FINAL FANTASY [

□〜The 2nd War〜
36ページ/102ページ

第27章part1


時計は間もなく昼を指そうとしている所だ。
ベッドではまだアーヴァインが眠りについている。
それを静かに見守りながら、セルフィはボーっと両足を抱えて座っていた。
ホテルの最上階では、窓を開けていても町の雑踏は聞こえない。時たま鳥の鳴き声が聞こえてくるだけだ。
ずっと考えていたのだろう、いつもの元気さは影を潜めている。
「…アーヴィン、どうしよ…。スコールな、話も聞かんで飛び出してってしまったんよ。 …どうしよ、私のせいでスコール死んでしもたりしたら、リノアに何て言うたら…」
「…セフィ、大丈夫だよ、きっと」
「!!アーヴィン、…あ、起こしてしもうた?ゴメンな」
「ううん、目が覚めただけだから。 …それに、スコールは死なないよ。ニセ者だってわかれば、すぐ帰ってくるよ〜」
「そうかな、そうかな?」
「うん、…それに、僕もスコールに言いたかったこと、言えなかったしね」
「言えなかったことって…?」
昨夜、キスティスにエスタ大統領に面会できたこと、そして彼の計らいでホテルに泊まることを報告したのだが、その時に聞かされた内容をスコールに伝えるように伝言を頼まれていた。
すでにスコールに出会い、自分たちの部屋にいること、セルフィが付いていてくれることも伝えた直後だった。
トラビアにいるリノアの様子がおかしい、と。
キスティスは、リノアがスコールに会えない寂しさからきているものだと勝手に勘違いしてしまい、それほど重く受け止めはしなかった。だから今すぐとはあえて口にしなかったのだ。
アーヴァインは、キスティスから聞かされた内容をセルフィを伝えた。
「なぁ、もしかしてそれってヤバイんちゃう?」
「え、どうしてさ〜? リノア、寂しいから早くスコールを会わせてあげようってこと?」
セルフィは大きく首を振る。
「ちゃうちゃう、リノア、魔女の力がセーブできてないんちゃう?すごく元気そうだった、って、魔女の力を抑えてたアイテムの効果が切れちゃったって考えられない?」
「えーっ!大変じゃないか!」
「どうしよ、も1回キスティに…あ、それよりトラビアガーデンに連絡して聞いたほうが早いかも。…リノア、どうしてるかな〜?」

すぐさま部屋を飛び出し、トラビアに通信を入れた。
呼び出してもらったサリーは半泣き状態だ。
「落ち着いてや、サリー、リノアのこと、ちゃんと教えて!どないなっとるん?」
セルフィと連絡が取れたことに少々安心したのか、サリーは昨日のことを順を追って説明し始めた。
そしてバラムガーデンに連絡を入れるために部屋を出た後、どこにも姿が見えなくなってしまったのだと言う…
『どないしよ…どないしよ…わたし…』
「サリー、落ち着いて! …ガーデンを出た形跡は無いて言うたよね? じゃあ、まだガーデンのどこかにいる。みんなでさが……」
『?』
「…授業に、出たって…」
『…? う、うん。スペルクラスの…』
「そこや!! あの実践室。中はアンチスペル仕様になっとるし、あそこなら多少大きい魔法使うてもわからん。多分そこや!」
『…!!わかった。探してみる!』
「あ、サリー!待って!」
『!?』
「あんな、私たち今エスタにおんねん。そんでな、オダイン博士んとこに行ってみるから。もうちょっとだけ待っとってってリノアに伝えて!それから、スコールにも会ったよ。大丈夫。絶対大丈夫だからって!」
『うん、わかった。気ぃつけてな、セルフィ」』
通信機のスイッチを切ってから、セルフィは嫌な予感が大きくなったことに寒気を覚える。
「(…リノアはきっとそこにいる。 …でも、もしそこにいたとして、自分からそこに閉じ篭ったっちゅうことはやっぱり自分で抑えられなくなってきてる?
受け継いだ力がママ先生だけのもんやったら、こんな暴走はせんはずや。もしかして、まだあの時の…。 …急がな!)」

部屋の中で、身支度を整えていたアーヴァインは、セルフィを待つ間にTVをつけて驚いた。
そこには信じられない映像が映し出されていた。
丁度部屋に戻ってきたセルフィを大急ぎで呼び、映像を見せる。
『…ん下さい。信じられません。一体、中で何が起こっているのでしょうか?我々上空からの取材班も、危険ということでこれ以上の立ち入りを禁じられた為、このような遠い場所からしかお伝えすることはできませんが、この凄まじい黒煙は、あの魔女研究所から立ち上っております。奇しくも、本日、先程、ガルバディアから移送された魔女が施設内に搬送され……』
「!!な、何や、これ…」
「研究所が爆発したって…」
「え、これも魔女派の仕業なのかな?」
「それはわからないけど……けど…」
「?どないしたん?」
「まさか、あそこに子供達が行ってないよね〜とか…」
「!!…あ、アホなこと、言わんといてよアーヴィン!そんなこと、あるわけ…。…どうしよう、凄く心配になってきた…」
「き、きっと、大丈夫だよ。まさかこんな危険なことはしないよ、あの子達だって!」
「そうかな、そうかな?」
不意に、アーヴァインがセルフィを包み込むように抱きしめる。
「大丈夫、きっと、大丈夫だよ」
抱きしめられることで伝わる温もり。それは大きな安らぎを与えてくれるもの。…小さく頷いてはみたものの、不安が消えたわけではない。
しかし、自分達には今やらねばならないことがある。
セルフィにもそれは十分分かっている。だからこうして言葉ではない彼の考えを表されると、否定することができなくなってしまう。

ホテルが用意してくれた車は、運転手付きの高級車だ。
2人は当初断るつもりでいた。しかし、ニコニコと人懐こい笑顔で迎えてくれた運転手の顔を見て、結局今はその車の中にいる。
街の中は少々ざわついているようだ。街中に設置された大型のスクリーンや店頭に並べられたTVでは、先ほどから研究所の中継が繰り返し流されており、人々はそれに注目している。公安部や軍の車両が何台も追い越していく。
口には出さないが、セルフィは逸る気持ちを必死で隠そうとしていた。
嫌でも目に入る映像が、かえって不安を募る。
揃えた膝の上で硬く握られた拳に、そっともう1つの手が重ねられる。
触れられたことにはっとして、隣に座った人物を見上げる。
「…アーヴィン…」
穏やかな笑顔を返すアーヴァインだって、不安が無いわけは無い。
「多少無理を通してでも構わない。とにかく急いで欲しいんだけど」
「…え、そんなこと言われましても…」
「急いでいるんだ。僕たちをただの客と思わないほうが身のためだと思うよ」
不安はイラつきに変わっていく。
普段なら決してこんなことを言う人間ではないことをセルフィは知っている。
「…アーヴィンも、大丈夫やで!」
「! ありがと」
脅されて命の危機を僅かにでも感じた運転手は、少々制限速度を超えてしまったことを気に掛けていた。

「今日って、休日だよね、博士に会えるかな?」
「今、記念館のほうにいるんだって聞いたよ」
「…あの、お話に割って入って申し訳ありません。」
運転手が恐る恐る会話に参加してくる。
「もしかして、オダイン館長にご入用ですか?」
「…館長??」
「ええ、魔女研究の第一人者、オダイン博士のこと、ですよね? 彼はもう数年前に研究所から引退しまして、今は魔女記念館の館長です。でも、あそこの施設も研究所に劣らず立派な研究室がありますから、まだ研究からは手を引かれていないかと…」
「へー、そうなんだ〜」
「記念館は今も昔も観光スポットNo.1でして、よほどのことがない限りは年中無休です。館長も、特別な日ぐらいにしか姿を現してくれないお方だそうで、会えるかどうかはわかりませんよ」
「…その特別な日って?」
「'''解放の日'''というのがエスタにはありまして、あの魔女アデルが封印され、その支配から解放された日を記念して、国民休日と指定された記念日です。
その日だけは、国中でのほとんどの仕事は休みになりまして、国を挙げてのお祭りが開催されるんですよ。他の国の方には判りづらいことかもしれませんね」
魔女記念館は、エスタ市街の真東に位置しているが、かなりの郊外であるため、こうして車などの移動手段を使わなくてはならない。市街から外れ、魔物の多く生息するエスタ大平原にあるのだ。とても歩いて行こうなどというものはまずいない。
今は、数時間毎の路線バスが運行されている為、一般公開されている魔女記念館は一番の人気がある。
エスタ市街とこの記念館は直線で結べばそう遠くはない距離に位置しているのだが、その間にはエスタの大陸を分断するように大きく口を開けた湾が広がっており、それをぐるりと大回りして行かなければならず、時間がかかるのだ。
エスタの中心部東ブロックから、この記念館のある湾内の“出島”を直線で結ぶ計画が立てられてから数年。今だその着工には至っていない。

やがて、道の左前方に何か見えてきた。空に向かって黒い煙が立ち昇っている。
そこが目的なのだろう、光に群がる羽虫の如し、その近辺の上空をたくさんの飛行機械やヘリが飛び回っている。
エスタ市街へと続く道がどこにあるのか、ずらりと並ぶ車の列を見れば確認できてしまう。
建物を取り囲むように、黒い虫のように、車両や大勢の人間なのだろう、小さく動くものが僅かに確認できるが、この位置からでは遠すぎるようだ。
「あぁ、さっきからやってるニュースはこれですか…」
運転手の他人事の呟きはセルフィの胸を締め付ける。
わざとそこが目に入らないように、アーヴァインはセルフィを自分の胸に押し付けた。


→part2
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ