せて貰って宜しいですか? それから、こちらは今回大統領のオペを執刀された先生です」
「初めまして、というのもおかしな気分ですが…。マーチン・シュナイダーと申します、大統領」
枕元に近付き、握手を求める。思っていたよりも若い、もしかしたら自分の息子と大して変わらないその執刀医に少々驚いた。
「まだ若いですが、素晴らしい腕を持っている」
「…ベリック先生、勘弁してください…自分はまだまだですよ。でも、まさか大統領のオペをすることになるとは思ってもいませんでした。光栄です」
「いや、大したものだ。礼を言わせて貰おう」
担当医であるベリックが少し前に歩み出る。
「見せて頂いても宜しいですか?」
ボルドの了承を受け、寝間着の肩口を開く。
「痛みで眠れない、なんてこともあるでしょうが、もうしばし辛抱して下さい」
「痛み止めの薬を貰っている。おかげでよく眠れるよ。日頃の睡眠不足が解消されていい」
「…睡眠不足だったんですか?」
解いた包帯の下の真新しい傷口。まるで機械でも使ったかのように綺麗に並ぶ縫合糸が、マーチン医師の腕の良さを物語っていた。
軽く消毒して再びきっちりと包帯を巻く。
「残念ですが、傷は残ります。でも骨に異常はありません。…ただ、腱を、筋を少し損傷していますので、もしかしたら今後腕の動きに影響が出る可能性があります。 リハビリして頂く事になりますよ。 普段の生活には問題ないでしょうが…」
「問題がなければ構わん。公務に戻れるかね?」
「利き腕ではありませんし、多少不便さはあるでしょうがお仕事のほうには差し支えはないかと思われますが、やはり医師としてはゆっくり養生されることをお勧めします」
「私もそう思いますよ」
「…う…む。実は出かけたいと思うのだが…」
「…出かける、とは?」
「退院させて貰いたい」
「…はっ!?」
「な、何を仰ってるんですか!昨日今日搬送されて手術したばかりの人間にそんなこと許せると思うんですか!?」
「………無理は承知の上だ」
「無理でも何でも、それは医師として許可できません!」
「…彼を、マーチン先生といったかな?彼にも同行を願いたい」
「それこそ難しいご進言です。彼にだって予定がある。この後の手術を待っている患者は大勢います。いくら大統領のお言葉と言えどもそれは…」
「…これは、私の意志ではない。私とて不本意なのだ」
「?」


病室の窓の外からざわざわと騒ぐ音が入ってきたのに気が付いた。
看護士がチラリと部屋の白いカーテンを開いて外の様子を眺める。
「玄関前に車が到着したようです」
看護士の言葉を受け、ボルドはTVのスイッチを入れた。
病院の正面に止められた1台の黒い車から、見知った顔が出てくる様子が映されている。
ベリック医師とマーチン医師は困ったような顔をしている。
「申し訳ない、先生。規制はかけているんだが…」
その規制のためなのか、映像は眼鏡の男と白髪の男が院内に入るところまでしか映し出されないまま、レポーターの姿に切り替わる。
程なく、ボルドの病室へその2人と院長が静かに入ってきた。
「では大統領、私達はこれで失礼します。」
入ってきた人物に遠慮したのだろうか?
「…それから、先ほどの件は後ほど。前向きに検討させて頂きます」
「あぁ、宜しく頼むよ、先生。…あまり時間があるとは言えないとだけ言っておこう」
2人と看護士がボルド、そして今入室してきた人物に会釈だけして退室した。
すぐに眼鏡の男が歩み寄る。続いて白髪の男。
「大統領、この度はお見舞い申し上げます」
この病院の院長とも懇意だという福祉部の部長だ。ボルドの後釜を虎視眈々と狙っているとかいないとか。
「ありがとう、部長。君にも迷惑をかけた」
「とんでもございません。どうかご自愛下さい」
「して、会議は…?」
福祉部長が1歩下がり、眼鏡の男に目を向ける。
ボルドの銃撃事件についての会議を行っていた最中、研究所の襲撃事件が飛び込んできた官邸内では、会議どころではなくなっていた。
その後すぐに開かれた軍の記者発表に参加していた眼鏡の男は、やっと、まだ終わらなかった審議の途中経過を報告することができた。
「やはり、魔女派の動向を探ることが最優先かと…。部屋に残された痕跡や例の電波ジャックなどの調査は進められているようですが、まだこれといって特定できるものは少なく、捜査は難航している模様です。…それに…」
「…何だ?」
「…え〜、その、申し上げ難いのですが…」
「はっきり言わないか」
「は、はい。実は、民衆が魔女派を支持する傾向にあるようでして…」
「何だと!? どういうことだ?」
2人のやり取りを聞いていた福祉部長が横から口を出す。
「民衆は、魔女を敵だと思っていないからですよ、大統領」
「バカな!かつてこの街を、人々を支配した存在だぞ。そんな恐ろしい奴を敵ではない、と? 恐怖の存在ではない、と!?」
眼鏡の男が再び冷静に話し出す。
「実は、今回の作戦について異議を唱える者も出てきております」
再び福祉部長が口を出す。
「…本当のことを教えたらいいんじゃないかね?彼の大好きな今の支持率を」

「…すまないが、1人にしてくれ。薬が効いてきたようだ。眠くてたまらん」
自分以外全員の退室を乞い、TVの画面で聞かれる市民のインタビューに聞き耳を立てる。
自分ではなく、魔女を支持すると明確に反発している者が多く、ついこの前までの高い支持率は一気に急落を見せているのは明らかだった。
ガルバディアで、官僚や役人を決めるときは、現在の役職についている人間達からの選出によって決定する。そこに市民の介入は無い。
だからこそ、前大統領亡き後のあの演説でボルドは今の地位を手に入れたのだ。…もしこれが民衆の手による選出だったら…?
自分だけではない、誰がこの一番上の座につこうが、あっという間に引き摺り下ろされておしまいだっただろう。
我々は、魔女に支配されていたと思っている。
しかし、人々は魔女によって解放されたと思っている。ガルバディア政府そして、ビンザー・デリング前大統領の独裁政治から。
政府は国を、人々を守り動かしてきたと思っていたことが、実は単なる独裁政治でしかなかった。
人々にとっての政府など、自分達を守るための傘ではなく、一人一人に根を植え込んで養分を吸い上げる吸血樹のようなものだったのだ。
あれだけ自分が拘ってきた支持率なんて、一体どんな意味があったのだろう…
自分の味方の数だけ聞いて安心していた自分自身がなんて愚かで浅ましい人形だったのかと、ただひたすら、悔しかった。


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