FINAL FANTASY [

□〜The 2nd War〜
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第20章


星空を見上げていた。隣には笑顔のリノアがいた。いつものように流れ星を数えているのだ。
突然リノアが苦悶の表情をする。
肉と骨が砕ける濡れた音が響き、彼女の胸から血に染まった剣先が顔を出す。
口から流れる血と息をするたびに漏れるような甲高い音。微かに呼ぶ自分の名前。
突然の出来事にどうしていいかわからない。
自分に向かって倒れてくるリノアを受け止めることしかできない。
腕に伝わる暖かい液体が彼女の体内から流れ出たものであると、それを見なくても奪われてゆく命を実感してしまう。
倒れてくるリノアの背後に立つ人物。彼女を受け止め、真正面でにらみ合う2人の男。
そこにいたのは、自分。
10年前の姿で、今と同じ武器を構え、夜叉のような鋭い目を向けて呟く。
『魔女め!!』
憎しみの込められたその一言がこれ以上無いほどの殺気に満ちている。
剣を振りかざし、尚もリノアを斬りつけようと襲い掛かる。
『やめろ―――っ!!』

目が覚めた自分に気が付いた。…夢、だった…?
胸に手を当てて確認するまでも無い。体全部が心臓になったかのように力強い速さで脈打っている。
酷い汗だ。息を整えるように深呼吸を1つ。ゆっくりと息を吐き出しながら自分自身を落ち着かせようとした。
目覚めたのはどこかの部屋のベッドの上。見覚えがあるともないとも言い難い。見渡して気付いた。
自分の寝ていたベッドの傍らで蹲るようにして自身の腕を枕にして眠る人物の存在を。
「(リノア……?違う)」
そっとベッドから降りて辺りを伺う。窓の外から見える景色は、エスタの中心街。
「(…エスタのセントラルホテルか…なぜこんなところに…?)」
不意にドアの向こうに人の気配を感じる。
壁に立てかけられていた自分の武器を手にし、静かに扉の横に背をつけて立つ。
ゆっくりとドアが開く。しかし誰も入ってくる様子は無い。
いつの間にドアの隙間から差し込まれたのだろう、自分の米神に何かを押し当てられた。
「(しまった…!)」
『BANG!!』
思わず目を閉じるのは人間の本能なのか…
聞き覚えのある声にはっとする。…人間の掛け声…? 顔を仰け反らせて正体を目視する。人差し指と親指を立てた人間の右手。
「入るよ〜。銃なんか持ってないからさ〜」
銃を形つくった手の持ち主が、ドアの隙間からぬっと現れた。
アーヴァインだ。
相変わらず飄々とした笑顔でスコールを見下ろした。
「目が覚めたんだね。久しぶりだね、スコール。…あんま元気そうじゃないけど…」
「俺はどうしてここにいる?」
「覚えて……ないよね〜。突然現れて倒れたから」
腕に抱えてきた氷入りのアイスクーラーをテーブルの上に置き、ルームサービスの簡単なつまみを1つ口に放りこんでから皿ごとグラスと共に手してテーブルに戻った。
「何も食べてないんだろ〜?何か食べる?頼もうか? …スコールのことだから、食べることも忘れちゃったんだろ?」
「………」
「何か、怖い夢でも見た?うなされてたよ…。セフィ、すごい心配しちゃってさ。」
「…すまない」
「それより、何か食べるかい? …あ、それよりもシャワーのほうがいいかい?お風呂もすっごい広くて立派だよ〜」
「そうだ、な」
「ここ、大統領の御用達らしいから警備も万全だし、安心していいよ〜。だ〜れにもスコールがここにいるって教えてないから。
…あ、でも防犯ビデオとかあったら映ってるかも」
「ここにそんなものはない」
「あれ〜?スコールここ来たことあるの?」
「……フッ」
意味深な笑みを浮かべて、スコールはバスルームへ向かった。
ふと鏡に映った自分の顔を見る。やつれた青白い顔、夢で見たあの鋭い眼差しはそこには無かった。
「(…嫌な夢だ…)」

フト気が付いて、自分がいつの間にか眠ってしまっていたことに反省の気持ちが湧く。
目の前には空になったベッド。焦って立ち上がる。
「スコール!」
思わず声と共に辺りを見回してしまう。
ベッドルームから続くリビングのほうから、声が聞こえてきた。
「セフィ、おはよ〜。スコールならバスルームだよ〜」
声の主の元へ向かうと、アーヴァインが新聞を読みながらフルーツジュースを飲んでいた。
「セフィもどう?氷がなくてさぁ、フロントまでわざわざ取りに行っちゃったよ」
「ありがと。…アービンもしかしてずっと起きてた?…ごめんな」
「うん、大丈夫だよ。…でもちょっと眠いかな〜」
「寝てていいよ。スコールとは話、した?」
「まだなんにも〜。セフィ、頼んでいいかい?」
「うん、ええよ〜」
バスルームを出た位置からは、寝室は丸見えだ。
横になって眠るアーヴァインを優しい眼差しで見つめるセルフィは聖母のようだ。
壁にもたれて、目が離せないでいるとセルフィがこちらに気付いた。
「…目の毒だな」
捕らえ方によっては、嫌味とも僻みともとれる言葉だが、彼女にとっては惚気に過ぎないのだろうか…
「えへへ、ごめんね〜」
アーヴァインに気を使うように静かに寝室を後にし、まだ湿っている髪を無造作にタオルでかき回した。
「それより、ここで何を…? ラグナが用意したんだな?この部屋は」
普段無口で静かなこの男が、自分の目を見つめて話しかけてくる。
それだけでも意外なのだが、心の奥底まで見透かされそうな瞳を見ると嘘をつくことなど無理だと感じてしまう。
「あー、えーと…その〜あははは…」
「………」
「ううっ、スコールに隠し事なんて、できるわけないやん〜」
「俺がここにいる理由を知っているんだな?」
「…う、ん。 あの、ね、はっきり言っていい?」
「はっきり言ってくれ」
「スコール、エスタに来ても無駄だったんだよ」
「どういう意味だ?」
「あー、そうじゃなくて…何て言ったらいいか…明日、エスタの魔女研究所に…」
「明日?」
「あー違う!もう今日なんだ! だけど、ラグナ様がね…」
「今日!? ラグナ…!? …!!!」
スコールはそのまま武器を握り締めると部屋を飛び出してしまった。
「スコール!待って!話を……聞いてよ…」
つられて立ち上がったはいいが、物凄い勢いで飛び出したスコールには自分の声は届いていないだろうとセルフィは思った。
「……どないしょ…」

「(やっぱり!やっぱりリノアはここに…! あいつが、ラグナが魔女研究所に行く。今日! アデルの時のように、10年前のあの時のように、奴に封印されてしまう!
…くそっ!そんなことはさせない! リノア、必ず助ける!!)」
街のレンタカーショップに飛び込む。
「すぐに出せる車を貸してくれ。急いでいる。セントラルホテルのスイートにつけておいてくれ。名前はキニアスだ!」
書類に目を通すこともなく、そう言い捨てて奪うように車のキーを受け取った。


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