FINAL FANTASY [

□〜The 2nd War〜
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第29章part1


ウェンディは徐に手鏡を取り出した。そこにいた初顔の3人の若者にそれを覗かせる。
「うわ!なんだこれ!」
「!!」
そこに写ったのは、煤(すす)で真っ黒になった自分の顔。
それどころではなかった3人は、言われるまで全く気付かなかったのだ。
「さぁ、坊ちゃん達、きれいにみがいてきて下さい」
ウェンディーは強引に子供たち2人をバスルームへ連れて行った。
やがて水音が聞こえ始め、2人のはしゃぐ楽しそうな声が聞こえてきた。
1度寝室へ入り、ベッドメイキングを済ませたウェンディが声を掛けてきた。
「着替えをお持ちしますね。ごゆっくりどうぞ」
ランスは改めて部屋の中をゆっくりと見回してみる。
自分達がいるここは、紛れもなく大統領官邸なのだ。しかし、ここはプライベートな屋敷なのだろう、政府関係者は勿論、必要最小限の使用人の姿しか見えない。
この高層の建物の階上には、政府の役人達やお偉いさん、大統領が仕事をする為の執務室もあるというのに、この空間からは想像できない。
客室だというこの部屋も、並みのホテルなどよりも豪華で気品に溢れている。
それでもどこか懐かしい気持ちになるのは、なぜなのだろうか?
備え付けられたクローゼットを開けてみたり、キャビネットの扉を開いてみたり、装飾品のたくさんついた取っ手を引いてみたり…
思わず探究心をくすぐられてしまうのは、まだ自分に幼さが残っているせいなのか、それともSeeDとして受けた訓練のせいなのか…?
開いた大きな扉の中に、これまた大きなTVが格納されているのを見つけた。しかし、TVを見る気にはなれなかった。
大方、先ほどの研究所の事件のことをまた過剰に報道しているだけだろうと予測をたてたからだ。
ふと、部屋の片隅に電話が設えられていることに気が付いた。ガーデンに連絡しなくては…!

『トゥリープです。ランス!?今どこ?無事なの!?すごい騒ぎよ。何をしてるの!?』
興奮した声が返ってきた。昨晩の大統領銃撃事件以来、全く連絡していなかったのだ。当然の反応だろう。
「すいません、今、エスタの大統領官邸にいます。詳しい報告はガーデンに戻ってからしますが、例の場所で依頼の人物2名と接触できました。…ですが…」
『そこにいるってことは、ナイトには会えたのね。教官は……ふぅ、やっぱり無理だったようね。彼の性格からしても有り得ないかも、とは予想してたけど…。2人は?』
「今、バスルームにいます。」
『そう、ナイトは?』
「少し休むそうで、誰も邪魔をするな、と」
『……ん〜、こっちからもう一度連絡するしかないわね…』
「?」
『あぁ、こっちのことよ。でも今回はちょっとやり過ぎね。学園長も心配なさってるわ』
「すいません…」
『でもみんな無事で本当に良かったわ。 ……クスッあなたも、早く顔を洗ったほうがいいわね』
「!!? …もしかして、見えてるんですか!?」
思わず辺りをキョロキョロと見回してしまう。
『目の前のキャビネットの中よ。モニターのスイッチを入れて』
キスティスに言われたところの小さな扉を開くと、小型のモニターが設置されており、スイッチを入れるとそこには笑いをこらえて手を振るキスティスが映し出されていた。
そしてランスは気付く。
「…あれ、教官長、この部屋のこと、ご存知なんですか?」
『何度か行ったことがあるわ。あなたは初めてでしょうけど』
「自分、知らなかったことが多すぎてパニックになってます。ナイトのことも…」
『そうね、ガーデンで学ぶだけが勉強ではないってことね』
「はい、思い知らされました」
『いつ戻れるの?』
「今からでは列車の時間に間に合いませんので、明日の便で戻ります」
『わかったわ。ご苦労様。…あ、それから、あの子達も両親と話をさせたいの。彼らは任務でガーデンにいないんだけど、小型の携帯通信機を持ってるそうだから、連絡するように伝えてくれる?コードは…』

子供達がバスルームから戻り、ランスはキスティスに教えられたコードを渡し、絶対に連絡を入れるようにきつく言い渡すと自分もバスルームへ向かった。
改めて鏡に映った自分の顔を見る。
煤であちこち黒ずみ、髪はその熱で縮れ、一部は火傷を負っているようだ。
「(ひどい顔だな…)」
一方ホープとウィッシュは、本意ではなかったがやはり起こしてしまった事が事だけに、連絡しなくてはならないという意識はあった。
タイミングを見計らったかのようにランスにコードを手渡され、久しぶりに両親と話す絶好の機会だというのに、その心は重かった。
逃げ出そうとするホープを抑えながら、ウィッシュは通信機のスイッチを入れ、変わらず明るく話す母の声を聞いて安心した。
言われるだろうと思っていた研究所のことも、始めはどう言おうか迷っていたが、どうせ隠し通すことなど無理だと分かりきっている。ならば、とウィッシュは全てを話した。それを聞いた途端、セルフィは言葉に詰まり、そして何も返事が返ってこなくなってしまった。
「ママ? …あれ?ママ?」
『ママ、倒れちゃったぞ〜!』
「パパ!」
『ママがこんな状態だから、詳しいことは帰ってからゆっくり話を聞くよ。だけど、パパもママも任務で出掛けなくてはならない。次に会える時までに、自分達が何をしたのかきちんと報告できるように作文を書いておくこと。そしてそれを読み返して、自分達が何をしてしまったのか、どんなに迷惑をかけたのか考えておくこと、いいかい?』
「…はい」
『ホープもだよ〜!』
「えーっ!俺も!?」
『ホープ!』
「は〜い…」
間もなく戻ったランスは、2人がきちんと連絡を入れたことを聞いてほっとした。
ドアをノックする音がして、着替えを取りに行ったウェンディが戻った。彼女と共に部屋にやってきたのは食事と思しき台車の数々。
持ってきた着替えを寝室に運ぶと、共にやってきた何人かのメイドと共にてきぱきと食事の用意をしていく。
「ウェンディさん、あの…」
「ウェンディで結構ですよ。ランス様」
「(…様!?)あの、スコールは…?」
「スコール様は先に軽くお食事を取られ、今はお休みです」
「え、もう?」
「ここのところ、まともに睡眠も食事も取っていらっしゃらないようで、ひどくお疲れでした」
「彼、よくここに?」
「ええ、そう頻繁ではありませんけど、年に何度かはリノア様とご一緒にいらっしゃいますよ。本当に仲がおよろしくて」
「ええっ!!リノアってあの魔じっ……!!!」
すかさずウィッシュがホープの口を塞いだ。
それを誤魔化すかのように、ランスが質問を続ける。
「あ、あの、大統領もご一緒されたり、なんてことは…?」
「ええ、もちろんありますよ。ラグナ様はリノア様のお歌が大層気に入ってらして、お2人がいらっしゃる時は公務を後回しにしてご一緒のお時間を設けられる程ですよ。
リノア様のお歌、それは素敵ですから、私達も楽しみなんですよ。普段お見せにならないような穏やかなお顔になられますしね〜」
「へぇ、ちょっと意外かも…」
「さ、お支度が整いましたよ。お食事をどうぞ」


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