FINAL FANTASY [

□〜The 2nd War〜
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第11章


目覚めたときに飛び込んできた光の眩しさに、やっと開いた瞼をまた硬く閉じた。
身の上に掛けられた布を両手で掴み、その下に潜り込むように頭にかぶせた。
両腕で顔を隠すように丸くなってから、ゆっくりと瞼を持ち上げた。
自らが作り出した影の世界の中でも、どうしてこうも白く見えるのだろうと疑問に思う。
「(…あかる、い…?)」
眠りと覚醒の狭間の僅かな時間、上手く働かない頭では整理が付けられない。
いつも目覚めたときに感じる温度も匂いも、耳に届く音や声も、今は全く違うものだった。
頭の上まで被った布をゆっくりと下ろす。目に入ってきたのは、見覚えの無い白い天井。
「…えー、と…ここ、どこ? スコール…?」
次第にはっきりとしてきた頭を抱えつつ、ゆっくりと体を起こす。
嫌に澄んだ空気に消毒薬の匂い。しんと静まり返った部屋には自分が発した音だけがバカに響き渡るような気がした。
この真っ白な小さな部屋で、黒い服の自分だけが場違いなようで、ここから黒いものが広がっていくような微かな恐怖すら感じる。

ふいに聞こえた小さな足音。
近付くに連れ、2つあったことに気付く。部屋の扉の前までやってきたらしい2つの足音。
扉に嵌められた曇りガラスには何の変化も見えない。…いや、ほんの少し、下部に何かが写って見えたような気がした。
思わず凝視してしまったその扉がゆっくりと開かれる。
気を使うように静かに部屋の中に入ってきたのは、2人の少年。
「…だ、誰…?(…誰かに、似て…る?)」
「起こしちゃいました?すいません」
子供らしい笑顔を向けて謝罪の言葉を発した少年は、共にやってきたもう1人の少年に何事か囁くと、同じ顔をしたもう1人はしぶしぶ部屋を出た。
「おはようございます。リノアさん、ですよね?」
「!」
「初めまして…じゃないんでしょうけど、すいません、覚えてないので。僕はウィッシュ・キニアス。ここはトラビアガーデンです」
思いも寄らない展開に、咄嗟に反応できなかった。
驚きよりも、疑問のほうがはるかに大きく多かった。
「今、兄さんが人を呼びに行きましたから、もう少し待ってて下さい。僕たちも、実は詳しいことは何も知らされていないんです。急に帰るように言われただけで…」
パタパタと走りこんでくる足音が聞こえたと思ったら、勢いよく扉が開けられ、足音の主はそのまま一直線に自分に向かって飛び込んできた。
見覚えのある外側に跳ねたくせっ毛に、やっぱりどこかで見覚えのある制服。
「(…SeeD?)」
抱きついた自分の体を離し、やっとまともに見えた顔は、久しぶりに会った昔からの友人だった。
「よかった〜!リノア、どっか痛いとことか、ない?大丈夫なん?ここに運ばれてきたときはホンマに死んどるんやないか思て、心配したんやで〜」
「セルフィ…?」
自分の名を呼ばれたことに気付くと1つ頷いて、抱きついていた手を離してリノアが目覚めた寝台の端に腰を下ろした。
「辛いんやったら、横になってたほうがええよ。無理せんでええ。」
「うん、大丈夫。…久しぶりだね、セルフィ。…あの、わたし…」
疑問詞をぶつけようとするが、何から聞いていいのかさえ整理がつかない。
セルフィはゆっくりと説明を始めた。
この作戦のこと、ティンバーと軍のこと、ここに自分がいる理由と経緯。
だが、リノアが一番知りたかった人物については、結局何も聞かされなかった。
「…あいつは?」
再び扉が開かれ、背の高い男が入ってきた。
セルフィと同じタイプの男物の制服を着ている。
彼も部屋に入るなり、ゆっくりとリノアに近付き、そして抱きしめた。
「よかった〜、リノア、久しぶりだね〜」
無言で男の耳を摘みあげたセルフィは、鋭い眼差しを男に向けた。
「い、いたたたた! なんだよ〜、挨拶しただけじゃん」
2人のやり取りに、思わず笑みがこぼれる。
「久しぶりだね、アーヴァイン。ちっとも変わってない!」
少々キツイ目を向けながら、セルフィは問いかけた。
「キスティ、何だって?」
「あぁ、あのねぇ、リノアが無事に着いたこと話したら安心したって。しばらく僕らにお願いするってさ〜」
「それだけ?」
「うん、そうだよ〜。まだガーデンに到着してないから詳しい話は後で、だって。あ、あとね、ガルバディアの人にもちょっと聞いたんだ。レジスタンスはリーダー格の人だけ連行されるみたい。人数が多すぎて対応しきれないんだってさ〜。
 軍はもう引き上げたそうだよ〜。まだ監視とか何人か残ると思うけどね〜。それからさ、ちょっと気になることも言ってたよ〜」
「気になること?」
「なんか、捕らえたそのリーダー格の1人が兵士に重傷を負わせて逃亡したんだけど…」
「…それのどこが気になるの?」
「重傷を負わされた兵士の話によると、その人『魔女をどこへやった』って聞いてきたんだってさ〜。
 今回のガルバディアの作戦って、“魔女を捕らえること”が目的だったらしくてさ〜。
 とりあえずレジスタンスの女の子達を片っ端から捕まえてたみたいだよ。ひどいことするよね〜。」
「アーヴィン、そういうこと言ってええの〜?」
「僕は女の子の味方だからね〜。ガルバディアにだって、ティンバーの独立を願う人間はたっくさんいるんだよ〜」
「…スコール、かな…? 私を探してるのかもしれない」
「リノア…?」
「あのね、今回のこと、私達全然知らなくて、今聞かされて初めて知ったことなの。
 キスティスや新人SeeD君たちが突然アジトにきたことしか、私覚えてなくて…」
「スコール、も…?」
小さく頷き、そのままリノアは俯いてしまった。ゆっくりと顔を上げたリノアは必死に涙をこらえながらも笑顔を見せた。
「でもよかった!無事なんだ、きっと。
 …でも、レジスタンスのみんなは大変なことになっちゃった。捕まったのって、リーダー格の人ばかりって言ったよね。
 …みんな、よく知ってる人たちばかりなの。…みんな、ごめん…私のせいで…」

アーヴァインの服の片袖が、誰かに引かれた。
振り返った先には、先ほどからこちらの会話をじっと聞いていた2人の少年。
「…パパ、スコールって、誰?」
「…ぱぱ…?」
「魔女戦争の英雄、だよね?ママ」
「まま!?」
落ち込んでいた気持ちは驚きとともにどこかへ消えてしまった。
そして思い出す。2人の結婚式を。
「あれ〜?リノア知らないんだっけ?この2人」
「え、だって結婚式ってついこの前…」
「リノア、もう10年経つんよ!しっかりしい!あんた今いくつになってん!」
「…あ、そう、だね…。ごめん、なんか時間の感覚がわかんなくなっちゃって…」
苦笑いを見せるリノアのこの言葉の意味を、この時は誰も深いものだとは感じていなかった。

「スコール、ね、もしかしたらエスタに向かったのかも…」
「…エスタ?なんで?」
「…もし私が捕まったらどうなるんだろうって、話をしたことがあって…」
「研究所…?」
頷くリノアを見た瞬間、また袖口が引かれる。
「研究所って、何をするところさ?」
「リノアさんと関係があるの?」
「あ、…そ、それは…えーと…」
セルフィとアーヴァインは互いに顔を見合わせて返答に詰まった。
「…わたし、魔女なの」
しばらくの沈黙の後、2人の少年は顔を見合わせて突然笑い出した。
「面白い姉ちゃんだな、あんた!」
「す、すいません、つい…。でもまさか!!」
2人には、リノアの告白が冗談にしか聞こえなかったようだ。
「もう、魔女なんてこの世にはいないはずですよ。僕たちが生まれる前に終わった魔女戦争で、みんないなくなったと聞きました。」
「あんたたち、嘘や思てんのか?リノアはなぁ…」
「セフィ!」
セルフィの言葉を遮ったアーヴァインにはっとして思わずリノアを見た。
「ごめんな、リノア…」
「…ううん、仕方ないよね。…そうだよね、あの戦いが終わってから生まれてきた子供たちにはもう関係ない、過去の出来事でしかないんだもの」
未だに笑いが止まらない2人の少年を部屋の外に押しやりながら、アーヴァインが顔だけこちらを向けた。
「ごめんね〜、リノア。この子たちには僕からちゃんと話してきかせるからさ。じゃあ、ゆっくり休んでね〜」

「スコールに、会いたい…。ティンバーの街がどうなったのか、知りたい。」
半ば無理やり押し倒すように、リノアを寝台に押し付け、強引に頭から毛布をかぶせたセルフィは、口調を荒くして寝るように言った。
「ええから、リノアは今はゆっくり休んどき!」
「セルフィ…」
「スコールのことも、ティンバーのことも、そんなに気になるんやったら、調べたる! 私かて、ここの教官なんやで!ドンと任しとき!」
「わ、セルフィ、頼もし〜!」
再びリノアが眠りに落ちるまでの短い時間、2人は楽しい時を過ごした。


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