FINAL FANTASY [

□〜The 2nd War〜
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第16章


夜、普段は静けさに満ちているガーデンの中で、唯一人の出入りがあるのは24時間開放されている訓練施設。
そこで新人SeeDの補習をしているまさにその時だ。突然の呼び出しが教官長であるキスティスと学園長のイデアにかかった。
新人SeeDは3名。内1名だけはスペルクラスA級の実力を持っていたが、他の2名は苦戦していたようだった。
聞こえた呼び出しの館内放送に、2名は思わず喜んだ。

呼ばれた学園長室に到着すると、そこにいたのは年少クラスの2名の候補生。
キスティスとイデアに敬礼する。
「遅くなりまして申し訳ありません」
「トラビアへの護送、完了しました」
「!!あなたたち!」
「まぁ…!」
一応の敬礼を返し、腰に手を当てて仁王立ちになる。
「(…うわぁ、怒りモードにチェンジだ〜)」
「(…兄さん!!)」
「何をこそこそ話してるの?」
「いいえ、なんでもありません」
「あなた達には、トラビアで泊まってくるよう言ったはずでしょ?なぜ戻ったの?」
「そ、それは〜…」
「早く、バラムガーデンに戻りたいと思ったからです」
「あら…」
「本当の理由はそれじゃないわよね?…言いなさい」
2人の候補生は顔を見合わせた。
「…エスタに、行きたいんだ」
「!!」


小高い丘の上に立った瞬間、それまで何も見えなかった広大な街が突然眼前に開けた。
思わず感嘆の声を上げる。
大きな、本当に大きな街だ。どこまで広がっているのか、遥か遠くの町並みは霞んでさえ見える。
「ここからは歩きだね〜」
乗ってきたチョコボから手綱と鞍を外す。
「遠くまでありがとな。大変だったやろ。待ってなくてええからね」
一声高く鳴いた2羽の黄色い大きな鳥は、踵を返すと今来た道を戻っていった。
気温の低いトラビアから羽織ってきた厚手のマントは、この地方では不要のようだ。
この朝日が天頂に来る頃には、今着ている服でさえ脱ぎ捨てたくなりそうだ。
「それにしてもキスティも無茶な任務言ってくれるな〜」

彼らがトラビアの出たのは、もう夜もすっかり更けて満天の星空を澄んだ空気の上に眺めることができる時間だった。
ちょっと目を離した隙に姿を消した2人の子供たちの書置きを発見したのは、夕食にも顔を出さない2人を探している時だった。
まさかバラムに戻っていたなんて…
バラムガーデンから連絡が入ったのは、それからしばらくしてからだ。
無事にガーデンに戻ったこと、リノアは無事だと報告を受けたこと…。そして、こんな時間に年少クラスの子供たちだけを寄越したことを憤慨しつつ教えてくれた。
更に、子供たちだけでエスタへ向かうのだという。
“視察研修生” その肩書きが、イデアの出した許可証だった。
『朝一番の列車で向かうことになるわ』
このまま市街地へ入り、駅に向かえば子供たちに会うことができる可能性もある。
だが、そうできない理由がすでに2人にはあった。
『セルフィ、テレビ見た?ガルバディア大統領が会見を開いたんだけど…』
ずっとリノアと話し込んでいて、その後は子供たちを捜していたセルフィがそれを知らないのも当然だ。
キスティスが、今後の動向次第でガーデンの存続が危ぶまれることを危惧している旨を告げたのだ。
『もしかして、なんだけど、スコールもエスタに向かったようなの。大統領に会うつもりかもしれないわ。…セルフィ、お願いがあるの…』
「子供たちの責任を取れってことかな〜?」
「もう!そんな言い方しないでよ、アービン」
「でもさ〜、今日中に大統領に会え、なんて無謀だよ〜!」

『エスタの沈黙』から27年。
徹底した鎖国主義を貫いてきたエスタにも、鉄道が通ったり電波塔が建設されたりと、少しずつ他国に向けての解放が始まっていた。
遥かに進んだ科学技術や情報は、他国も取り入れたいと希望するところではあるが、かのガルバディアをも凌ぐと言われるほどの強大な軍の圧力を前に、腰が引けているのが現状である。
また情報面でも、一部の地域では電波を使った通信手段が可能となったようだが、街全体に張り巡らされたオンライン通信に慣れた国民にとって、電波通信はアナログでしかなく、古いものだという認識しかない。情報を世界に公開するプロセスは今だ全くの進歩を遂げていない。
そんなエスタの大統領とコチラから連絡を取ることは本当に難しい。
技術の進んだガルバディアやマスメディアの普及が世界一と言われるようなティンバーならまだしも、バラムのようなのどかな島国からでは完全に無理なのだ。
エスタという国がどこにあるのかさえ知らない者がいるのだ。
トラビアのような辺境の地が、陸続きで一番エスタに近いというのは皮肉でしかないのだろうか。

街の外れのレンタカーショップから、中心街のリフター乗り場までの短いドライブは眠気を誘うものとなった。夜通しかけてトラビアからやってきたのだ。当然のことだった。
透けて見える透明度の高い材質の建物が中心となっている町並みは、その技術力の高さを物語っている。
行きかう人々は皆、特徴的な長い国民服を身に纏い、自分達のようなよそ者は非常に目立ってしまう。
リフターはあっという間に官邸前に2人を運び、再び別の人間を別の場所へと運んでいく。
その大きさは圧倒されるばかりだ。以前にも訪れたことはあるが、それでも口をポカンと開けたまま頭上を見上げてしまう。
正面入口の端末で、人物照会や用件の入力をしなければドアは開かない。別用の窓口もあるが、ほとんどの人は端末を操作するだけで済ませてしまう。
対人のやり取りを煩わしいと感じる人々が多いのもこの街の特徴だ。
端末の操作は、セルフィが試みるがICの照会やIDの確認をしなければならず、お手上げ状態。
窓口に赴いても、アポイントも何もない彼らが取り次いでもらえるわけもなく、途方にくれてしまった。
「技術の進んだ鎖国って、面倒だね〜」
本当にそうだとセルフィも賛同せずにはいられなかった。
腹の虫が小気味良い音を立てて鳴き出した2人は、近くの飲食店へ。なんとそこには電波を使った通信設備が設えてある。
店主に使用許可を求めると、意外なほどあっさり貸してくれた。
ティンバーからの鉄道が開通してから、観光を目的とした外国人の数が劇的に増加し、電波通信装置もうなぎ上りにその販売台数を増やしているのだとか。
頼んだジャンクフードを齧りながら、キスティスに連絡を入れてるセルフィの近くでアーヴァインは声に耳を傾けた。
『…なんとかしてみるわ』
彼女のなんとかは当てになる。確信を持って再び官邸に赴いた。

「それ、延期したから!」
「…はっ!?」
初めてこうして出会ったあの日からもう10年の月日が流れ、髪にも白いものが目立つようになってきたこの大統領は相変わらず楽しそうに豪快に笑った。
「さっき、エルから連絡貰ってさ、会いに行く約束しちまったんだ」
やっと通された執務室にいたこの国の大統領に、久しぶりに会えたことの喜びと共に挨拶を交わし、ガルバディア大統領の会見の件の話を切り出したばかりだった。
「あの、延期って…?」
「ボルドが言ってた魔女のことだろ?研究所に送られることになっちまうだろうけど、俺が行くまでは絶対、ぜ〜〜〜ったい触んな!って言ってあるから。
 魔女ってさ、あの子だろ?えっと…ニノラちゃん」
「リ・ノ・アだ。1文字しか合わないクセ、いつになったら直るんだい?ラグナ君」
「だ―――っ!キロスは黙っててくれよ」
「は、はい、そのことでお話を聞いてもらおうと思って…」

「ん?んじゃ、研究所に運ばれてくるのって、ニセ者ってことか?」
「はい、本物の魔女は安全なところにいます。場所まではお教えできませんが…」
「ニセ者だとバレちゃったら色々と大変なんだよね〜」
「作戦に協力したガーデンにも、何らかの報復があるかと思われます。ガルバディア・バラム両ガーデンとも、です。」
「つまり、ニセ者だってバレなきゃいいんだろ?」
「あ、はい。時間を稼いでもらえればその間に私達で何とか…」
「よーし!俺に任せとけ。うまいことやってやる」
「ホントですか!ありがとうございます!」
「…ラグナ君、また安易に返事をしてるだけじゃないのかい?いつもそれで苦労するのは私達なんだ、というウォードの熱い視線を感じないかい?」
「・・・・・・・・・」
「だ―――っ!!わかってるよ!」
「(ラグナ様、全っ然変わってない…)」
「(だ、大丈夫なのかな〜〜〜?)」

「あいつは、来てねぇのか?」
「あいつ…?」
「スコール?」
「おう」
「それが、エスタに向かったらしい、ということしか…」
「そ…っか。探したほうがいいかな〜?」
「ラグナ君は個人的に会いたいだけじゃないのかい?」
「?」
突然話を中断させた電話のベルは、ここで話は終了という合図のように聞こえた。
「ラグナ君、ここまでだ。会議の時間だ」
礼を言って退室した2人は、秘書の1人からホテルに案内される。
エスタらしい近代的な広い部屋はスイートルームのようだ。


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