FINAL FANTASY [

□〜The 2nd War〜
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第17章


1人の子供が持ってきたのは、随分と年季の入ったボロボロになってしまった1冊の絵本。
その中の1頁にあった挿絵。魔女の前で、魔女を守るように剣を突き上げて立つ騎士の姿。
目の前に貼り付けられた古い切抜きの写真の中には、同じ様にイデアの前に立つかつての自分の姿。
「こいつは…」
「ここにいる者たちは、そのほとんどが孤児なんです。彼女はそんな孤児たちを集め、そして育ててくれた。
 彼女は私たちのことをSeeDと呼び、私達は彼女のことをこう呼んだ」
「“ママ先生”…」
「!!どうしてそれを!」
「…俺も、そうなんだ。海のそばの小さな石の家。そこで育った」
「ナイト!」
「ナイト、かっこいーねー」
子供たちは口々に言い合っている。
「この子達は、ママ先生のことを知りません。あの魔女戦争の後に生まれた子や、その戦争によって孤児になった子ばかりです。
 人々の記憶の中では恐ろしい存在でも、私達にとっては優しい“ママ先生”。それと同じなんです。
 あなたは魔女を守る騎士、“ナイト”という象徴そのもの。子供たちにとって憧れの的なんですよ」
「…ちっ、かゆくなってくるぜ」
首の辺りを掻き毟る真似をしながら、子供たちに纏わりつかれる理由をやっと理解した。
「ナイト、まじょはどこにいるの?」
「…さぁな」
聞いてきた少女に、身を屈めたゴーシュが優しく答える。
「大きな戦争が起きて、あの写真の魔女は悪い魔女に捕まってしまったんだよ」
「でも、ナイトがたすけたんだよね!」
「・・・・・・・・・」
「そうだよ。悪い魔女をやっつけて、あの魔女を助けた」
「それからどうしたの?」
「また悪い魔女に見つからないように、秘密の場所に隠したんだ」
女性クルーが、子供たちに席に戻るよう声を掛ける。子供たちはサイファーにしがみついたまま離れない。
「…ここにいるから食って来い。…俺が全部食っちまうぞ」
その一言で、子供たちは一斉に戻ってゆく。
ゴーシュと共に甲板に出て風を受ける。
「…なぜあんな嘘をつく?」
「時が来れば…、子供たちはいずれ真実を知ります。その理由とともに」
「…フン、俺には関係のないことだ。…長居しすぎた。邪魔したな」
やっと子供たちから解放され、これでまたつまらない時間を過ごすことができる。そうサイファーは思っていた。
帰ろうとするサイファーの背に、ゴーシュが声を掛ける。
「サイファーさんは、今何を?」
「あん?あんたにゃ関係ねーこったろ。まだ何かさせる気かよ…」
「はい、お願いしたいことがあります」
「…何だよ」
「きっと、今の生活より遣り甲斐があると思いますが?」
笑顔でそう答えるゴーシュを振り返り、サイファーはしばらく考え込んだ。
「ガキどものお守りなんて御免だからな」
「…将来、その子たちがSeeDを名乗ることになるとしても、ですか…?」

ゴーシュの言葉に興味を引かれる。…そうだ、ここにいる者たちはSeeDだ。…白い、SeeD。
何度も試験を受けた。“万年候補生”などと不名誉な愛称まで付けられた。…結局自分はSeeDにはならなかった。
そんな自分に、未来のSeeDを育てる資格などあるわけがない。
船の中から、慌しくゴーシュを呼ぶ声が聞こえる。
一言短い断りの言葉を残し、船長はその場を後にした。
甲板の端の階段を上りきったところで待っていた人物が、ゴーシュに何事か話している。
「……ィンバー……ジスタ………ダー…魔女……」
小さな言葉はよくよく耳を澄まさなければ届かない。しかし、気になる単語がいくつか聞き取れる。
関係ないとは言ったものの、思わず聞き耳を立てる自分がそこにいた。
そのままゴーシュは階段の上のほうへ消えていった。そこにブリッジがあるのだろう。
フン、と鼻を鳴らし、サイファーは船を降りた。
その姿を見て慌てて風神と雷神が駆け寄ってくる。中で子供たちと遊んでいたのだろうか。
こちらの問いかけに何も答えないサイファーは港からどんどんと町の中へ歩を進めていく。

町を縦断するように走る古びた線路の脇に、鮮やかな水色をしたものを見つけた。目ざとく拾い上げたのは風神だ。
「おっ、『ププルン』の人形だもんよ!」
「其何?」
「風神知らないもんよ?物凄く感動する絵本だもんよ!」
「…!名前…」
「…おっ、名前書かれてたもんよ。……!」
書かれていた名前は、あの少女のもの。よくよく縁があるらしい。
「届」
「おお、届けに行ってやるもんよ!サイファー!」
…なぜ自分に振ってくるのかが理解できない。
突然、先程釣りをしていたところに忘れ物をしたと、雷神が言い出した。自分にこの宇宙人だか妖精だかの人形を押し付けて、2人で走っていってしまった。
「…?(?)」
またザワザワした感覚に襲われる。
「…どうしろってんだよ(行けよ)」
人形を捨てちまおうかどうしようかと思案しつつも、小脇に抱えて2人が行ったであろうところへ向かう途中、店の前であの船の乗組員らしき白いSeeDの制服を着た人物を見かけた。
船に戻るついでに一緒に持っていってもらえば、煩わしさからは逃れられる。
何やら店側と揉めているようだった。
「おい」
声をかけると、ビクリとその男は振り返った。買出しにでも来ていたのだろうか、とんでもない量の荷物が奴の足元に置かれている。
ことのついでを話し、持っていた人形を預けようとした。
「今ちょっと忙しいんだよ。大事な部品の修理は明日までかかるって言うし…。船まで運ぶ荷物はとんでもなく重くて…」
「誰か助けを呼べばいいだろう」
「今、いなくなった子供を探しに行ってるから、そんなの無理だよ。親方とは話し合いもなかなか終わらないし…」
そう言って疲れたように長い溜息を吐いた。

『レビテト!』
僅かに浮き上がった重そうな荷物を、軽くひざで押しながら店を後にする。
「??えっ?ええっ!?」
「こいつは船に運んでやる。もうガキどもは全員船に戻ったし、まだ手伝いがいるなら誰か呼んで来てやる」
顔だけこちらを振り向いて、サイファーはそこを離れた。
後ろの店のほうから男がまた明日顔を出すことを告げている言葉と、こちらに向かって走ってくる足音が聞こえる。
「た、助かるよ。…これ、魔法かい?初めて見た」
「…何言ってやがる。SeeDのくせに擬似魔法も使えねぇのかよ」
「そ、そんな! 特別な訓練を受けた人間ならまだしも、僕たちはそんなことできないよ」
「………」
ゴーシュが口にしていた言葉を思い出す。
“将来SeeDを名乗る”
いずれはどこかのガーデンに入学させようとしてるのか…
それはつまり、自分に教官として彼らを教育しろ、とも取れる発言に聞こえる。
船に到着すると、いつの間にかちゃっかり船の上で食事を取っている2人がいた。
「到着」
「おお!サイファーやっと来たもんよ!遅かったもんよ!」
笑顔で迎える2人の背後から、怒涛のような足音を聞いたサイファーが船に戻ったことを後悔したのは言うまでもない。


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