FINAL FANTASY [

□〜The 2nd War〜
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第30章part1


ドドンナと会話を交わした作業員は、また作業に戻っていった。
A.C.B.S.(アンチ・クリーチャー・バリア・システム)その名の通り、バリアを張ってモンスターを侵入させない為の装置だ。
100年以上前に起こった「月の涙」の現象で滅亡したと言われるこのセントラは、高い文明を誇っていたと言い伝えられており、その名残が今でも時たま発掘されることがある。
…もっとも、滅亡してしまった今ではそれを知る術は無いのだが…
このセントラガーデンにも、そんな滅亡した文明を調査する為の考古学者や地質学者など様々な者達が研究を続けており、そんな中で完成したのがこのシステムだった。
モンスターが巣食うという月で生まれた結晶体。その鉱物の持つ不思議な力を研究しているのは、ここの学者たちだけではなかった。エスタから移り住んで、採取した鉱物とともにそれに関するあらゆる研究を進めている研究員もいる。
彼らの本拠地はエスタのルナティックパンドラ研究所なのだ。
「マスター、何か問題でも?」
「あぁ、いや、申し訳ない船長。船長が出航されてる間になんとか完成させて開校式までには間に合わせようと思ってたんだが、難しいかな…?」
「そうですか。ここには子供たちも多い。できれば最優先で解決したいところですね」
新しいシステムは作業員達に任せ、建物の中に入る。明るく広いホールの隅にはたくさんの箱が今だ手を付けられず山積みになっている。
駆け寄ってきた何人かのSeeD服を着た若者達。
きちんと整列して敬礼を捧げる。
「お帰りなさい、船長。お疲れ様でした」
「子供達が、船長のお話をとても楽しみにしてるんです。ぜひまた聞かせてやって下さい」
久しぶりにセントラに戻ったゴーシュ船長は、ここでも人望が厚いようだ。
彼らに敬礼を返し、一行はマスタールームに案内される。
4階建ての扇の弧を描くような建物の中央に、エスタの技術だろうか?透明度の高い材質で作られたエレベータは外側に面していて、上昇に合わせて下方に落ちてゆく景色が丸見えだ。心なしか足元がむず痒くなってくる。
その最上階にマスタールームはある。
案内されてまず驚いたことは、その部屋の小ささだ。ガルバディアやバラムのガーデンのマスタールームは広く、見晴らしもよく、そして何より豪華な内装で調和されている。
しかし、この寮の一室のような小さな部屋には、会議をする為の数人しか座れないような小さなテーブルと何脚かの椅子、そしてマスターのデスクしかない。
積み上げられたままのたくさんの箱や袋。空のキャビネット。真っ白な壁は、これからたくさんの額縁が下げられることになるのだろう。
「片付けが進まなくて申し訳ない。空いている椅子に掛けて下さい」
案内してくれた女性教官が、素早く全員に飲み物を出すと、ゴーシュが話しかけた。
「今回私と共に来てくれた子供達が、間もなくガーデンに到着するでしょう。寮に案内して荷物を置いたら、こちらで中の案内がてら荷物を運ぶのを手伝わせたいのですが」
「わかりました。主任にお伝えします」
そんな会話も、一緒に部屋に入ってきた教官たちのざわつく声も、サイファーにとっては煩いだけだった。
耳に入る一切の音を無視して、窓から外を眺めた。
上階だからだろうか、窓はその一部を少し開くことができるだけのもので、完全に開け放つことはできないようになっていた。
ふと下を見ると、小さなバスがガーデンに向かって走ってきた。先ほどゴーシュが言っていた子供たちだろう。
ここは4階のはずなのに、海が目の高さに見える。月の涙の影響で削られた海岸線は複雑に入り組んでおり、今見えているこの海は湾になっているのだろう。波は穏やかだ。

「さて、皆さん、ゴーシュ船長が戻られましたので、定例の会議を始めさせて頂きます」
ドドンナが仕切り、皆静かになった。
促されたゴーシュがその場で起立して挨拶する。
「今回、私共はバラム、ドール、そしてティンバーを回り、F.H.を経由しての帰港という、短い船旅でした。トラビアやデリングシティ方面の小さな町々にも寄りたい気持ちは当然ありましたが……ホームシックになってしまいまして」
一斉に笑いが起こる。言った本人も笑いながら話を続けている。
「各都市の孤児院の状況につきましては、お手元の資料のほうに。 そして、F.H.で彼に出会った…。 先ほど紹介を済ませた方も、お気づきの方々にも改めてご紹介を…」
今だ、そ知らぬ振りをして窓の外を眺めるサイファーの肩を、ゴーシュは軽く叩いて合図を促す。
「ナイト、このガーデンを管理してくださる方々にご挨拶をお願いしたいのですが…」
「…フン、勝手にしてりゃいいだろ。こんなとこ、息が詰まりそうだ」
「あの、どちらへ…?」
「勝手にその辺見てくるぜ。構わねぇんだろ?」
「あ、ナイト!…」
ゴーシュの言葉を押し切り、マスタールームを出て行ってしまった。
「ゴーシュ、…彼は知っているのかね?」
「…話してはいませんが、タイミング的にバレてしまいまして…」
「船の中じゃ逃げようがないだろうからな」
「だったら話は早いじゃない」
「この時期にまさか、こんな形で出会えるとは予想外でしたから、多少強引に連れて来てしまった私にも責があります。まだ、心を決めかねているようで、私が説得します」
「別に責任を取れとか言ってるんじゃないし、彼ならすぐ慣れるよ」
「シルバー、君は楽天家だな。とてもガルバディアの人間とは思えん」
「長老こそ、ドールの人にしては気が短いんじゃない?」
「なんじゃと!」
「まぁまぁ、2人も落ち着いて! マスター、話を進めましょう」
「ではこの件に関しては後ほど、ということで…」
「ゴーシュ船長、すいません」
「いえいえ、私のほうこそ力不足でした。マスター、進めて下さい」
「えー、では次に、ガーデンの約款の件につきまして……」

マスタールームを出たサイファーの元へ、部屋の外で待機していた風神と雷神が駆け寄ってきた。
「サイファー、早かったもんよ。話は終わったもんよ?」
「あんなくだらねぇ話はお断りだ。…それより、新しいガーデンとやらを見学しようと思ってな。」
「おっ、思いついたもんよ! 新しいガーデンが始まったらまた風紀委員やるもんよ!」
「馬鹿!」
風神の蹴りに痛がる雷神の姿を見て、サイファーもクスリと微かな笑みを零した。
「バーカ、俺たちは教官になるんだ。どうせやるんなら、“風紀指導教官”にでもなれ」
「…いてててて……。おっ、それいい考えだもんよ!」
あんな堅苦しそうな会議なんて御免だが、この真新しいガーデンの中を見て回るのは、結構気分のいいものだった。それは風神と雷神の2人も例外ではなく、新しい教室の前にくる度に楽しそうに声を上げている。
一際賑やかな部屋があった。部屋の前には箱が山積みで、その箱すらまだ台車の上に乗せられたままのものもある。楽しそうな賑やかな声は子供たちだ。
何人かの子供達が部屋の中から出てきて、その箱を持ち上げようとしている。…が、子供の力では持ち上げられない重さなのだろう。2人でうんうんと唸っているが箱はビクともしない。
「補助」
「おお、手伝うもんよ!」
駆け寄った2人に気付き、そして当然サイファーの存在も知られる。
「あっ!ナイト!ナイトはっけ〜ん!」
「えっ!ナイト!?」
「ないと〜!」
「!!! …うっ…」
子供たちの中にラフテルの姿も見えた。一緒に船でやってきた子供たちだ。サイファー目掛けて走ってくる。
捕まるのは勘弁!とばかりに、逃げ出した。後ろから子供たちのブーイングが聞こえるが、それがどうしたというのか…
子供のそれとは差の大きい大人の足の長さで一気に階段を駆け上がり、誰も追ってこれないのを確認して深呼吸とも取れる長い溜息をつく。
先ほど案内されたマスタールームのある4階までやってきていた。先ほどは外が見渡せるエレベータを使ったので気付かなかったが、階段はもっと上まで続いている。
興味本位で一応規制のために張られた1本の鎖を跨ぎ、その上に向かってみた。
そこには扉が1つ。お粗末な鍵で施錠してあるが、そんなものはサイファーにとってはあっても無いようなもの。
ドアの先は屋上だ。出た瞬間、強い風が吹き付けた。目の前には遠くまで広がる海。まさに抜けるよう、とはこんな空を言うのだろう。
先刻到着した小さな港も、乗ってきた船も見える。島の中央に見える何かの建設物はこの島で取れるという鉱物の採掘場であろうか?
建物の裏側は、先ほどマスタールームから見下ろした景色がもっと高い位置から見える。入り組んだ海岸線も、その先の小さな島々も、そして広がる緑の森も。
ゴーシュや、ここに住む人々が美しい、と表現するのもわかる気がする。
大きな時計が設置されている。微かに響く秒針の音が眠気を誘う。

「…ここは私しか知らないと思っていましたよ、ナイト」
不意にかけられた声で目を覚ます。
いつの間に眠りに落ちたのか…
そこで出会うとは思っていなかったのか、互いに意外そうな顔をしている。
「いいのかよ、こんなとこに来てて…」
「丁度、昼休みです。それに、…私もああいう場は苦手でして」
このガーデンの設立に際して、幹部や役員を選出する会議が行われたとき、ゴーシュは自ら船長をかって出た。勿論、地に足をつけて生活することに何も問題は無い。
船長という役に就く事ができないならば、それでも構わないと思っていた。
「以前、あなたに尋ねましたよね? あなたの夢は何か?と。 …あなたと同じ様に、私にも幼い頃からの夢がありました。それが、船乗りになること。 私にとってはとてもロマンティックな夢なんですよ。」
「…夢、か…」
「あ、そうそう、これを…」
ゴーシュは持参した小さな包みを開き、中から決して格好の良いとは言えないサンドウィッチを取り出し、半分をサイファーに差し出した。
「なんだこりゃ?」
「子供達が作ってくれたんです。昼食をここで食べようと思ってたので。…半分、どうぞ」
サイファーがしぶしぶ受け取り、ゴーシュを見ると、既に口いっぱいに頬張っていた。
「うん、なかなかどうして。見た目はちょっと、あまり良いとは言えませんが、美味しいですよ」


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