FINAL FANTASY [

□〜The 2nd War〜
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第26章part1


素晴らしい青空が広がっている。波も穏やかで船はほとんど揺れを感じない。この季節特有の強い風が時たま吹き付けるお陰で、航海は順調だった。
昨日までは見かけなかった船員らしき男達が、船上で忙しく働いている。
昼下がりのこの時間、甲板で忙しく働く者たち以外、船の中は静かだった。子供たちは眠りに付き、サイファーは1人船の縁に腰掛けて釣り糸を垂れていた。
側に置かれた小さなバケツには、小振りの魚が数匹狭そうに泳いでいる。
操舵室を出たゴーシュが、その後姿を見つけた。
「釣れますか?」
「…さぁな」
「静かでしょう?子供達が眠っていると」
「やかましい方がおかしいんだよ」
「この船にいると、子供達の声が聞こえるのが当たり前になってしまって、静かすぎるとかえって落ち着かないんです」
「……昨夜の…」
ゴーシュのほうを振り向いて、何か言おうとした。
「? …ガルバディア大統領の記者会見ですか?リアルタイムではありませんが、見ましたよ」
「……そうか」
体勢を元に戻し、頬杖を付く。
「…ナイト?」
「………」
「ご存知なんですね? 魔女を」
「!! …フン」
「あなたは魔女イデアの騎士だった。しかし、イデアは魔女の力を失い、元の人間に戻り、そしてあなたはここにいる。
 魔女ではなくなったということは、イデアは誰かに力を継承した。あなたは、その相手を知っているんですね」
「それがどうしたってんだ?」
「どうして、その魔女の騎士とならなかったのかと思いまして…」
「…俺は、お役御免なのさ」
「レジスタンスの、『黒いナイト』ですか?」
「…知ってんのか?」
「噂ぐらいは…」
ゴーシュがサイファーの隣にやってきて断りもなしに腰掛ける。
「いい風ですね〜」
「…お前は、どうなんだ? ガーデンを作って、SeeDを育てて、あのボルドとかいう奴のように、ママ先生のように、魔女を倒すのか?」
「あなたがガーデンやSeeDにどんな拘りを持っていて、どう思っていたとしても、私は、魔女を守るためにSeeDを育てます。それがたとえ、ママ先生の意思に反するものだったとしても…」
「ガルバディアに、魔女を敵視する者たちに敵対する、と?」
「必要ならばやむを得ないでしょう。」
「あんたらは、戦いを避けてきたんじゃねーのかよ?ガキ共にも戦いになんて参加させたくねーんだろ?」
「そうですね。“武力”はいらないと思います。でも、“防衛力”は必要だと思っています」
「要は同じことじゃねーか」
船室の中から、声が聞こえ始めた。子供達が目を覚ましたようだ。
突然開かれた扉から、たくさんの子供達が飛び出してくる。
「あー、ナイトはっけ〜ん!」
「せんちょうもいるー!」
「なにおはなししてたのー?」
「ナイト、いっぱいつれた?」
「あーうるせぇ…」
「「「あーうるせー」」」
サイファーの真似をすることが、子供たちにとっては面白い遊びの一環だった。
「さあみんな、中に戻ろう。ここは危ない。海に落ちたら大変だよ。 …ナイト、またお話しましょう」
「…あぁ」


サイファーが釣り上げた小さな魚達は、その日の夕食に変わり、子供達が奪い合うように圧倒的に数の少ないおかずを取り合った。
食卓でそんな小さな戦いが繰り広げられていることなど露知らず、与えられた部屋で武器の手入れをしているところへ、風神と雷神が慌てた様子で飛び込んできた。
「どうした?」
「た、た、た、た、た…」
風神が蹴りを入れる。
「大統領、銃撃!」
「なんだと!」
3人は慌ててTVのある部屋へ駆け込む。まさか昨日の今日で同じ行動を繰り返すことになるとは思いもしなかったが…
臨時ニュースが流れ、動揺したアナウンサーが大統領が銃撃されたことを伝えている。何人かのSeeDは手を叩いて喜んでいた。
「……!?」
「(またかよ…)」
このザワザワした感覚。頭の中に誰かが入り込んでくるような不思議な感覚。一体これは何なのだろう? …それよりも、今は…
サイファーは操舵室に駆け込んだ。
ここにも小さなTVが設置されており、乗員同士は何事か囁き合っている。
中を1度見渡し、船長室のドアを乱暴に開いた。ゴーシュはそこにいた。通信機で誰かと話している。
「ああ、確認した。やってくれ。……そうだな、どう出るか、しばらく様子を見よう。よくやってくれた。 ……あぁ。 ……アバンシアの名のもとに」
ゴーシュはスイッチを切ると、サイファーの方に向き直った。
「どうしました?」
「どうしたじゃねぇっ!(落ち着けよ)」
乱暴に胸倉を掴み上げ、力任せに引き寄せた。
映し出されるニュース映像が突然乱れ、別の映像に切り替わる。電波ジャックだ。そのまま、じっと画面を見入る。
『…私の名はハリー・アバンシア。人々よ、共に戦おう!集え!私のもとへ。平和の為に、魔女の為に!魔女の為に!!』
再びニュース番組に戻ると、サイファーはゴーシュを睨みつけた。
「…てめえか…!」
「ナ、ナイト、手を、手を離して下さい…こ、これでは、はなしも、できない…」
苦しそうに訴えるゴーシュから手を離し、床に足をつけてやる。
ふう、と大きな溜息をついたゴーシュは服を直しながら少々考えているのか、黙ったままだ。
「説明しろ」
「…何をです?」
「てめえ、何者なんだ。表ではガキを集めていい面つらして、裏では大統領暗殺かよ!(それが狙いなんだ)」
「あなたにはお話したはずですが?魔女を守る為にSeeDを育て、ガーデンを作る、と。その為にはガルバディアを敵に回す必要もある、とも。あなたは賛同してくれたものと思っていましたが…?」
「…何を考えている…?」
「たった1つですよ。“魔女を守る”それだけです。 …甘いのは、あなたのほうじゃないんですか?」
「なんだと!?(その通りだ)」
「魔女の騎士だったあなたになら、我々の考えを理解し、逆に我々を利用するぐらいの強硬的な考えを持ち合わせていると思っていました。
どうやら私はあなたを買いかぶり過ぎていたようです。」
「利用してるのはそっちじゃねーのかよ」
「…利用するのは、これからですよ」
「…?」
「サイファーさん、あなたの夢は何です?あなたの本当の夢は」
「…なんで今頃そんなことを聞く?(話せよ)」
「…それを叶えて差し上げましょう」
「!!!」
「あなたの夢は10年前のあの時から、いえ、もっと幼い時から、たった1つだけ」
「なぜ、知っている…(ロ〜マンティックだからな)」
それまでの表情が一変する。いつも通りの笑みを湛えた優しい顔に戻り、言葉を紡ぐ。
「とある方が、教えてくれたんですよ」
そしてまた、子供たちの前では決して見せない厳しい顔になる。
「我々の指揮を執り、共に戦ってくれませんか? 先の魔女戦争から10年。私の切望し続けたガーデンが完成し、魔女が姿を現した。そして、あなたに出会えた。
私には運命としか思えません」
「…さっき、誰かの名を言っていたな。そいつがてめえらのリーダーってわけか」
「ハリー・アバンシア。…彼は、既にこの世にはいません」
「!!」
「ティンバーでレジスタンス活動をしていた彼は、3年前のガルバディアの一斉攻撃の際、当時潜入していた密偵によって明らかにされた魔女を守るため命を落としました。
魔女を守る黒い騎士と共に、激戦を潜り抜け、その戦いを終結させる為に自らガルバディアに身を投じたのです。…たしかに、彼の死によってその戦いは一時的に収束しました。しかし、今だティンバーはガルバディアからの支配を抜け出せずにいる。…彼の力もさることながら、彼の存在そのものは大きく後世に残っています。
彼の名前そのものが、ガルバディアに反旗を翻す我々の象徴なのです」


→part2
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