FINAL FANTASY [

□〜The 2nd War〜
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第21章


「実は、1年ほど前からあるものを建設しています。ここF.H.のたくさんの技術者の方々に協力を頂いているんです。完成はそう遠くないですよ」
船の後部デッキは普段子供たちは入れないようになっている。ここには船の運航に必要な物品や装備が配置されているからだ。
先程サイファーが魔法で運んできた荷物も、ここに安置された。
デッキをぐるりと取り囲むように設置された鉄柵は大人の胸の高さほどあり、両肘をその上にかけて海を背にして立つサイファーには丁度良い姿勢でいられる。
船の動力は不明だが、魚のひれのような形の帆が設置されているところからしても、帆船であるのは間違いないが、それにしては船上で作業する人員が少なすぎる。
まだ点検作業が終わらないのか、広げられた1枚の帆から風を受ける音が先程から聞こえている。
「…へ〜…」
興味なさそうにゴーシュの言葉に返事を返すが、ゴーシュは全く気にしていないのか話を続ける。
「ある資源の採掘にも成功しておりますし、すでに完成した寮で生活を始めている者も多くおります。…確かにバラムやガルバディアには敵いませんが必要な設備は整っていると自負しています。…ぜひそこで…」
「おいっ!」
「…はい?」
「ちょっと待て、何を、作っているって!?」
「“ガーデン”です」
その一言に、遠くを見つめていたサイファーの瞳は自分の隣で話を続けるこの男に吸い寄せられる。
しばらくの沈黙の後、サイファーは腹をかかえるように大声で笑い出した。
ゴーシュには、なぜサイファーが笑っているのか分からない。
「冗談だろ!? ガーデン!? なんだそりゃ、あんたらが自分たちのことをSeeDと呼ぶからか!? 俺に言わせりゃ“幼稚園”だぜ!」
「我々は本気です! 建設に際して協力いただいたドドンナ氏を初めとして、各地から教官を…」
「ドドンナ…? 奴に何ができるってんだ。それこそ空想だ。できもしない者が夢見る絵空事さ」
「ドドンナ氏には資金面での大きな援助を受けております。彼なしには、この計画は始められなかった。」
「…大体、あんたらがSeeDを名乗っているってことからして、SeeDをバカにしてるとしか思えねぇ。訓練を積んでいる訳でもない。擬似魔法の1つも使えない。
 そもそも闘うことから逃げてる時点でSeeDとは呼べねぇんじゃねーか?」
「私は、できれば今の子供たちにも戦って欲しくなどありません。しかし、私のような人間に育って欲しくないという思いもあるのです。だからこそ…」
「その矛盾がおかしいってんだよ!」
「………」
「イデアを、ママ先生を知ってる人間なら、戦いは避けることなんてできねえもんだと、SeeDは魔女を倒すために存在するんだってことは承知のはずだぜ。
 彼女の信念を曲げてまで作らなきゃならねぇガーデンなんて、ガーデンじゃねぇんだよ。それはガーデンを創設したイデアへの侮辱でしか…」
突然背後から何かが壊れるような音がした。
思わず中断された会話で辺りはシンと静まり返り、また帆が風を受ける音が聞こえてきた。
そこに立っていたのは1人の女性SeeD。2人に飲み物を運んでこようとしていたのだ。
自分と目が合ってしまった2人の男の会話。あまりのことにどうしてよいか戸惑っている様子だ。
「どうしました?オルティー…?」
ゴーシュが声を掛けるが、何かにショックを受けたのか手が小刻みに震えている。落としたグラスもそのままで、彼女は逃げるように走り去った。
「…だから、あなたのような人が必要なのです。ガーデンやSeeDの本当の意味を知り、そして魔女の力も心も知る、強い人間が…」
「あんたは、SeeDには似つかわしくない。…甘ぇよ…」
「そう、でしょうね。…でも、机上の空論で終わらせるわけには行きません。もうすでに計画は動き出しているのですから…」
「計…画…?」
「すいません、私はこれで失礼します。彼女の様子を見てこなければ…」
走り去るゴーシュの後姿を見送って、サイファーはまた柵に身を任せた。
「…俺に、どうしろってんだ…」


暖かな日差しと柔らかな海風。そして優しく揺れる船は大きな揺りかごのようだ。じっとしているだけでかけられる、それは自然界の眠りの魔法。
デッキの上の乱雑な足場の中から、自分が座り込める位置を確保する。身を隠すことも、寒さや眩しさから逃れる為の備品もここにはいくらでも揃っている。
子供たちにここに入らないように言い含めている理由がよく分かる。
この船の船長、ゴーシュの言動を思い出す。
奴らは、新たなガーデンを建設している。…なぜ?…何の為に?
「…!?」
ザワザワした感覚が背筋に走る。これが一体何なのかさっぱりわからない。ここのところ具合でも悪いのだろうか?
…自分もかつては孤児だった。共に育ったたくさんの仲間がいた。いつしか皆がガーデンと呼ばれる施設で訓練を受けることになる。
やがてSeeDと名乗り、それは魔女を倒す力となる。…しかし、そのガーデンを創立したのは魔女。それはつまり、自分を倒す力を自分で育てることになる。
なぜ、イデアはガーデンを作った?
なぜ、SeeDを育てた?
ずっと孤児院として子供たちを育てるだけではいけなかったのだろうか?
「………(聞けばいい)」
意識の片隅で、誰かが囁いているような感覚に囚われる。…気のせいだと思えば思えなくもない。

「……(おい)」
「……?(何のんきに寝てやがる)」
「……??(起きろ)」
「サイファー、こんなところにいたもんよ!」
でかい声と足音が近づいてくる。いつの間にか眠ってしまっていたらしい。
「…今のは何だ?(気付けよ)」
「? 夢でも見たもんよ? それよりサイファー、ニュース見るもんよ」
「ああっ!?そんなもん見る気なんざねーよ」
一体どれだけの時間そこに眠っていたのだろうか。辺りは夕闇に包まれていた。
煩く呼ぶ雷神の声に、しぶしぶ起き上がった。
「なんか、ガルバディアの大統領の話が始まるもんよ」
「大統領がどうしたってんだ。俺にゃ関係ねー…」
「魔女がどうとか言ってるみたいだもんよ」
「……!! 魔女!?」
寝ぼけた頭が次第にはっきりしてくる。もう一度自分を呼びに来た雷神に確認を問う。
「本当にそう言ったのか」
「おおよ、聞いたもんよ!」
TVが置いてある娯楽室は静かだった。皆TVに集中している。
幼い子供たちでさえ、この緊迫した雰囲気を感じ取っているのだろうか?
『…は言っておきましょう。魔女はすでに拘束され、我々の手の内にあり……』
TVの中の大統領は熱く語っている。
「(どういうことだ…?魔女…!?)(すぐにわかる)」
やがて会見は終了し、その場にいた全員の視線を集める。
「ナイト、魔女、見つかっちゃった」
「つかまっちゃったの…?」
「助けてあげてよ、ナイト!」
「ナイトは魔女を守るんだろ?強いんだろ?」
「………俺が守る魔女は、1人だけだ」
「あのしゃしんのまじょ?」
「あぁ…」
その場にいた女性が声を掛けた。
「さ、さあみんな、行きましょう。ナイトが困っているわ。夕食が冷たくなる前に食べなさい。」
子供達が全員部屋から出たのを確認してから、雷神が呟いた。
「変だもんよ。もう魔女なんていないはずだもんよ」
「調査!」
「おお!そうだもんよ!ガルバディアに連絡して調べるもんよ」
「(…魔女。魔女が現れた。…でも今じゃねぇな。軍が拘束したなんて声明を出すってことは、もうかなり前から存在は確認されてたってことか…まさかな…)(そのまさかだ)」
“魔女”“ティンバー”“レジスタンス”“逃げた傭兵”そして“エスタ”
TVの中から聞こえてきた単語を繋ぎ合わせていく。自分が出した考えが自分で信じられない。否定してしまう。…だが、もしかしたらという思いのほうが強く、それが真実なのだろうと気持ちが傾いていく。

子供達が食事を摂っている間、部屋の中を片付けるのはこの女性の仕事の1つなのだろう。
「おい、少し休みたい。部屋はあるか?」
「えっ、あ、はい、ちょっと待ってて下さい。船長に伺ってきます」
腰まで届くような長い髪を尻尾のように振りながら走ってゆく女性は、先程自分達の話を聞いてしまった人物だ。あの長い髪は間違えようも忘れようもない。
やがて戻ってきたその女性に案内され、船内の一室に通される。
気のせいかもしれないが、ここの女性達は皆、なんとなく余所余所しい。自分という存在を疎ましくでも思っているのか…?
部屋の中の備品を簡単に説明するこの女性に、それとなく聞いてみる。
「あんた、だよな。さっきの」
「! …あ、すいませんでした。立ち聞きするつもりは…」
「あんたも、SeeDか?…その制服」
「ある年齢に達するとそう名乗ることを許され、この制服を支給されるんです。…あの、SeeDって、魔女の何、ですか…?それに、あ、あなたも、SeeDなんでしょう? 船長や私達がガーデンを作ることは、反対なんですか?あなたは、…魔女を守るナイト、だから…」
「俺が、邪魔か?」
「いいえ!!…あ、いえ、そんなことは…」
「なぜそんな怯えたような態度をとる?ガキ共に接するときとは丸で違うよな…?」
わざとらしくニヤリと口元を持ち上げてみる。途端に女性の顔が真っ赤に染まった。
「!?」
「私達も、こ、子供たちと同じなんです…! ずっとあの写真を見て私達も育ちました。…だ、だから…失礼します!!」
逃げるように部屋を飛び出してしまった。自分が考えていたことは全て空回りだったことに、自分自身どう反応していいか分からなくなった。


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